
確か、小学2年生の頃の出来事です。
クラスで仲の良い友人が、ある日こう言いました。
「すごい場所があるんだよ! 今日行こうぜ!」
彼は以前から「宇宙人を見た」などと話すような子だったので、正直、あまり期待はしていませんでした。
それでも僕は放課後、その話について行くことにしました。
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場所は、近所の小高い山の上にある公園でした。
公園の入口とは反対側にある柵を越えると、急な芝生の坂道がありました。
僕たちは、よくその坂でダンボールを使って滑って遊んでいたのを覚えています。
その坂の下には、大きな車道が通っていました。
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友人は、その坂の途中にある芝生が枯れた一角を指差しました。
そこだけ地面が露出しており、彼はそこを「すごい場所」と言ったのです。
僕は一人でそこへ行ってみましたが、特に変わった様子はありませんでした。
ただ、ぼんやりと坂下を走る車の流れを眺めながら、無意識のうちに立ち尽くしていました。
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どれほどの時間が経ったのかは分かりません。
友人が背後からそっと肩を叩き、「もう帰ったほうがいいよ」と言いました。
そのとき、ようやく周囲が夕方の気配に包まれていることに気付きました。
時計を見ると、もう18時近くになっていました。
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僕たちがその場所に着いたのは、学校が終わったばかりの13時頃。
昼ご飯も食べずに直行したのですから、あまりにも時間が飛びすぎていました。
「どうしてこんなに時間が…?」と僕が尋ねても、
友人は笑いながら「なっ! 不思議だろ!」と言うだけでした。
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その日の晩ご飯のとき、家族に話しても、誰も本気にしてはくれませんでした。
そして夜、布団に入ってから、あることに気付き、僕は思わず身体を起こしました。
あの時、あの場所は完全な「無音」だったのです。
車が何十台も通る車道のすぐ近くで、公園では子供たちの遊ぶ声が響いていたはずなのに──
音が、一切聞こえなかった。
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次の日、友人がまた「行こう」と誘ってきました。
でも、僕は恐ろしくなって断りました。
するとその夜、友人の母親から我が家に電話がかかってきたのです。
「うちの子が帰ってこないのですが、そちらにお邪魔していませんか?」
僕と家族は驚き、すぐに友人の家族と一緒に、あの坂のある公園へと向かいました。
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その場所には、友人が一人、地面に座って坂下の車道を見つめていました。
あの時の僕とまったく同じように。
僕は怖くなって泣き出し、親たちに事情を説明しましたが、誰も信じてはくれませんでした。
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今でも思い出すたび、背筋が凍るような感覚があります。
もし、あの時友人が僕に何も言わず、ひとりであの場所へ行っていたとしたら…
彼は、ずっと戻ってこなかったかもしれません。
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この話は、僕にとって今も解けない謎のままです。