朽ち果てた神社の夢
公開日: 怖い話 | 死ぬ程洒落にならない怖い話
二十年前から現在まで続く話。
俺は当時大学生で、夏休みに車で田舎の実家に帰省していた。
その時は、普段帰省時に通っている道とは別の道を通って行った。
見渡す限りの山や田んぼに囲まれた、いかにも田舎という感じの道を暫く運転していると、少し先の山の入り口のような所に、赤い鳥居が建っているのを見かけた。
とても寂れた雰囲気が気に入ったので車を停め、ぶらりと立ち寄ってみる事にした。
赤い鳥居をくぐると、勾配のきつい石段があり、山の上の方まで続いていた。
人気は全く無く、周りは木々に囲まれていて薄暗く、石段にはびっしりと苔が生えていたため、足元に気を付けながら登って行った。
階段を登り切ると、すぐ目の前に小さな社があった。
もう何十年も人の手が入っていなかったのだろうか、その社は酷く朽ち果てていた。
折角なので手を合わせ参拝した後、石段を下りて、実家に帰省した。
その時は特に何も無かった。
※
しかし、その日から変な夢を見るようになった。
夢の中で俺は例の神社へ行き、鳥居をくぐって石段を登り、社の前で参拝して、石段を下る…。
そんな風に全くあの時と同じ行動をしていた。そして三日三晩、それと同じ夢を見た。
流石に気味が悪くなったが、四日目以降はその夢を見る事は無くなった。
まだ気にはなっていたものの、その後は特に何事も無く過ごしていた。
※
それから十年以上経ち、結婚もし、子供は居なかったがそれなりに幸せな日々を過ごしていた。
あの神社も不可解な夢の事も、すっかり忘れていた。
※
ある年のお盆に、嫁と実家に帰る事になった。
途中で近道をしようと見知らぬ山道を進んで行ったせいで、道に迷ってしまった。
途方に暮れていると、お婆さんが道端を歩いていたので、道を聞くとニコニコしながら丁寧に教えてくれた。
お婆さんに挨拶をして、教えてもらった道を暫く運転して行くと、見覚えのある道に出た。
安心感よりも、凄く嫌な気持ちが大きかった。何故なら、その道は例の神社がある道だったからだ。
しかし戻る訳にも行かないので、そのまま進む事にした。
※
赤い鳥居が見えて来た。俺は気にせず通り過ぎようとしたが、赤い鳥居の前に誰かが居る。
見てはいけないと思いながら見ると、さっきのお婆さんだった。
お婆さんはニコニコしながら、こちらをずっと見ていた。
俺は怖くなって車のスピードを上げ、すぐにその場所から去った。
暫くするといつも通っている道に出て、少し安心した。
しかし、ふと助手席に居る嫁を見ると、嫁の顔が蒼白になっていた。
『アレを見たのか?』とは口に出さず、どうしたのか聞いてみると、何かおかしい。
嫁が言うには、確かに鳥居の前に人が居るのを見たが、俺が見た『お婆さん』ではなく、嫁が高校時代に自殺した同級性の女だったと言うのだ。
自殺の原因はいじめらしく、嫁は直接はいじめに加担していなかったが、見て見ぬ振りをしていたとの事だった。
しかし、ずっとその事を気にしていたらしい。
俺は嫁に気のせいだよと諭しながら、気丈に振る舞いながらも『あのお婆さんが俺達をあの神社に誘ったのか?』など、色々な事を考えながら運転していた。
俺はあの神社の事や、俺が見たのはお婆さんだった事などは嫁に黙っていた。
とにかく凄く怖かった。
※
その日から、嫁が夢を見るようになった。
詳しく内容を聞くと、例の神社へ行き石段を登ると、社があって…。
実際に神社へ行った訳でもないのに、俺がかつて見た夢と同じだった。ただし大きく違う点が二つあった。
一つは、参拝して帰ろうと振り向くと、目の前に例の自殺した女が現れて、そこで目が覚める事。
もう一つは、もう数十日経っているのに同じ夢を見続けている事だ。
嫁の元気はどんどん無くなり、病院へ連れて行くと鬱と診断された。
殆ど寝られていないせいか、目も虚ろになっている時が増えた。
※
俺があの神社に立ち寄って参拝してから十数年、ようやく理解した。
俺はずっと祟られていたのだと。
今思えば、あの道は帰省時に絶対通るはずのない道だった。
なのに何故か、通ってしまった。何かに呼び寄せられたのか?
とにかく嫁には本当に申し訳ない事をしたと思っている。
更に数年が経った今でも、かつての幸せな日々は戻って来ない。
嫁が自殺しないか常に気を配る毎日だ。