
今から約20年前、私はテレビ番組制作会社でアシスタントディレクターをしていました。
担当していたのは、女性アイドルと霊能力者が全国の心霊スポットを訪ねる深夜番組です。
その収録中に起きた出来事のせいで、ある収録テープが封印されることになるとは、そのとき誰も思っていませんでした。
廃墟のロケ現場
その日の現場は、ある古びた廃墟でした。
機材を運び込むと、湿った土と埃の匂いが鼻を突きました。
照明を立てても、奥の暗がりまでは光が届きません。
何の前触れもありませんでした。
女性アイドルが突然、白目を剥いたのです。
次の瞬間、彼女は周囲のスタッフに掴みかかり、腕に噛みつきました。
その顔は、人間のそれとは思えませんでした。
左右非対称に歪み、両目は別々の方向を睨みつけ、顔色は土気色に変わっていました。
口からは、女性とは思えない低い唸り声が漏れていました。
そして彼女は、立ったまま失禁しました。
スタッフはパニックに陥り、誰もが後ずさるばかりでした。
現場は混乱の渦に包まれました。
カメラの赤いランプだけが、点いたままだったのを覚えています。
御札と唸り声
霊能力者がすぐに御祓いを始めました。
震える手で御札をかざし、声を振り絞って何かを唱え続けます。
唸り声と読経のような声が、廃墟の壁に重なって響いていました。
やがてアイドルは、その場に崩れ落ちました。
静かに正気を取り戻した彼女は、放心したまま、さっきまでの出来事をまるで覚えていませんでした。
封印された収録テープ
収録はもちろん中止になりました。
撮影された映像は番組ごとお蔵入りとなりました。
収録テープを含む記録媒体は、上層部の指示で全て廃棄されました。
その後、事務所からの通達で、関係者はこの件を口外しないよう厳しく言い渡されました。
封印された収録テープの中身を、確かめた人はおそらくいません。
けれど、それで終わりではありませんでした。
半月後の知らせ
彼女に噛まれたスタッフ二名が、収録からわずか半月のあいだに、立て続けに不運に見舞われました。
一人は交通事故で片足が麻痺しました。
もう一人は突然意識を失い、目覚めたときには記憶の大半を失っていたといいます。
そして、あのアイドル自身も、収録から一年もしないうちに芸能活動が目に見えて減りました。
いつの間にか、テレビから姿を消していました。
私自身も大きなダメージを受け、その後しばらくは不眠と悪夢に悩まされました。
半年も経たないうちに番組制作の仕事を離れ、まったく別の業界へ転職しました。
偶然の重なりと言えば、それまでかもしれません。
けれど、あの日の異常は、今も鮮明に、そして不可解なまま記憶に刻まれています。
封印された収録テープに、あの日の何が残っていたのか。
私には、もう確かめる術がありません。
あれは一体、何だったのでしょうか。