ループする道
公開日: 時空のおっさんに関する話 | 異世界に行った話
20年近く前の話になります。当時、私は小学4年生でした。
近所の公園にとても変わったすり鉢状の滑り台があり、小学生には大人気でした。
学校が終わってすぐに行かないと、取り合いや順番待ち、横暴な上級生のジャイアン的圧政など、面倒なことが増えます。
なのでその日も学校が終わったら、親友のT君とその公園で会う約束をし、走って帰りました。
※
家に帰るとランドセルを放り投げ、自転車に乗って猛烈に漕ぎました。
最初は何も考えていなかったのですが、何か変だと思い自転車を停めました。
すると、さっき渡ったはずの信号が遠くの方に見えました。
と言うより、自分が自転車を停めた所は、さっき通った所なんです。
どこから同じ道だったのかは分かりません。
ただ、その公園へは毎日のように行っていたので道を間違えるはずもなく、景色も覚えています。
それなのに『今からさっき通った所』という瞬間が分かりませんでした。
いつの間にか同じ道だったのです。
そして更におかしいのが、全く人気が無いのです。
何の変哲も無い住宅街ですが、いつもなら立ち話する主婦、道路で遊ぶ子供、大きな道に抜ける車など、何かしら人の動きがある道です。
それが全く無いのです。
家の中は見えませんが、家自体に人の気配が無いのは子供ながらに感じました。
騒音も全くありませんでした。
とにかく数百メートル先の信号まで行くことにしました。
しかし漕いでも漕いでも何故か近付けないのです。
はっきりとは見えませんが、信号が大分先に固定されていて、信号の少し手前の風景だけが流れている感覚。
どれだけ漕いでも着かないので遂に疲れ果て、漕ぐのを止めました。
そして段々心細くなり、泣き出したのです。
わんわん泣いていると先の角から、四十歳くらいのおっさんが歩いて来ました。
何やら携帯電話のようなもので話しながら歩いて来ました(当時は携帯電話は無かったので、トランシーバーだと思いました)。
そして泣いている私を見つけると、
「居た、居たわ」
と言いながら私に近付いて来て、
「よしよし、怖かったな、お家に帰ろうな」
と言って頭を撫でられた瞬間、後ろから車が。
いつの間にか騒音もいつも通り。
何だかよく解らない内に、何もかも元に戻っていました。
※
その後、公園へ行くとT君はまだ居ませんでした。
10分ほど経ってからT君が来ると、
「お前、早いなー。いつ着いた?」
と聞かれました。
「10分くらい前」
と言うと、
「嘘吐くな!俺、めっちゃ飛ばして来たんや。10分前ってまだ学校帰りやんけ」
と言われたのです。
そう、公園の時計を見ると、学校を出た時間から15分しか経っていないことになっていたんです。
学校から家、そして公園までの道は、最低でも20分は掛かるコース。
もう何が何やら訳が解らなくなってまた泣き出してしまい、T君は自分のせいで私が泣いたと思いオロオロ。
取り敢えず全てを説明し、二人で
「何やろなー」
と言っていました。
あの体験は一体何だったのでしょうか…。