まるまる様

夕暮れの山(フリー写真)

昔、祖父が山の近くで自営業を営んでいた。

祖母と母と俺は偶に山の方に入り、ワラビを採っていた。

これを焼いたり茹でたりして、マヨネーズを付けて食べると美味い。

その時は祖母と二人で採っていたんだけど、俺だけちょこっと山の奥に入り過ぎたのね。

と言っても、俺も小学生の高学年だから、何が危険であるかの分別は付いている。

そのまま奥に進んで行くと綺麗な川が流れていて、その周囲の割と平たい岩の一つに、ワラビが大量に置かれてあった。

『誰かのかな?』と思ったけど、付近には誰も居ない。

そしたら大きなサルのような生き物が現れたんだよ。

身体にまだらに苔が生えていて、不思議と威厳を感じた。

そいつがジッと俺の方を見てくるのね。

『警戒してるのかな?』と思ったけど、どこと無くこちらへ来いと誘われている気がした。ワラビやるぞー、という感じで。

まあ、俺は怖くなってすぐに逃げたけどな。

無事家に帰ってから、祖母にその話をしたんだよ。

そしたら、

「まるまる様が目をかけてくれたんだね」

と言う。

祖母は本当に『まるまる様』と言っていた。

これは本当の名前ではなく、本当の名前は言ったら駄目だと教えてくれた。

「名前には力があって、言うだけでその人から持って行く」

そう言って、祖母は地面にその名前を書いてくれた。

書くだけでも割と危険らしいけど、

「ちゃんと、後の人に伝えないとね」

と言っていた。

名前なんだけど、不思議と発音出来ないんだよなあ。

カタカタなんだけど日本語っぽくないと言うか、どう発音して良いのかが分からない感じかな。

山は別に霊山などではなく、至極普通の山。

祖母は、

「どこの山に出て来る。姿も時に違うけど。

欲しい物をくれる。身体が大きい。苔が生えてる」

と言っていた。

大昔に祖母の祖父も出会っているらしい。

その後、祖母が笑顔で、

「貰わなくて良かったね。タダより怖いものはないから」

と言っていたのが一番怖かった。

関連記事

稲穂と夕日(フリー写真)

眠り稲を起こすな

祖父がまだ子供の頃の話。 その頃の祖父は、毎年夏休みになると、祖父の兄と祖父の祖父母が暮らす田園豊かな山麓の村に両親と行っていたのだという。 その年も祖父は農村へ行き、遊び…

海(フリー素材)

アシュラさん

今年の3月の終わり頃だったかな。 俺はいつものように更新を楽しみにしている洒落怖まとめサイトを見ていた。 その時、オカルト好きな俺の叔父さんが家に遊びに来ていて、一緒になっ…

コッケさん

私の田舎ではコケシの事をコッケさんと言って、コケシという呼び方をすると大人に相当怒られました。 中学生に上がりたての頃、半端なエロ本知識で「電動こけし」という単語を知ったクラスの…

裏山

危険な好奇心(中編)

山を降り、俺達は駅前の交番へ急いだ。 『このカメラに納められた写真を見せれば、五寸釘の女は捕まる。俺達は助かる』 その一心だけで走った。 途中でカメラ屋に寄り現像を依…

田舎の景色(フリー素材)

てっぐ様

これは俺の親戚のおばちゃんから聞いた話だ。 おばちゃんは多少霊感がある人らしく、近所では「伝説のおばちゃん」と言われていて、自分でもそう言っている。 俺はそのおばちゃんに昔…

海から来たるもの

普段付き合いのいい同僚が、何故か海へ行くのだけは頑として断る。 訳を聞いたのだが余り話したくない様子なので、飲ませて無理やり聞き出した。 ここからは彼の語り。ただし、酔って…

山(フリー写真)

山の掟

親父から聞いた話。 今から30年程前、親父はまだ自分で炭を焼いていた。 山の中に作った炭窯でクヌギやスギの炭を焼く。 焼きに掛かると足かけ4日にもなる作業の間、釜の側…

校舎(フリー写真)

ツンバイさん

これは俺が小学5年生だった時の話だ。 当時、俺の通っていた学校では『心霊写真』を撮影するのが流行っていた。 俺のクラスの何人かも使い捨てカメラを持ち、放課後の校舎で幽霊が出…

村

閉ざされた集落

もう20年以上前、少年時代の話である。 俺は名は寅、友達は雄二に弘樹と仮名を付けておく。 ※ あれは小学校六年生の夏休み、俺達は近所の公園で毎日のように集まり遊んでいた。 …

木の杭

俺はド田舎で兼業農家をやってるんだが、農作業をやってる時にふと気になったことがあって、それをウチの爺さんに訊ねてみたんだ。 農作業でビニールシートを固定したりする時などに、木の杭…