帰らない友人
うちの近くに、背の高い草が茫々に生い茂った空き地がある。
陽の光が当たり難いだけでなく、元から妙に薄暗いため、非常に不気味な場所だ。
そんな場所は、やはり小中学生には格好の肝試しスポットになる。
これは俺がまだ小学生だった頃、その場所で実際に体験した出来事だ。
※
空き地には、重いが決して動かせない訳ではない石板が置いてある。
何人かの友人達と必死になってその石版をどかしてみた。
すると…、階段があった。地下へ続く、謎の階段…。うーん、ミステリー!
俺達はとんでもない大発見をしたと喜び勇み、階段を駆け降りた。
当然、中はとても暗かった。そこで、最も家が近かった者がライトを取りに戻った。
※
しばらくして、友人はライトを持って戻って来た。ライトを点けて、周りを見渡してみる。
訳の解らない文字が壁中に書いてあった。梵字というのだろうか、多分そのようなものだ。
当時の俺達からしてみれば、それは不気味なだけだった。
そんな謎の文字を目で追って行くと、一つの扉を見つけた。
凄く小さな扉で、例えるなら茶室の扉。
もうその時にはかなりびびっていたが、ここで逃げる訳にはいかない。
ライトを持った奴が一番最初に、そして最後に俺が扉をくぐって中に入った。
その時、
「ガタン!」
という音を立てて扉が急に閉まった。
パニックになった俺達は、どうにか扉を開けようとする。しかし、押しても引いてもびくともしない。
泣きそうな表情の俺達を尻目に、ライトを持った奴は何を思ったか先に進み出した。
仕方なく俺達後続の連中もライト持ちの後を追う。
※
風が吹き抜けて行く時のような音が聞こえる。
進んで行くにつれて、その音がどんどん大きくなって行くのが判った。
「ちょっと待て」と言って他の奴らを止めた。
しかしライト持ちの奴だけは止まらず、どんどん先へ先へと進んで行く。
ライト持ちにしがみついて止め、ライトを奪い、「なんで無視しやがる」とそいつの顔にライトを当てた。
すると、そいつはもうとうに失神していて意識がない。
意識がないのにずっと進んでいたのだろうか。
次の瞬間、俺達を振り切ってそいつはまた進み出した…。失神しているはずなのに。
風が吹き抜けて行くような、あの音がどんどん大きくなる。
怖くなった俺達は、もと来た道を急いで戻った。
扉はなぜか開いていて、俺達はすんなり外に出られたのだけど…。
※
その日のうちに、そいつの捜索が行われた。
もちろんその地下へ続く階段まで大人達を案内したのだが、そんな小さな扉は存在しなかったと言う。
あれから十数年が経つが、未だにあいつは帰って来ていない。