夜釣りでの恐怖体験
友人から聞いた話。
彼がヘラブナ釣りに嵌まり始めた頃のこと。
夜中に無性に竿が振りたくなり、山奥のため池へ出掛けたのだという。
餌の準備をしていると、向こう岸に誰かが立っていることに気が付いた。
月明かりの下で、髪の長い女がこちらをじっと見つめていた。
それで思わず目を見返してしまったのだそうだ。
すると、女は水辺に向かって歩を進め始めた。
足が水に入っても、歩みを止めない。
ざぶざぶと水音を立てながら、やがてその姿は完全に水中に没してしまった。
危ないものを見たと直感し、すぐに撤収を始めたという。
※
片付け終わると、もう一度池の水面を見やった。
いきなり、数メートル先の水面に黒いものが浮かび上がった。
濡れた女の頭だった。
彼女が池の底を歩いて来たことを理解するや否や、彼は猛然と車へ逃げ帰った。
※
車に乗り込んだ時、バックミラーに歩み寄って来る影が映った。
即座にエンジンを掛け、山を下りたらしい。
その日は真っ直ぐ家に帰る気がせず、明け方までファミレスで時間を潰したそうだ。
彼は「二度と夜釣りには行かない」と言っている。