四次元ポケットを持つジーンズ

四次元ポケット

友人と、上野の国立西洋美術館へ展覧会を見に行った。

その企画展の半券を持っていると、常設展も観覧できる仕組みだった。

入場の際にもぎられた半券を、俺はいつものクセでGパンの前ポケットに突っ込んだ。

その様子を、同行していた友人もはっきり見ていた。

展覧会を見終え、「久しぶりに常設展も見ていくか」と入口まで行ったときのことだ。

係員に半券を見せようとポケットを探ったら、そこにあるはずの半券がない。

ポケットの中身をすべて取り出し、裏返して縫い目まで確認したが、やはり見当たらない。

念のため、鞄の中身も全部出してひっくり返してみたが、どこにもない。

友人が「ポケットに入れたの見たけど、どこかで落としたのかもね」と言う。

仕方なく、常設展のチケットを買い直そうと財布を取り出しながら、もう一度だけポケットに手を入れてみた。

すると――半券が、そこにあった。

さっきまで空っぽだったはずの場所に、いかにも最初から入っていましたと言わんばかりに収まっている。

友人は「え? 今、このポケット、裏返して見せたよね?」と目を丸くした。

しかも、その半券は企画展用のわりと大きな紙なのに、折り目ひとつ付いていない。

一部始終を見ていた常設展入口の係員まで、ポカンと口を開けていた。

数日後、同じGパンをはいて某イベントに出かけた。

会場は人いきれで蒸し風呂のように暑く、俺は大量の汗をかいていた。

友人が「これ使えよ」とフェイスタオルをくれたので、便利だからとGパンのポケットにねじ込んでおいた。

しばらくして汗を拭こうとポケットに手を突っ込むと、タオルがない。

さっきの半券の件が頭をよぎり、念のためポケットを裏返してみたが、やはり何も入っていない。

「もらったばかりなのに、どこかで落としたのか」と、がっくりしながら歩き出した。

そのとき、ポケットのあたりが「もこっ」と内側から盛り上がったような感触がした。

驚いて手を入れると、さっきまでなかったはずのタオルが、そこに押し込まれていた。

畳めばそれなりの厚みのあるタオルが、さっきまで影も形もなく、それでいてシワ一つ増えていない。

暑さのせいで幻覚でも見ているのかと疑ったが、手に触れる感触はあまりにも現実的だった。

後日、この話をネットの掲示板に書き込んだところ、「四次元ポケットか。いいな」と茶化された。

「どこのブランドのジーンズだ?」と真顔で聞いてくる人もいた。

しかし、俺がはいていたのは、近所のダイエーで買った安物のジーンズだ。

高級ブランドどころか、ラベルの名前すらよく覚えていない。

便利な機械や宝くじの当たり券が出てくるわけでもなく、叩けばビスケットが増えるわけでもない。

ただ、半券とタオルを一時的にどこかへしまい込み、忘れた頃に戻してくるだけの、妙なポケット。

それでも、誕生日プレゼントでもらったタオルも、美術館の半券も、最終的には無事に戻ってきた。

今のところ、このGパンで不思議なことが起きたのは、その二回だけだ。

それ以来、洗濯してクタクタになった今でも、このジーンズだけはなかなか捨てられずにいる。

もしかしたら、また何かが出たり消えたりするんじゃないか――そんな気がしているからだ。

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