夜の学校

公開日: 心霊体験 | 本当にあった怖い話

夜の学校

小学6年生の夏休み直前の話。その日、僕は肝試しに誘われていた。

メンバーは友達の新堂君、荒井君、細田君、僕の4人。舞台は学校だった。

昼休みに新堂君が通用口の鍵を開けたとのことで、僕たちはそこから侵入した。

「うちの学校って七不思議ないよね」

「でも、元々墓場だったっていうのは聞いたよ」

「ありがちだよね。墓場って土地が安いから学校とか建てるのに都合がいいんだって」

そんな話をしながら僕たちは廊下を進んでいた。目指していたのは音楽室。

肖像画の目が動いたり、ピアノの音が聞こえてきたら面白いからというのが理由だった。

音楽室は3階の端。歩くたびに反響する足音のせいで、なんだか後を付けられているような気がしていた。

音楽室の扉を触ってみると鍵が掛かっている。

「なんだ、鍵を用意してないのかよ。詰めが甘いなー」

一般の教室には覗き窓があったが、理科室や家庭科室など、特別な部屋の扉に付いている窓は擦りガラスだった。

中を窺うこともできない。もちろんピアノの音なんて聞こえなかった。

「つまんねー。帰ろうぜ」

険悪なムードが漂っていた。

「あの…僕…トイレに行きたくなっちゃった」

細田君が言った。

僕も実はさっきから催している。

「それじゃ、校門で待ってるから早く済ませて来いよ」

僕と細田君はトイレに行くことにした。

小用を足していると、細田君が個室の方を気にしている。

「なんか…変じゃない?」

「そうかな?」

ちゃんと扉は閉まっている。何もおかしいことなんてないじゃないか…。

用を足し終えても細田君の様子はおかしかった。

「やっぱり変だよ。僕たち電気点けた?」

そうだった。照明は点いていたが、僕はスイッチに触っていない。

思い返せば、トイレに入る前から点いていたような気がする。

「キイイイイイ…」

その時、一番奥の個室の扉が動いた。

「うわああああああああ!」

僕たちは一目散に飛び出した。

校庭で校舎の方を振り向くと、3階の窓から誰かがこちらを見ているようだった。ちょうど僕たちが逃げて来たトイレの辺りだ。

叫び声を上げ校舎から逃げて来た僕たちを笑って見ていた新堂君と荒井君だったが、校門を飛び越えて走り過ぎて行く様子を見て、慌てて追いかけてきた。

公園まで逃げるとようやく落ち着き、二人が何が起こったのかと訊ねてきたので、僕たちはトイレでの出来事を話した。

新堂君はくだらないと帰ってしまったが、荒井君はその場に居合わせなかったのを残念がっていた。

翌日の放課後、僕たち4人は職員室へ呼び出された。

昨日の当直は担任の風間先生だったらしい。

「トイレで用を足していると叫び声が聞こえた。用を終えて外を見たとき、校庭を走り去る君たちを見つけた」

なんだ…電気を点けたのも個室の扉を開けたのも、あの人影も全部先生だったのか。

「学校によっては警察を呼ぶところもあるんだぞ。やって良いことと悪いことの区別くらいつけなさい。もうすぐ中学生になるんだから」

先生は決して怒鳴らなかったが、切々と僕たちを諭した。僕たちは深く反省した。

「しかし…どこから入ったんだ?」

「あの…通用口です。昼休みの間に開けていて…」

「おかしいなあ…授業が終わって確認した時にちゃんと閉めたぞ? あれから見回りをした時も閉まっていたし…」

その時は先生の気のせいなのではないかと思っていた。

職員室を出ると、細田君が確かめたいことがあると言い、僕をトイレに誘った。何やら気分が悪そうだった。

怪異の正体が先生だったことに安心していたので不可解に思ったが、断ることもないかと付いて行った。

だが、トイレに入ってから付いて来たことを後悔した。

4つある個室の扉は開いていたのだ。金具に付属しているバネのために、鍵をしない限り閉まることはないのだ。

つまり、扉は開いている方が普通なのだ。あの時、全ての扉が閉まっていた。

一つには先生が入っていたとしても、他の扉が閉まっているのはおかしい。

他の個室には誰が入っていたのだろう…。

僕たちは顔を見合わせ、以来そのことについては触れないようにした。

今思うと、あの時に扉を開けたのも先生ではないのだと思う。

先生は用を足している時に叫び声を聞いたと言った。個室から出る時ではなく…。

宿直室は1階だ。見回りは僕たちを見つけた後だと言うし、3階のトイレを使うというのは不自然だ。

それに鍵を開ける音は無く、ただ扉の開く音だけが聞こえてきた。

もしあのまま待っていたら、何が出てきたのだろうか。

現在、母校は少子化のため他の学校と合併してしまい、取り壊されてしまった。

もはや確認する術はない。

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