盛り塩

病室

俺が足を怪我して入院していた時、俺より早くから入院していた奴と仲良くなった。

ある日、消灯後に喫煙所でダベっていると「あ~、部屋帰りたくね~」と言う。

俺と奴は病室が違う。誰か気の合わない奴が病室にいるのかと思いそう聞くと、「いや、そんな事もないよ」と言う。

「ただジイさんがさ~」と顔をしかめるので「確かに年寄りって気難しい人いるよな」と話を合わせると、「いや、生きてるジジイならどうでも良いんだ」と言う。

俺は話が見えないので「はあ?」と聞くと、奴は話し始めた。

入院して暫く経った頃、消灯後に喫煙所から部屋に戻ろうとエレベーターを出て病室前の廊下に出ると、暗い廊下にお爺さんが一人、病室の入口前でボーっと突っ立っていた。

『ボケちゃってるのか、邪魔だな』と思い、「すいません、通りたいんですけど」と声を掛けても何も反応が無い。

奴は無視されたと思い、ムッとして「どけよっ」と多少声を荒げたんだけど、やっぱり無視。

もう強引に通るしかないなと思い肩をこじ入れようとしたら、無抵抗で通れた。

『エッ』と思って振り返ると、その爺さんは焦点の合わない目で奴の顔を見ている。と言うより、奴の頭のもっと後ろを見ている感じだったそうだ。全くの無表情で。

奴は『ヤバイ!』と思い、急いで自分のベッドに駆け込むと、布団に潜り込んでブルブル震えていた。

そして朝が来て看護師さんが検温に来た時、奴は聞いた。

「ここって…お爺さん、いるよね?」

そしたらその看護師はバツの悪そうな顔をして、

「あ~見ちゃった? 貴方、見えちゃう人なんだ…」

と言った。

奴はそれからもその病室に入院し続け、俺と仲良くなった。

奴が言うには、

「段々中に入ってるんだよ。昨日夜中に小便したくなって起きたら、俺のベッドの脇に立ってるんだよ。今日はどうなってるか考えると病室戻りたくないんだよ」

俺は笑うしかなかったな。

「取り合えず盛り塩して寝ろ」としか言えなかった。

でも、その事が結局奴を救った事になったのかもしれない。

次の日に話を聞いたら結構ヤバかった。

俺が話を聞いた夜、奴と奴の病室前まで行った。

「いる?」と俺が聞くと「いや、もう廊下にはいないよ。いるとしたら窓際だな」と言う。

入口から覗き込むと6人部屋で、一番奥の窓際の右手が奴のベッド。

「どう?」ともう一度聞いたが、奴は「今日は出ない日かも」と言う。

俺は「何だよ、作り話かよ」と笑いながら言うと、奴は固い表情のまま「塩を小皿に入れとけば良いの?」と聞いてきた。

「お前、塩なんて持ってるの?」

「この間彼女に持ってきてもらった」

「じゃあ皿に入れておけば良いんじゃね」

などと話して、俺は自分の病室に帰った。

俺はその日、何事もなく寝た。

次の日の朝、喫煙所で煙草を吸っていると、奴が青い顔をしてやって来た。

「ヤバかったよ…」

俺が挨拶する前に奴は話し出した。

奴の話によると、枕元に塩を入れた小皿を置いて寝たんだと。

なかなか寝つけなかったけど、気が付いたら夢を見ていたらしい。

その夢を要約すると、気が付くと古い藁葺き屋根の大きい民家の玄関前にいた。

玄関を上がると大きな土間だった。上がり框の向こうは畳み敷きの部屋があり、その向こうに障子が閉まっていた。

その障子を開けて進むと、四方が障子で区切られた部屋だった。

また奥へ進むと同じように四方が障子の部屋。

その奥へ入ったら、突き当たりに大きな仏壇のある部屋だった。

右手が障子。左手も障子。

左手はとても嫌な感じがしたので、右手に行きたかった。

どうしても右手に行きたいんだけど、体が引っ張られるように左へ行ってしまう。

「嫌だ、右に行くんだ、行くんだ」と叫んでも、強い力で左へ行かされる。

とうとう左手の障子を開けてしまうと、とても明るい場所だった。

ほっとして部屋を出る時、耳元で

「チッ!しくじったかっ!」

と野太い声が吐き捨てるように呟くのが聞こえ、ハッとして目が覚めたら朝だった。

起き上がって塩を入れた小皿を見ると、塩がぐちゃぐちゃのゲル状みたいに溶けていた。

「あのまま右に行ってたら、俺どうなってたんだろう…」

奴の質問に答えられる言葉は俺にはなかったな…。

関連記事

抽象画

息子を迎えに来ますからね

知人のおばあさんは我が強くて恐い人だけど、自分の母親の話をする時だけは顔つきが穏やかになる。その人から聞いた昔話が原因の出来事。 ※ そのおばあさんの母親(仮にAさんとする)は、お…

自衛隊での体験談

ちょっと専門用語が多いので分かり難いかもしれない。 高校卒業後すぐに自衛隊に入隊した俺だったんだが、7月の後期教育のある日、駐屯地にある小さい資料館の掃除があったんだ。 班…

茶封筒

不思議な預かり物

これは大学の先輩が体験した実話。 その先輩は沖縄の人で、東京の大学の受験のため上京していた時のこと。 特に東京近郊に知り合いもいなかったので、都内のホテルに一人で宿泊してい…

中身はミンチ

Nさんは、鋼材関係の専門の現場作業員だ。 会社勤めではないが、色々と資格を持っているおかげで、大手企業の下請けや手伝いをやっている。 人集めを任されることもあるが、そんな時…

事故現場

交通事故の現場で、両足がちぎれた男の子に、お母さんが物凄い形相で笑いながら、 「どうせ死にますから!殺しましょ!ね!それが正しいでしょ!ね!殺そ!ね!どうすんの!こんなん助かって…

ヨウコウ

俺の爺ちゃんは猟師なんだけど、昔その爺ちゃんに付いて行って体験した実話。 田舎の爺ちゃんの所に遊びに行くと、爺ちゃんは必ず俺を猟に連れて行ってくれた。 本命は猪なんだけど、…

自動販売機

赤いランドセルの少女

私の大学は結構な田舎でして、羽根を伸ばす場所がこれと言ってありません。 そういう事情に加え、学生の多くが車を所有していることもあり、必然と連れ立ってドライブに行くことが遊びの一つ…

小島(フリー写真)

海女さんの心霊体験

私は23歳で、海女歴2年のあまちゃんです。 泳ぐのが好き、結構儲かる、という理由でこの仕事をしていますが、不思議な体験をした事があります。 ※ 海女になりたての頃、自分に付い…

煙草を持つ手(フリー素材)

マイルドセブン

先月、仕事で千葉のホテルに一週間ほど滞在した。そこは普通のビジネスホテルで、滞在2日目の夜の事。 タバコが切れたので階に設置されてる自販機で買おうと部屋を出て、自販機の所まで来た…

そこを右

あるカップルが車で夜の山道を走っていた。 しかし、しばらく走っていると道に迷ってしまった。 カーナビもない車なので運転席の男は慌てたが、そのとき助手席で寝ていたと思った助手…