最後の一線
公開日: 死ぬ程洒落にならない怖い話
ある意味怖く、ある意味笑っちゃうような話なのだが…。
俺が高校一年生の時の話だ。
この頃はもう両親の関係は冷え切っていて、そろそろ離婚かな…という感じの時期だった。
俺はと言えば、グレる気にもなれず、引き篭り気味の生活を送っていた。
授業が終わると、真っ直ぐ家に帰って自室に直行。飯も自室で一人で食っていた。
それでだ、見ちまった。母親が夜中に、庭の立ち木に何かを打ち付けているのを。
直感的に、親父の藁人形かと思ったが、その場では確認しなかった。
と言うか動揺しちまって、こそこそ逃げ帰るように自室に戻った。
見たくないモン見ちまったな…というのが、この時の心境を一番よく表していると思う。
※
その時は確認出来なかったけど、動揺が収まるに連れて、気になって仕方無くなって来る。
あれは親父の人形なのか?
それで母親が留守の間を見計らい、確認する事にした(やめときゃ良かったのかもネ)。
結論から言うと、親父の藁人形はあった。
より正確には、親父の藁人形『も』あった、だが…。
いや出るは出るは…親父の他にも俺の担任、親戚の叔母ちゃん、近所のオバはん、同級生の母親…ダンボール箱半分くらいあった…。
釘と名前を書いた札が刺さっている藁人形が…。
「何やってんだよ母ちゃん…」
と、呟いたかどうかは生憎記憶が確かではない。
そう思っただけで、実際には言葉になっていなかったのかも。
頭の中が真っ白になっちまって、ボーッとしていただけかも知れない。
※
この時もやはり見つからないように片付けると、こそこそ自室に逃げ帰ったっけ。
暫くは呆然としていたと思うんだけど、少し時間が経つと、何でか知らんが笑いが込み上げて来た。
ヘヘヘッ…から始まった笑いだったが、最後の方は大爆笑になっていた。笑いが止まらなかった。
もしも藁人形の中に俺の名前があったとしたら、この時、俺は笑い死にしていたかも知れない。
「母ちゃん!最後の一線を踏み止まってくれたおかげで、アンタの息子は笑死しないで済んだよ!アンタの中の一片の良識に感謝したい!」
※
ああもう何ちゅーか、色んな事がもうどうでも良くなっちゃた一件だった。
俺があれこれ悩んだり心配したりしたって、現実はそんな杞憂の遥か上っちゅーかネ!
俺のちっぽけな世界観を粉砕するには充分過ぎる出来事だった。
人間というのはよく解からない生き物だとも思った。
もうね!変な幻想なんか見ないで、即物的に生きるのが一番だと思った。
腹が減ったら飯食って、疲れたら寝て、飯と寝床のために機械的に働いて…動物みたいに…。
そう思っているのに、何故だかこんな話を書き込んでる自分が居る。
人間というのは本当によく解からない。