電脳に棲む神

公開日: 怖い話 | 洒落にならない怖い話

fbs1920

大学時代の友人の話。

そいつは結構なオタクで、今でも某SNSにガチオタな話題をバンバン日記に書くようなSE。

この前、たまたま新宿で会って「ちょっと茶でも飲もうや」ということになった。

人身事故か何かで駅が混んでいたから時間を潰したいらしい。

社会人として一年上のそいつ(以下、T)に新入社員としてのイロハを色々聞いたり、最近ハマっていることなどをお互いに話したりしていたんだが、どういう訳か神様の話になった。

俺は母方が神道、父方が仏教なので、やれ仏教は葬式が高い、神道は○○家ノ奥都城(おくつき)という墓なんだとか、そんな話をしていた。

Tは「ほうほう」と俺の雑学に頷いてたり、感心してくれたりしていたんだが、俺の話が一段落するとニヤリと笑って「俺、多分神様飼ってるかもしれん」とか言い出した。

俺「『あなたは神を信じますか?』的な流れだったらはっ倒すぞ(笑)」

T「いやいや、それじゃねぇよ(笑)」

と前置きして話してくれた。

エクセルって「↓」ボタンを押し続けると延々と下にカーソルが行き続けるよな?

俺、この間、家でちょっと仕事しながらネットでアニメを見てたのよ。

アニメ見るのがメインだろって? まあまあ(笑)。

んで気づかないうちにウインド切り替えて、エクセルの「↓」ボタンを押しっぱにしていたのよ。

結構時間が経ってたからもう縦列が4000とかになってやんの(笑)。

それでいきなりエクセルのウインドが黒くなってんの。そこでようやく押しっぱにしてるんに気付いたんだけどね。

何だろう、エクセルってドロップすると黒く反転するじゃん。その反転で絵が描いてあるの。

たまごっちみたいな白黒のドット絵を想像してくれると解りやすいかな。

何というか犬というか狐というか猫というか…そんな感じの顔?

ほら、俺ってかわいいもの好きじゃん(笑)。

なんか消すのが忍びなくてさ~。アニメ見終わるまで放置してたのよ。

それで、アニメ見終わってもう一度エクセルに切り替えたら、そいつ大きく口開けた感じになっててさ。

あくびしてる雰囲気よ。

かわいくね?

正直、この段階で俺は少し引いていた。

仕事がきついのを某SNSで読んでいたから、ついに心を病みラブプラスだけでは足りず、妄想のペットを創り出したんじゃないかと本気で思った。

ただ、話自体がなかなか面白かったので、俺は「んで、なんでそれが神様なのよ」と先を促すことにした。

以下、再びTの話。

いや、俺、幽霊とかよく見るからさ。

これもそっち系かなあと漠然と思ったわけよ。

それで、特に深い意味も無く、その絵の真下の空白に「3月の○日(日付は失念したが、同人誌のイベントがあったらしい)に休みください」って書いたのよ。

予定ではプロジェクトど真ん中で、有給どころか土日も休めないレベルなのにね。

そしたら次の日、何か相手先の担当が事故ったらしく、その日一日だけピンポイントで調整のため俺休み。これすごくね?

家に帰ってそのデータを開いてみたら、書いたはずの俺のお願いが消えててさ。

『あれ? 保存ミスったかなあ』とか思ってたの。

とりあえず、次のお願いは美味い酒が飲みたいって書いたの。小市民的に(笑)。あんまり大きな願いを書くと反動がありそうな気がするから。

そしたらさ、なんか父ちゃんの友人が亡くなったとかで、そのお返しが良い洋酒らしくて。

うちの両親は下戸だから、俺の方にその酒が回ってきて。うまかったなあ。

俺「すげーじゃん」

T「めちゃくちゃ疑ってますな(笑)」

俺「いやいや、俺は信じてますよ。今まで君のことは50回くらいしか疑ったことないすよ(笑)」

T「おい(笑)。でも今日こうやって話してるのも神様のお陰だからな」

俺「なんでだよ」

T「いや、最近大学時代のやつらとあんまり遊んでないからさ。神様に『大学の友達と会いたい』って書いたのよ。そしたら人身事故でしょ? 俺、本当ならこの時間家でネットしてるかアキバぶらついてるぜ(笑)」

そこで急に背筋が寒くなった。

こいつの願いが叶う原因って何だ?

休みが取れたのは相手の怪我。

酒が飲めたのは、身内の知人の不幸。

今日話しているのは人身事故。

これって考えれば、他人の不幸の恩恵を受けているのが原因じゃないか。

今でこそ小さな願いだが、もしこれが大きな負の願望だったら? 例えば誰かを殺したいほど憎んだとしたら?

例えばこんな世界滅んででしまえば良いと思ったら?

神様は今もTの作った電脳の世界に居る。

関連記事

古民家(フリー写真)

幸恵

戦後すぐのお話。 哲夫という田舎の青年が、カメラマンになるために上京しました。 哲夫には幸恵という恋人が居ました。 幸恵は両親の反対を押し切り、哲夫と一緒に上京。貧し…

自首した理由

俺の親戚に元刑務官って人がいる。 その人が言うには、刑務官の仕事って受刑者を監視する事じゃなくて、受刑者に人の温かみを教えるのが本当の仕事らしい。 そんな叔父は時間があれば…

夜の山道

ヤマメ

あれは母の実家から帰る途中での出来事。 母の実家はG県の田舎で、夏はキャンプ、冬はスキーをする人が来るような山の中。 お盆の時期になり、母が祖父の家に帰るらしいので、3人で…

漫画の並ぶ本棚

ネットカフェの隅で

少し前のことだ。俺は三日間連続でネットカフェを利用していた。 とはいえ、36時間以上の連続利用は禁止されているため、一度強制的に追い出される仕組みになっている。それまで俺は、マ…

千寿江(長編)

もう色々済んだから、書かせてくれ。かなり長い。 父親には妹がいたらしい。俺にとっては叔母に当たるが、叔母は生まれて数ヶ月で突然死んだ。原因は不明。 待望の娘が死んでしまい、…

コンビニ

大晦日の白い影

1999年の大晦日、深夜の出来事です。 私は煙草を買うため、少し離れたコンビニへ出かけました。 住んでいる地域は田舎で、昔の街道筋を思わせるような古めかしい木造建築の家が…

玄関(フリー写真)

住職さんへの相談

友達の母さんが運転中、前の車にぶつけてしまった。 保険屋を通しての賠償は勿論、直接相手の元へ出向いたりと誠心誠意、謝罪をした。 しかし、このぶつけてしまった相手というのがね…

田舎の風景

隠された風習

私の父方の親族が住む田舎には、1960年代初頭まで、他では聞かない特殊な風習が存在していました。 この風習は、一般的な生贄や飢饉によるものではなく、ある種の宗教的な儀式、供養の…

終わらない鬼ごっこ

これは俺が小学校6年の時に、同じクラスのSって言う奴との間に起こった出来事です。 コイツはいつも挙動不審で訳の分からない奴だった。事業中はいつも寝ていて給食だけ食べていつも帰って…

棲家

9歳の時引っ越した私の家には何かが居た。 主に私の部屋で、金縛りはしょっちゅう起きるし、色んな人の声もする。 壁の中からだったり、寝ている自分の上や枕元、ベッドの下からなど…