長袖の下に

snf69g

小学校の時に転校してきた奴で、少し変わった奴がいた。

家はやや貧乏そうで、親父さんがいないみたいだった。

お袋さんは2、3回見たことがあるけど優しそうで普通に明るい人だった。

ただ変わっていたのは、そいつがどんな真夏でも絶対に長袖を着続けていた事だった。

寒がりって訳ではなかった。夏休み前とか、長袖シャツに半ズボンで学校に来てたし。

あと、プールの授業にも絶対出なかった。

何か体にコンプレックスがあるのかなと気付いてきた頃、クラスの悪ガキ達の間で、そいつをよくからかうようになった。

その長袖シャツを剥ぎ取ろうと、みんなでからかったんだ。

ある日、そいつが無性に怒り出して暴れて、そいつの指が俺の目に入った。

俺は涙がボロボロッと出てきて、他の奴らはそれに感化されてカンシャクを起こして、数人で本気になってそいつの服を剥ぎ取った。

そうしたら、そいつの右腕にヘンな物が…。

『うまれてきてくれてありがとう(ハートマーク)だいすきなわたしのあかちゃん○○くん(ハート)

ままはとってもうれしいです(ハート)いいこにそだってね(ハート)○○ままより(ハート)』

と、少し歪んだ刺青が施されていた。

お袋さんの、お手製だったのかな。

そいつは、その後しばらくしてまた転校してしまった。

それから一回も会ってないけど、今はどこにいるんだろう?

今はそいつも俺と同い年の25歳か…。

刺青の文面はうろ覚えだし、なにしろかなり歪んでたので、結構適当です。

全部ひらがなとハートマークだけだったのは覚えてます。

ハートマークは赤だったか黒だったか…。

この刺青を彫っている時に、「この子は将来大人になる」って当たり前のことは考えつかなかったのか…。

でも、可愛いだけの名前を子供に付ける親の心境も一緒なのでしょうか。

サイコさんの行動は基準にならないか…。

関連記事

癒しの手

不思議なおっさん

自分が小学生の頃、近所で割と有名なおっさんがいた。 いつもぶつぶつ何か呟きながら町を徘徊していた人だった。 両親も含めて、奇妙な人だから近寄らない方が良いと誰もが言っていた…

山

ヤマノタミ

俺の父方の祖先は九州の山奥の領主だった。 これは父が自分の祖父から聞いた話(つまり俺にとっての曽祖父。以下曽祖父)。 ※ 曽祖父の両親は田舎の名家ということもあって、かなり厳…

鏡(フリー素材)

呪いのコンパクト

以前、井戸の底のミニハウスと、学生時代の女友達Bに棲みついているモノの話を書いた者です。 「巣くうものシリーズ」で纏めてもらったので、説明は省略します(※これまでの流れについて、…

事件事故

父親が道警勤務で、事件事故は親父の出動の方がニュース速報よりも早い。だから事件事故は「親父の仕事」のイメージが強かったりする。 でも、豊浜トンネルの崩落のときはちょっと違った。 …

ある蕎麦屋の話

JRがまだ国鉄と呼ばれていた頃の話。 地元の駅に蕎麦屋が一軒あった。いわゆる駅そば。 チェーン店ではなく、駅の外のあるお蕎麦屋さんが契約していた店舗で、『旨い、安い、でも種…

夜の住宅街

山に棲む蛇

20年前、山を切り開いた地に出来た新興住宅地に引っ越した。 その住宅地に引っ越して来たのは私の家が一番最初で、周りにはまだ家は一軒もなく、夜は道路の街灯だけで真っ暗だった。 …

林(フリー写真)

墓地に居た女性

霊感ゼロのはずの嫁が、5歳の頃に体験した話。 嫁の実家の墓はえらい沢山ある上に、あまり区画整理がされておらず、古い墓が寺の本堂側や林の中などにもある。 今は多少綺麗に並んで…

目(フリー素材)

犯罪者識別能力

高校の時の友達に柔道部の奴がいて、よく繁華街で喧嘩して警察のお世話になっていた。 そいつは身長185センチで体重が100キロという典型的な大男。名前はA。 性格は温厚で意外…

霧のかかる山(フリー写真)

酒の神様

去年の今頃の時期に結婚して、彼女の実家の近くのアパートに住んでいる。 市内にある俺の実家から離れた郡部で、町の真ん中に一本国道が通っており、その道を境に川側と山側に分かれている。…

毟られる髪

中学時代、怪談ゲームを通して怪談話が好きになり、よく自分に構ってくれる母方従兄弟に怪談をせびってました。 従兄弟は新しいもの好きで、ロンゲメッシュと当時では珍しい格好、友達も多く…