黒い鳥居

石段

これからするお話は、今から20年以上前、僕が中学生の時の話です。

当時の僕は悪い先輩達と付き合いがあり、暴走やタバコ、シンナー等、不良っぽい事をして意気がる田舎ヤンキーでした。

その日は学校をさぼり、町外れにある無人の神社に二人の先輩(アキさん、コウさん)とタムロっていました。

バイク談義も一段落し、そろそろたまり場に帰る雰囲気になっていたのですが、アキさんが「この神社の裏山に遺跡みたいなのがあるらしいから行ってみよう」と言い出したのです。

見ると確かに裏山の奥へ続く石段がありました。

僕は基本的に先輩に付いて行くタイプだったので、「いっすよ」てな感じでしたが、コウさんはだいぶラリっており「だりー、お前ら行って来ていいよ。俺はここで待ってるから」と言って待つことに。

僕も実は面倒臭いと思っていましたが、アキさんに付いて石段を登り始めました。

その裏山は多分高さが20~30メートル程で、夏ではありましたが石段をトンネルのように木が覆い、涼しさすら感じます。

緩やかな石段を登りつつ、世間話をしながら5分程登りました。

するとまだ上がありそうなのに草木が石段を隠し始め、かなり長い間人が立ち入っていない様相を呈し始めたのです。

「…アキさん、遺跡とかないっすね」

「でも、まだかなり上まで続いてそうだなこの階段。ひょっとして頂上まで行くんちゃうか? 展望台みたいのがあったりして!最後まで行ってみようぜ」

……アキさんにこんな趣味があったとは…意外に思いながら更に登ります。

草は既に腰の高さまで伸び、一歩づつ踏み倒しながらでないと進めません。

つづら折れを曲がったところで異様な物が目に入りました。

殆ど草に隠れていましたが、鉄柵が道を塞いでいるのです。

赤錆びて今にも朽ち果てそうなその鉄柵には、『立入禁止』のプレートが架けられていました。

やはりかなりの時間の経過を感じさせる程錆に侵食されながら…。

立入禁止と言われたなら、もう僕らとしては立ち入らない訳にいきません。

「この先には何かびっくりするような面白いモノがあるに決まってる!」

アキさんと僕は少し興奮しながら、崩れ落ちそうな鉄柵を乗り越え頂上を目指しました。

………今思えばここで引き返していれば、あんな忌まわしい出来事に遭わなくて済んだのでしょうが、あの時の僕らは何か得体の知れない力によって死の淵へと導かれているようでした…。

神社前の通りから山を見るのと実際登るのとは大違いで、小高い丘くらいに思ってたのがこんなに深い森だったとは…。

鉄柵から更に15分程登り、ようやく頂上付近と思われる場所まで来ました。

大分前から石段は途切れ、広い獣道みたいな坂に変わっています。

半径30メートル程の開けたその場所は、木々に陽光が遮られ薄暗く、下界からの音すら聞こえない薄ら寒い雰囲気をたたえ僕らを迎え入れました。

しかし、そんな事より誰の目から見ても明らかに異様な物がありました。

それは僕らが期待していた廃墟などではなく…。

その場所の中央ど真ん中に鳥居が立っていたのです。

普通サイズよりかなり小さな高さ2メートルくらいの鳥居です。そして何故か真っ黒に塗られています…。

草むらの中にぽつんと立つその鳥居は実に気味悪く、見てはいけないものを見てしまったような、そしてここに居てはいけないような気分にさせられました。

「おい…なんか不気味なとこに来ちまったな」

「なんか保護文化財みたいなやつじゃないですかね? だから立入禁止とか」

「夜とかシャレにならんなここ」

僕らはさっきまでの興奮など忘れ、急に馬鹿馬鹿しくなって山を降りる事にしたのです。

僕が先に立って降り始めました。いや、そのはずだったのです。

しかし降り始めてすぐアキさんが居ない事に気が付きました。

「あれ? アキさん?」

振り返ると先輩は何故か例の鳥居に向かってガサガサと歩いて行くではないですか!

不思議に思いながら見ていると、鳥居の下をくぐり抜けその先の森へ…。

「アキさん!どこ行くんすか!?」

聞こえていないのかそのまま森へ入って行きます。

その時、僕の耳元で

「オイ、オマエモ…」

と男の声がはっきり聞こえたのです。

次の瞬間、アキさんが消えるのを見ました。崩れ落ちるように消えたのです。

『消えた…? まさかコケたんやろ…でも今の声何や?』

その場の異様な空気もあり、悪夢でも見ているようでした。

先輩を助けなければとは思いましたが、あの鳥居がどす黒い怨念を放っている気がして、とても近付く気になれません。

足が勝手に逆方向へと進んで行きました。

その時「オ~イ!○○~!」と僕を呼ぶ声が聞こえました。

『コウさんだ!迎えに来てくれた!』

夢中で声のする方へ一歩踏み出した瞬間、僕はアキさんに何が起こったのか理解しました。

踏み出した先は高さ10メートルの崖でした。

目が覚めると病院の一室でした。

僕は手首の骨を折り、脳震盪で気絶していたそうです。

アキさんは腰と大腿骨を折り重傷でした。

アキさんが言うには「確かにお前の後ろを歩いて行ったのに、途中でフッと消えた」との事。

コウさん曰く「お前らが遅いから心配になって見に行ったら、お前が降りて来るのが見えた。声をかけたらいきなり崖から飛び降りて、気が狂ったかと思ったわ」との事。

警察にも色々聞かれました。そしてあの場所は…150年前の刑場だったみたいです。

以前は首斬り坂と呼ばれた曰く付きの場所でした。神社もその関係で建立されたものだとか。

そんな場所で騒いで霊を怒らせてしまったのでしょうか。

…でも、一番不思議なのがあの鳥居の事です。

あれからそこには近付いていないのですが、山頂に鳥居など存在しないらしいです。

僕らは一体何を見たのでしょう……。


note 開設のお知らせ

いつも当ブログをご愛読いただき、誠にありがとうございます。
今後もこちらでの更新は続けてまいりますが、note では、より頻度高く記事を投稿しております。

同じテーマの別エピソードも掲載しておりますので、併せてご覧いただけますと幸いです。

怖い話・異世界に行った話・都市伝説まとめ - ミステリー | note

最新情報は ミステリー公式 X アカウント にて随時発信しております。ぜひフォローいただけますと幸いです。

関連記事

公衆トイレ

いつも

高校生の時、俺は腸が弱かった。故に学校に行く時は少し早く出て、途中の汚い公衆便所で用を足す事が多かった。 その公衆便所は駅を降りて、通学路からは少し外れた所にある森の中にある。 …

廃屋

廃屋での恐怖体験

小4の時の話。 多分みんな経験があると思うけれど、小さい頃って廃屋があると聞いただけで冒険心が疼いて仕方ないと思うんだ。 俺自身もあの日は家からそう遠くない場所に、まだ探検…

指輪(フリー素材)

指輪

以前、井戸の底のミニハウスと、学生時代の女友達Bに棲みついているモノの話を書いた者です。 実は学生時代の話はもう一つあり、それについて最近判ったことがあったので投稿します。 …

夜の森(フリー写真)

慰霊の森

岩手県にある慰霊の森。 かつて飛行機の墜落事故があり、それ以降は心霊スポットとしても有名である。 これは俺の先輩がそこで体験した話。 ※ ある夜、先輩は友人達と集まって…

アパート

幻夢と現実の狭間で

20年以上前のことですが、聞いてください。友人が住む三畳一間の月3万円のアパートに遊びに行ったときのことです。冬の寒い日でしたが、狭い部屋で二人で飲んでいると、そこそこ快適でした。し…

相乗り

僕が小学の低学年の時に、親におつかいを頼まれました。 おつかいを済ませて、オートロック式の自宅マンションの暗証番号を押し扉を開けて、エレベーターホールに向かい、エレベーターが降り…

和室

死守り

俺のじじいは柔道五段、がっしりした体格で、土と汗の臭いのするでかい背中。日に焼けた顔。 俺がろくでもないことをする度にぶっ飛ばされた、荒れた手。 素直じゃなくて憎まれ口ばか…

リョウメンスクナ

俺、建築関係の仕事やってんだけれども、先日、岩手県のとある古いお寺を解体することになったんだわ。今は利用者もないお寺ね。 それでお寺ぶっ壊してると、同僚が俺を呼ぶのね。「ちょっと…

女性のフリーイラスト

晴美の末路

へへへ、おはようございます。 今日は生憎天気が悪いようで。あの時もちょうど今日みたいな雨空だったな。 あ、いえね、こっちの話でして。え? 聞きたい? そんな事、誰も言ってな…

山(フリー写真)

山に魅入られる

小学校5年生の頃、私が祖母の家に遊びに行った時の話。 当時は夏休みになると祖母の家に何週間も泊まりに行くのが定例となっていて、地元の子供達とも夏休み限定の友人として結構打ち解けて…