迷宮と煙草
私は都内で雑誌関係のライターを担当しています。
多岐にわたるテーマの記事を手がけるため、日常は刺激に満ちていると言えるでしょう。
その中で、オカルト関連の記事は、読者からの好評はもちろん、私自身が不思議な体験をすることも少なくありません。
とある日、私は東京郊外の大学病院へ取材に訪れました。
この日のテーマは健康に関するもので、病院の先進的な治療法についての取材でした。
協力してくれる医師とのインタビュータイムは13:30から14:30までと予定されていました。
インタビューは順調に進み、医師と少しの間、軽く雑談を楽しみました。
そして、15時を迎えたところで、私は小会議室を後にしたのです。
病院の建物は山の斜面に建てられ、旧館と新館という二つの部分に分かれていました。
坂の途中に位置するため、一見して全体の構造が分かるわけではありませんでしたが、到着時には迷うことなく目的の場所へと辿り着けたので、帰りも大丈夫だろうと安心していました。
しかし、その予感は甘かったようです。
時計を見れば、既に15:40。
病院の複雑な構造に翻弄され、旧館の駐車場への出口を探し続けるものの、一向に見当たりません。
私は混乱しつつも歩き続ける中で、背後から何かの気配を感じました。
振り返ると、そこには若い看護師が空の車椅子を押しながら歩いていました。
短い一瞬の出会いでしたが、その後も何度か彼女の姿を目にすることとなる。
17時を過ぎた頃、私は異変に気づきました。
病院内には誰一人として姿が見えないのです。
ただ、あの看護婦だけが時折、私の周囲を漂うように現れる。
突如として、その看護婦が私の直後を歩いていることに気づきました。
空の車椅子を押す彼女は、無表情で私に接近。
心臓が飛び出るかと思うほどの恐怖を感じながらも、彼女は私をすり抜け、どこかへと消えていきました。
驚きのあまり、私は反射的に逃げ出しました。
そして、再び小会議室の前へと辿り着くと、そこで一息つき、煙草を手に取りました。
不思議なことに、煙草を一服した後、問題なく病院の出口へと到達しました。
家に帰ると、出版社からの新しい仕事の資料が待っていました。
その中には、同じような迷宮体験をした女性の手記が。
彼女もまた、煙草を一服したことで迷宮から解放されたとのこと。
煙草が持つ特別な力、それは未だに謎のままです