奇妙な祠と女の子

夜の山(フリー写真)

高校2年生の頃の実体験を書きます。

夏休み中のある日、俺と友人A、B、Cは、唐突にキャンプに行こうと思い付いた。

そして以前、渓流釣り好きのCの親戚から聞いた、キャンプに最適そうな山の中の河原の場所を聞き出し、そこへと向かった。

しかしどうも途中で道を間違えてしまったらしく、Cの親戚が言うのとは別の河原に到着してしまった。

ただし、そこも十分キャンプ出来そうな立地だった。

対岸は森だがこちら側には小石が沢山あり、雑草も殆ど無い開けた場所で、ジメジメ感も無く非常に快適そうだった。

夕方までにはある程度準備が出来て、その辺をぶらぶらしていたAとCが

「おい、何かちょっと先の対岸に変な祠みたいなのがあるぞ」

と言いながら戻って来た。

俺とBが2人に連れられてその場所に行ってみると、確かに対岸に石造りの小さな祠があった。しかし、何か変だ。

祠というのは普通、手前に鳥居などがあると思うのだが、そういうものは何も無い。

それに祠と言えば通常四角形で、横か正面から見ると三角の屋根だと思うのだが、それは円柱形で屋根は丸かった。

とにかくかなり奇妙な形をしていて、遠目には祠に見えたのだが、近くで見ると何か違うもののようにも見える。

そして更に注視して見ると、祠の根元にまだ萎れていない花が供えられていて、どうも最近誰かが来たような痕跡がある。

祠はかなり苔むしていて、相当な年代物のようだ。

掃除などされている様子も無いのに変だなとは思ったが、誰もそれ以上興味を示す事は無かった。

取り敢えず晩飯の準備をしようという事で、キャンプ場所へ戻る事にした。

晩飯を食い終わり、そろそろ辺りが暗くなり始めた頃、晩飯の後片付けをしていると、どこからか

「てー…」

という声が聞こえて来た。

俺の隣に居たAに、

「お前、何か言った?」

と言うとBは

「いや? 何も言ってないけど」

と言い、少し離れた所に居たBとCにも同じように聞いてみたのだが、どちらも何も言っていないと言う。

『変だな? 気のせいかな?』などと考えていると、またどこからか

「てー…」

という声が聞こえて来た。

今度はA、B、Cにも聞こえたらしく、Bが

「今の何?」

と聞いてきた直後、Cが

「おい、あそこに誰か居るぞ」

と、ちょうど祠のあった辺りの、こちら側の岸を指差した。

そこには着物を着た十歳くらいの女の子らしき人影が居り、両手で顔を覆い、時々

「てー…」

と喋っている。

するとAが、

「何だあれ、気持ち悪いな。親はどこだよ」

と言いながら女の子に近付き、

「こんな所で何しているんだ? そろそろ暗くなるから、親の所に帰った方が良いぞ」

と言うと、女の子は両手で顔を隠したまま、Aに

「見たい? 見たい?」

とケラケラ笑いながら聞いて来た。

Aはちょっとムカついたのか、

「ふざけてないで親の所に帰れよ!」

と強い口調で言いながら、女の子の手を掴んで顔から離した瞬間…。

俺たちはAの陰になって見えなかったのだが、女の子の顔を見たらしいAが突然叫び声を上げ、その場に倒れ痙攣し始めた。

そして女の子はまた両手で自分の顔を覆い、今度は俺たちの所へ歩いて来て、またケラケラと笑いながら

「見たい? 見たい?」

と言っている。

俺とBとCはかなり混乱したが、それよりもAがヤバそうなのでAの所へ向かい、

「おいA、大丈夫か? 声聞こえるか?」

と呼び掛けたのだが、Aは呼び掛けても反応が無く、まだ僅かに痙攣している。

Cが、

「おい、何かAやべーよ。それにあの子供、何だよ!訳解んねーよ!」

と言うと、女の子に掴みかかろうとした。

俺はCもAのようになったらやばいと考え、Cに

「やめろって。それよりAだ、あいつをまずテントに運び込もう」

と説得し、三人でまだ意識の戻らないAをテントに運び込んだ。

その間も女の子は俺たちのほうを向き、

「見たい? 見たい?」

とケラケラ笑いながら質問し続けていた。

テントの中に運び込んだ頃には、Aは痙攣こそしなくなっていたが、まだ意識は戻らず呼び掛けにも答えない。

仕方なく三人でこれからどうするべきかを考えたのだが、もう既にかなり暗くなって来ているので、Aを連れて夜の山道を歩くのは危険と判断した。

それで携帯で警察に電話をし、助けてもらう事にした。

その間、女の子はテントのすぐ横にやって来て、今度はまた最初のように

「てー…」

と声を発している。

女の子の方も気になるし、怖いが、それよりも全く意識を取り戻さないAが心配だった。

俺たちは警察に連絡しようと携帯を取り出したのだが、昼間確認した時には通じていたはずなのに、今見てみると圏外になっている。

BとCも同じで、Aの携帯も確認してみたのだが、やはり圏外だ。

かなりやばい状況になってしまった。

Aがこんな状態では下手に出歩けないし、何より外には何かやばそうな女の子が居る。かと言ってAをこのままにはしておけない。

外からはまだ、

「てー…」

という声が聞こえて来る。

どうやら俺たちを諦める気は、やつには無いらしい。

するとBがかなり落ち着いた口調で、外の女の子に対して

「お前、何なんだ? Aに何したんだ?

俺たち、何かお前の気に触るような事をしたのか? そうなら謝るから許してくれよ」

と説得するように呼び掛けたのだが、まるでそんな事は意に介さないのか、また

「見たい? 見たい?」

とケラケラ笑いながら質問して来るだけだった。

このままこうしていても埒が明かない。そう考えた俺が、

「俺が走るの結構速いの、みんな知ってるよな? このままこうしていても何も進展しない。

確か結構広めの道から林道に入って、ここに来るまで30分くらいだったよな。なら長めに見積もっても2キロも無いはずだ。

夜道とは言え、走れば7~8分、長くても10分もあれば舗装された道路に出るはず。

そこまで出られれば携帯が繋がるだろうし、繋がらなくても通った車に助けを求めれるはず。だから行って来る」

と提案した。

BもCも危険だからやめろと最初は反対したのだが、このままだとAがどうなるか分からないし、今は夜の8時過ぎ。

これから日の出まではゆうに7、8時間ある。

それまで薄いテントのビニール一枚隔てて、正体不明の相手に対して篭城するなど明らかに無茶だし、俺自身そんな状態に耐えられそうにない。

そのことはBもCも解っていたのだろう。1時間以内に戻って来る、戻って来ない場合にはCとBで探しに行くという条件付きで納得してくれた。

外からは相変わらず、

「てー…」

という声が聞こえて来る。

かなり怖くて足が竦んだが、俺は勇気を振り絞って外に出た。

するとすぐ横から、

「見たい? 見たい?」

と声が聞こえて来て、ビビりまくった俺が声のする方向に懐中電灯を向けると…。

懐中電灯に照らされて、俺の真横1メートルも無いほど近くにやつが居る。

そして、ケラケラと笑いながら顔から手を離そうとした。

俺は大慌てでやつから視線を逸らし、そのまま来た道を懐中電灯の明かりを頼りに全力疾走した。

舗装されていない道路なので走り難いと思ったが、車も通れるくらいの林道で轍もあり、結構踏み固められているらしく、それほど走り難くも無い。

これなら予想よりも早く道路に出られるかもしれない。

そんな事を考えながら走っていると、突然道の先の方に人影が見えた。

『え?』と俺が懐中電灯で照らすと、それは例の女の子だった…。

『そんな馬鹿な、ありえない!』

もう500メートルくらいは走ったはずだし、追い付ける訳が無いのだが、現実に目の前に女の子は存在している。

そしてまたケラケラと笑いながら、俺に

「見たい? 見たい?」

と言いながら、顔から手を離そうとしている。

俺は視線を逸らすと、女の子を見ないように避けながらまた走り出した。

付いて来ようが来まいが、道路にさえ出てしまえばこっちのものだ、という自信があったからだ。

それからどれくらい走っただろうか、少し先の方に車のヘッドライトが通り過ぎて行くのが見えた。

もうすぐ道路に出られるようだ。

少しほっとした直後、何かに足を掴まれ、俺は転んでしまった。

訳が解らず足元を見てみると、有り得ないことだが何も無い。何も無いはずなのだが、明らかに俺の足は何かにしっかりと掴まれている感触がある。

しかもその『見えない手』はかなり力が強く、振り解こうにも解けない。

俺が何とか脱出しようと藻掻いていると、少し遠くから

「てー…」

と聞き覚えのある声がして来た。

『やばい、この状況でやつに来られるのはかなりやばい…』そう思い、何とか振り解こうと藻掻いた。

しかしタチの悪い事に、その手は見えないだけではなく、こちらからは触る事も出来ない。何度か手のあるだろう場所を蹴ったのだが、全てスカってしまった。

そんな事をしている内に、女の子は既に俺の背後にまで来たらしく、真後ろから

「見たい? 見たい?」

という声が聞こえて来る。

俺はもう死に物狂いで無理矢理立ち上がり、足を掴まれたまま強引に歩き出した。

そして何度も何度も転びながら、少しずつ前へと進んでいたのだが…。

ふと顔を上げた時に、女の子が顔から手を離して素顔を見せるところを、ほんの一瞬だが見てしまった。

その時、俺は今まで感じた事の無いような絶望感と恐怖心を感じ、意識が遠のきそうになった。

ただ見たのが一瞬で、すぐに目を逸したのが良かったのか、辛うじて意識は残っており、そのまま這うように道路まで出てフラフラと立ち上がった。

しかし、それ以上もう一歩も歩けない。何と説明すれば良いのか、眩暈がして頭の中がぐるんぐるん回っていると言えば良いのか…。

そんな感覚と、理屈では説明出来ない恐怖心で体がガタガタと震え、もう立っているのがやっとで、一歩も足を前へ踏み出す事が出来ない。

無理に歩こうとすれば、足を掴まれていることもあり、確実に倒れてしまうだろう。

そして倒れてしまったら、もう二度と起き上がれない事も十分予想が出来た。

そこへ運の良い事にトラックが通り掛かった。

俺は意識が遠のきそうになるのを必死で堪え、全力で手を振り助けを呼んだ。

するとトラックは、少し俺から通り過ぎた所で停まってくれた。

その時、俺の背後から例の女の子の声がした。

「残念、残念」

と…。

俺はもう眩暈のせいで気持ち悪くなり立っては居られず、その場にへたり込んだ。

そしてトラックの運ちゃんに、この道の先に友達が居て助けを求めている事だけを告げると、そのまま意識を失ってしまった。

なのでその後、どうなったのかは全く知らない。気が付くと俺は、病院のベットに寝かされていた。

後から聞いた話によると、このトラックの運ちゃんが警察と救急車を呼んでくれたらしい。

その後、無事にAもBもCも救助され、意識の無いAも俺と同じ病院に運び込まれたのだが、俺と同じくらいのタイミングで意識を取り戻したらしい。

ちなみに助けてくれたトラックの運ちゃんが、仕事帰りに見舞いに来てくれたので色々と事情を話したのだが、俺以外の人影は一切見なかったらしい。

そういう事なので、目撃者が俺たちだけだった事もあり、警察にも同じ事を話したのだが結局信じてもらえず、俺たちは親からかなり叱られた。

まあ、あんな話をしたら嘘を吐いていると思われても仕方が無いので、仕方が無いと言えば仕方が無いのだが…。

以上が、俺達が数年前の夏休みに体験した事の全てです。

一応、後日談的な事として、例の女の子の顔を見てしまったAに何を見たのか聞いてみた。

A曰く、はっきりと見たはずなのに、何を見たのか思い出せないと言う。

俺と同じような感覚と眩暈に襲われ、そのまま意識を失ったらしい。

それは俺もほぼ同じで、女の子の顔をチラッとだが見たはずなのだが、その部分の記憶がまるですっぽりと抜け落ちたかのようになっていた。

見たという記憶があるのに、何を見たのかが思い出せないという、かなり奇妙な状態になっていた。

祠や着物の女の子の事に関しても、四人で夏休み中の余暇を使って色々と調べてみたのだが、結局何も判りませんでした。

そもそも地元の人達ですら、あそこに祠のようなものがある事を知らなかったということで、そうなると俺たちが見た祠に供えられた花は何だったのでしょうか…。

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