小さな猫のぬいぐるみ

PA024549

先日、成人式後の同窓会で聞いた話。

T君はお父さんを小学生の頃に事故で亡くし、それからずっと母子家庭。

T君自身はそんな環境どこ吹く風と言った感じで、学級委員をやったりサッカー部の主将を務めたりと、文武両道に大活躍な学生時代を送っていた。

彼のお母さんもまた底抜けに明るく世話好きで、たまの休みの日にはT君やT君の友達を車に乗せて水族館に連れて行ってくれたり、サッカーの試合の応援にも来てくれるような人だった。

今でもT君とお母さんは仲が良いけれど、昨年T君が関西の大学に入学するのを機に、家を出て独り暮らしすることになった。

お母さんも独立には大賛成で、「しっかり勉強してくるのよ!」と激励の言葉で送り出した。

そして巣立ちの日に「寂しくなったりめげそうになったら、これをお母さんと思って頑張りなさい」と、手作りの小さな猫のぬいぐるみを手渡したそうだ(T君は無類の猫好きだった)。

見知らぬ土地で新たな生活を始めたT君。

一人暮らしを始めてから1ヶ月程経ったある日の夜、就寝中に突然目が覚めた。

意識がはっきりしてきた途端、『胸の上に誰か座ってる!』と直感したそうだ。

しかし体が動かない。目を開けようとしても、瞼もピッタリ閉じられたまま開かない。

『これが金縛りか』と自分でも意外なほど冷静に思ったそうだ。

ただ、胸に重しが乗っているように重くて苦しい。

長い間ウンウン唸っていたら、いつの間にかまた寝ていて、次に目が覚めた時は朝になっていたと言う。

部屋の中に異常は無く、誰かが侵入した痕跡もない。

その日から、T君は度々夜中に金縛りに遭うようになっていった。

お陰で寝ても疲れが取れず弱ってしまったT君は、ある日、藁にもすがる思いでお母さんにもらった例の猫のぬいぐるみを手に持ったまま寝たそうだ。

お守り代わりと考えたんだろう。

しかし、その夜もまた金縛りにかかった。

T君は渾身の力で手に持った人形をぎゅーっと握り締めた。

すると、それまで固く閉じられていた目がフッと開いた。

T君の目に映ったのは、T君の胸の上で正座して、じっとこちらを見つめる寝間着姿の女の姿だったという。

「ヒィッ」と息が漏れるような悲鳴を上げて、T君は気絶したそうだ。

そして夜が明け目が覚めると、全身汗びっしょり、右手にぬいぐるみを力いっぱい握っていたという。

金縛りは1ヶ月程で起らなくなったそうだ。

「慣れない環境での初めての独り暮らしで、精神的に参ってたのかもね」とT君は笑った。

「良い話じゃん。お母さんがぬいぐるみを通して、T君を守ってくれたんじゃない?」と言うと、T君は少し考えてから言った。

「それはどうかな。だって俺の上に乗っかってた女、どう見ても母さんだったからなぁ」

関連記事

ダークな抽象模様(フリー画像)

情け

苦しんでいる霊達が居たら全部救ってやれば良いのに、と考えるのは、霊感の無い人間の思考であると実感した体験談。 ※ 高校時代のある日、友人Aが相談をして来た。 夜道で霊らしきも…

青木ヶ原樹海(フリー素材)

青木ヶ原樹海探索記

自分は卒業旅行で富士の樹海に行った大馬鹿者です。 わざわざ九州から青春十八切符を使い、普通列車を乗り継いで…。 とにかく幽霊を見たいという目的で、友人と二人で二日掛けてのの…

ミンキーモモ

10年程前の話です。当時学生だった私は、友人とドライブに出かけました。昼間にも関わらず「横須賀の心霊スポットを見に行こう」というものでした。 場所は、ご存知の方はマニアと呼ばれる…

カーテン(フリー写真)

少年とテレビ

これは僕の姉が、今の旦那と同棲中に体験した話です。 姉は何年か前に、京都の市内にあるマンションに旦那さんと住んでいました。 当時旦那さんは朝早い仕事をしており、毎朝5時には…

目の不自由な女性

就職して田舎から出てきて、一人暮らしを始めたばかりの頃。会社の新人歓迎会で、深夜2時過ぎに帰宅中の時の話。 その当時住んでいたマンションは住宅地の中にあり、深夜だとかなり暗く、ま…

病院の老婆

一年程前の話です。当時、私はとある病院で働いていました。 と言っても看護師ではなく、社会福祉士の資格を持っているので、リハビリ科の方でアセスメントやケアプランを作ったり、サービス…

そこを右

あるカップルが車で夜の山道を走っていた。 しかし、しばらく走っていると道に迷ってしまった。 カーナビもない車なので運転席の男は慌てたが、そのとき助手席で寝ていたと思った助手…

一途な思い

僕の家の隣に女の子が越してきたのは小四の夏休みだった。彼女の家庭にはお父さんがいなかった。 お母さんは僕の目から見てもとても若かったのを覚えている。違うクラスになったけど僕と彼女…

柿の成る家(フリー素材)

ジロウさん

23年程前の話。 俺の地元は四国山脈の中にある小さな村で、当時も今と変わらず200人くらいの人が住んでいた。 谷を村の中心として狭い平地が点在しており、そこに村人の家が密集…

コトリバコ(長編)

序 暇なときにここを読んでいる者です。俺自身、霊感とかまったくありません。ここに書き込むようなことはないだろうと思ってたんですが、 先月起こった話を書き込もうかと思いここに来ました。一応…