最後の一線

日本人女性の目(フリー写真)

ある意味怖く、ある意味笑っちゃうような話なのだが…。

俺が高校一年生の時の話だ。

この頃はもう両親の関係は冷え切っていて、そろそろ離婚かな…という感じの時期だった。

俺はと言えば、グレる気にもなれず、引き篭り気味の生活を送っていた。

授業が終わると、真っ直ぐ家に帰って自室に直行。飯も自室で一人で食っていた。

それでだ、見ちまった。母親が夜中に、庭の立ち木に何かを打ち付けているのを。

直感的に、親父の藁人形かと思ったが、その場では確認しなかった。

と言うか動揺しちまって、こそこそ逃げ帰るように自室に戻った。

見たくないモン見ちまったな…というのが、この時の心境を一番よく表していると思う。

その時は確認出来なかったけど、動揺が収まるに連れて、気になって仕方無くなって来る。

あれは親父の人形なのか?

それで母親が留守の間を見計らい、確認する事にした(やめときゃ良かったのかもネ)。

結論から言うと、親父の藁人形はあった。

より正確には、親父の藁人形『も』あった、だが…。

いや出るは出るは…親父の他にも俺の担任、親戚の叔母ちゃん、近所のオバはん、同級生の母親…ダンボール箱半分くらいあった…。

釘と名前を書いた札が刺さっている藁人形が…。

「何やってんだよ母ちゃん…」

と、呟いたかどうかは生憎記憶が確かではない。

そう思っただけで、実際には言葉になっていなかったのかも。

頭の中が真っ白になっちまって、ボーッとしていただけかも知れない。

この時もやはり見つからないように片付けると、こそこそ自室に逃げ帰ったっけ。

暫くは呆然としていたと思うんだけど、少し時間が経つと、何でか知らんが笑いが込み上げて来た。

ヘヘヘッ…から始まった笑いだったが、最後の方は大爆笑になっていた。笑いが止まらなかった。

もしも藁人形の中に俺の名前があったとしたら、この時、俺は笑い死にしていたかも知れない。

「母ちゃん!最後の一線を踏み止まってくれたおかげで、アンタの息子は笑死しないで済んだよ!アンタの中の一片の良識に感謝したい!」

ああもう何ちゅーか、色んな事がもうどうでも良くなっちゃた一件だった。

俺があれこれ悩んだり心配したりしたって、現実はそんな杞憂の遥か上っちゅーかネ!

俺のちっぽけな世界観を粉砕するには充分過ぎる出来事だった。

人間というのはよく解からない生き物だとも思った。

もうね!変な幻想なんか見ないで、即物的に生きるのが一番だと思った。

腹が減ったら飯食って、疲れたら寝て、飯と寝床のために機械的に働いて…動物みたいに…。

そう思っているのに、何故だかこんな話を書き込んでる自分が居る。

人間というのは本当によく解からない。

関連記事

田舎で起きた事件

これは実際に起こった事件にまつわる話。 今から15年前、俺は当時10歳だった。 俺の地元は山形県の中でも更に田舎なところで、ご近所さんはみんな親戚みたいなものだった。 …

リンフォン

先日、アンティーク好きな彼女とドライブがてら、骨董店やリサイクルショップを回る事になった。 俺もレゲーとか古着など好きで、掘り出し物のファミコンソフトや古着などを集めていた。買う…

夜の山(フリー写真)

奇妙な祠と女の子

高校2年生の頃の実体験を書きます。 夏休み中のある日、俺と友人A、B、Cは、唐突にキャンプに行こうと思い付いた。 そして以前、渓流釣り好きのCの親戚から聞いた、キャンプに最…

野球のバッター(フリー写真)

避けられない未来

都内のある高校に、ちょっとした怪談が流行った事がありました。 「校舎の横に植えてある手前から四番目のポプラの木を、夕暮れ時に見に行くと、 頭蓋骨が転がっている事があり、そ…

警察官

巡査さんの秘密

これは父から聞いた実際に起こった事件の話です。 15年前、10歳だった私の地元は山形県のさらに田舎で、ご近所さんは親戚のような存在でした。 戸締りすらしないほどの穏やかな…

んーーーー

現在も住んでいる自宅での話。 今私が住んでいる場所は特にいわくも無く、昔から我が家系が住んでいる土地なので、この家に住んでいれば恐怖体験は自分には起こらないと思っていました。 …

抽象模様(フリー画像)

ヤドリギ

あまり怖くなかったらすまん。ちょっと気になることが立て続けにあったんで聞いて欲しいんだ。 自分は子供の頃からオカルトの類が大好きでな、図書館などで読んでいたのは、いつも日本の民話…

広島県F市某町の『お札の家』

2年程前の話ですが、つい最近完結した話があるので書いていこうと思います。 長くなりそうで申し訳ないのですが、霊感0の自分が唯一味わった霊体験です。 広島県F市某町、地元の人…

くねくね

これは小さい頃、秋田にある祖母の実家に帰省した時のことである。 年に一度、お盆にしか訪れる事のない祖母の家に着いた僕は、大はしゃぎで兄と外に遊びに行った。やっぱり都会とは空気が違…

小屋の二階

俺がまだ大学生だった頃、サークルの仲間と旅行に行った。 メンバーの殆どが貧乏学生だったので、友達に聞いた安い民宿で泊まることにした。 民宿のすぐ隣に古い小屋みたいな建物が建…