
友人と、上野の国立西洋美術館へ展覧会を見に行った。
その企画展の半券を持っていると、常設展も観覧できる仕組みだった。
入場の際にもぎられた半券を、俺はいつものクセでGパンの前ポケットに突っ込んだ。
その様子を、同行していた友人もはっきり見ていた。
※
展覧会を見終え、「久しぶりに常設展も見ていくか」と入口まで行ったときのことだ。
係員に半券を見せようとポケットを探ったら、そこにあるはずの半券がない。
ポケットの中身をすべて取り出し、裏返して縫い目まで確認したが、やはり見当たらない。
念のため、鞄の中身も全部出してひっくり返してみたが、どこにもない。
友人が「ポケットに入れたの見たけど、どこかで落としたのかもね」と言う。
仕方なく、常設展のチケットを買い直そうと財布を取り出しながら、もう一度だけポケットに手を入れてみた。
すると――半券が、そこにあった。
さっきまで空っぽだったはずの場所に、いかにも最初から入っていましたと言わんばかりに収まっている。
友人は「え? 今、このポケット、裏返して見せたよね?」と目を丸くした。
しかも、その半券は企画展用のわりと大きな紙なのに、折り目ひとつ付いていない。
一部始終を見ていた常設展入口の係員まで、ポカンと口を開けていた。
※
数日後、同じGパンをはいて某イベントに出かけた。
会場は人いきれで蒸し風呂のように暑く、俺は大量の汗をかいていた。
友人が「これ使えよ」とフェイスタオルをくれたので、便利だからとGパンのポケットにねじ込んでおいた。
しばらくして汗を拭こうとポケットに手を突っ込むと、タオルがない。
さっきの半券の件が頭をよぎり、念のためポケットを裏返してみたが、やはり何も入っていない。
「もらったばかりなのに、どこかで落としたのか」と、がっくりしながら歩き出した。
そのとき、ポケットのあたりが「もこっ」と内側から盛り上がったような感触がした。
驚いて手を入れると、さっきまでなかったはずのタオルが、そこに押し込まれていた。
畳めばそれなりの厚みのあるタオルが、さっきまで影も形もなく、それでいてシワ一つ増えていない。
暑さのせいで幻覚でも見ているのかと疑ったが、手に触れる感触はあまりにも現実的だった。
※
後日、この話をネットの掲示板に書き込んだところ、「四次元ポケットか。いいな」と茶化された。
「どこのブランドのジーンズだ?」と真顔で聞いてくる人もいた。
しかし、俺がはいていたのは、近所のダイエーで買った安物のジーンズだ。
高級ブランドどころか、ラベルの名前すらよく覚えていない。
便利な機械や宝くじの当たり券が出てくるわけでもなく、叩けばビスケットが増えるわけでもない。
ただ、半券とタオルを一時的にどこかへしまい込み、忘れた頃に戻してくるだけの、妙なポケット。
それでも、誕生日プレゼントでもらったタオルも、美術館の半券も、最終的には無事に戻ってきた。
今のところ、このGパンで不思議なことが起きたのは、その二回だけだ。
それ以来、洗濯してクタクタになった今でも、このジーンズだけはなかなか捨てられずにいる。
もしかしたら、また何かが出たり消えたりするんじゃないか――そんな気がしているからだ。