
神奈川や静岡近辺にあるホテルや旅館、または会社の保養施設などでは、昔から「時空が歪んでいるのではないか」と思われるような不可解な出来事が語り継がれています。
もちろん、それらの表現や詳細は施設によって異なります。けれど、どれも共通して「この場所には何かある」と感じさせる、不思議な体験談ばかりです。
例えば、私の姉がかつて勤務していた旅館では、スタッフのあいだで次のような話がまことしやかに語られていました。
「もし異次元に迷い込んでしまっても、『カヨさん』という存在が現れて助けてくれるから大丈夫よ」
「カヨさん」という人物について詳しい素性は分かりません。けれど、その旅館ではまるで守り神のように慕われており、誰もが一度はその名を聞いたことがあったそうです。
そして、姉が勤めていた旅館のすぐ近くにある別の旅館でも、やはり奇妙な話が語られていました。
そこでは、異次元に迷い込んでしまった人がいたものの、すぐに「いかんいかん」とつぶやきながら現れ、出口を指さして教えてくれるおじいさんがいたといいます。
その“出口”というのは、たいていの場合、廊下の曲がり角や階段の影など、ごくありふれた場所にありました。
不思議なことに、どの話にも共通しているのは、「迷った先に案内人のような存在が現れ、こちらの世界に戻してくれる」という点です。
旅館やホテルといった大型の宿泊施設は、構造が複雑なうえ、磁場や気圧、地中のエネルギーが絡み合っているとも言われています。
それが、別の次元と重なる“ひずみ”を生み出しているのではないか――そんな仮説もまことしやかに囁かれてきました。
そして、どういうわけか、その“ひずみ”の向こうには、必ずといっていいほど「助けてくれる存在」がいるというのです。
彼らが何者なのか、なぜそこにいるのかは、いまだ誰にもわかりません。
けれど、「戻ってこられた人が確かにいた」という事実は、多くの人の記憶に残っています。
ちなみに私自身も、旅先で妙な道に迷い込んだことが何度かあります。
しかし、そうした体験はたいてい、「ただの勘違い」や「疲れていたせい」として片づけてきました。
でも時折、ふと考えるのです。
あの時、もしかすると私は――
別の世界の入り口に、足を踏み入れていたのではないか、と。