記憶の中の友人
公開日: 死ぬ程洒落にならない怖い話
結婚式の衣装合わせで、某有名ホテルに行った時の事。
ロビーで偶然、中学時代の同級生に会った。
昔は凄く痩せていて病弱で、暗い女の子という印象だったが、今ではふっくらと普通の人になっている。
何よりよく笑い、よく喋る。
もっと驚いたのは、ホテルのスイートに泊まっていると聞いた事。
「上でお茶でも飲もうよ」
と言われるままに上階へ。
※
凄く良い部屋だったから最初はかなりビビったけど、落ち着いてよく見ると何か生活臭らしきものを感じた。
「え…まさかここに住んでるの?」
恐る恐る聞いてみても、彼女は笑っているばかりで何も答えない。
そう言えば、彼女は高級ホテルらしからぬ普段着を着ている。
とても浮いた感じがして、ロビーで見た時から違和感があった。
※
ルームサービスでお茶とケーキを頂き、そろそろ帰ろうという時、
「あ!そうそう、いいもの見せてあげる」
彼女は突然そう言うと、嬉しそうに奥のベッドルームに向かい部屋の鍵を開けた。
部屋の中は薄暗く、窓には厚手のカーテンが引いてある。
「ごめんね、電気点けない方がいいと思って…」
部屋の真ん中にベッドがあり、周りには医療器具のカートみたいなものが置いてある。
部屋中に汚れた脱脂綿みたいなものが散らばっていた。
ベッドには髪の長い裸の女の人がピクリとも動かず、背を向けて座っていた。
今だに混乱していて記憶が曖昧なのだが、大きなオムツをしていたような気がする。
その女性には腕が片方しか無いように見えた。
非現実的な光景を前に呆然と立っていると、すぐに部屋から押し出された。
「あの人は誰?」
率直にそう尋ねてみたが、
「うん、知り合いなの」
と彼女は笑うばかり。
急に自分が彼女の事を全く知らない事に気が付いて、凄く怖くなってしまった。
しどろもどろに別れの挨拶をして、逃げるように帰った。
※
彼女はあたふたする私を楽しんでいるような感じだった。
その後、何度もそのホテルに行かなければならなかったが、もう一度彼女を訪ねる勇気はとても無かった。
※
あれから色々考えたが、もし彼女が何かの犯罪に関わっていたなら、わざわざ私に知らせる訳は無いし、何かの事情があったのだと思う。
確か中学時代の彼女は、高齢の母親との母子家庭だった。
老いた母親の介護かとも思ったが、ベッドルームに居た女の人はどう見ても若い女の人だった。