叔母のCTスキャン

公開日: 心霊体験 | 怖い話

201102012315024b0

俺の叔母は脳腫瘍をこじらせて鬼籍に入った。

無論悲しかったが、それ以上に恐ろしい死に方だったのだと、今にしてみれば思う。

入院してから早いうちに脳腫瘍だという診断は受けていて、叔母も元々楽天家だったので、たいして気にせずに治療を続けていた。

まあ、見舞いに行ったら行ったで、大好きなヒロタのシュークリームを5個も平らげるぐらいだったので、親戚一同たいして心配もしてなかった(俺の分まで食った)。

見舞いに行って病室で写真を撮ったり、一時退院で地元の美味い寿司屋で写真を撮ったりして、お気楽だったわけだが、俺と彼女の姉であるお袋は奇妙なことに気がついていた。

ぶっちゃけ、心霊写真らしきものが撮れるようになった。病室で撮った写真には、肩から指がのぞいていたり、窓の外に異形が写っていたりした。

寿司屋での写真には、カウンターの一番端っこに黒い男が座っていたりと、撮影する写真には日増しにそういった禍々しいものが写り込むようになった。

決定的だったのは、病室のスナップにあるはずのない市松人形が写り込んでいた時だった。

叔母はやっぱり楽天家なので「ぼやけてるけどかわいい! 座敷童かしら」とお気楽だったのだが。

お袋と俺は何ともいえない気持ちになって、主治医に「実際のところはどうなのか?」と食い下がった。

数日後、俺とお袋は主治医に呼び出され、余命1年と宣告された。

お袋はがっくりと力をなくしてしまい、主治医の話を俺が聞くという手はずになってしまった。主治医がCTやMRIの写真を取りだして、架台に掛けて説明を始めた。

何枚も何枚も叔母の頭の輪切りが連なっている写真を見ながら、なんとか叔母の病状を理解しようと、俺は必死になって主治医に質問をした。

「これが腫瘍なのか? ここの影は何だ? 俺たちはどう叔母に接したらいいのか?」等など。そのたびに主治医は親切に答えてくれた。

拡大のCTの写真を見せられた時、俺はどうも腑に落ちなかった。叔母の病巣のあたりに、もやがかかっているように撮れている写真。

こんなにひどいのかと俺は本気で心配になり、主治医に強く質問した。すると主治医は沈鬱な声で「この写真だけが変なのです。どうやってもうまく撮れません」と答えた。

CTであるにも関わらず、叔母の後頭部にはもやがかかっている。そのもやはCTであるにも関わらず、まるで後頭部からそのもやが抜けて行ってるかのように、輪切りの頭部に写っている。

CTなので、人体以外に影が映ることはまずない。にも関わらず、そのもやは抜けていく魂のようにぼんやりと、しかしはっきりと流れを作って写っていた。

それから半年、叔母はすっかり抗ガン剤の副作用で髪が抜け落ち、藁半紙のような皮膚になっていた。

大好きなシュークリームも、マグロの握りも受け付けないようで、俺たちが来ると、ただ横たわって薄くなった唇でかすかに微笑んでいた。

いつしか心霊写真は撮れなくなり、正確に叔母の現状をカメラは映し出すようになっていた。

主治医が、最後のCTを見せてくれることとなった。はっきりと叔母の後頭部には、腫瘍が認められる。大きかった。

「片目はもう見えないはずです」と主治医は告げた。なるほど。脳のあちこちに広がった腫瘍は、素人が見ても、視神経を押し出そうとしているのがわかる。

「これだけはお見せしたくはないのですが、我々もなんだか解りません。でも、現実に撮れたCTです」

と主治医は困惑しながら、俺たちに告げた。

「質問はしないでください。機械の故障でもありません。ご親族の方が判断してください」

そう言って主治医は、別の封筒に入ったCTを架台にかけた。頭頂部から連続で撮影したCT。

なるほど。叔母の脳は腫瘍だらけだ。

1枚目、2枚目、3枚目、そして6枚目がかけられたその瞬間、俺とお袋は声を上げた。

「いちまさんだ…」

そこには、後頭部に髪の毛を広げた逆さ写しの市松人形が、ぼんやりではあるが確かに写っていた。

見間違い、錯覚、見当違い。

どの言葉も虚しくなるほど、それはしっかり写っていた。後頭部から髪の毛が溢れ出している。

脳のしわに見えた模様は、明らかに優しい表情の市松のそれだ。次の写真は何も写っていない。その写真だけにその人形は写っていた。

きっかり一年後、叔母は鬼籍に入った。

別段苦しむこともなく、ゆっくりと眠っていった。棺には、叔母の可愛がっていた市松人形を納めた。あのCTに写った市松人形は、これだと思った。

果たして、この人形が叔母を連れて行ったのか、それとも苦しまないように守っていたのか、それは分からなかった。ただ、何らかのメッセージを持っていたのは間違いないと思う。

その叔母とともに鬼籍に入った市松の姉妹人形は、いま家に形見分けで残されている。

叔母の優しい表情の写真と、週替わりで供えられるお菓子と一緒に、その人形は俺の家を見守っている。

なんとなく安心だが、もし俺がCTを取るような事態になったら、できれば写って欲しくないのが本音だ。

関連記事

ホテルの看板(フリー素材)

海外の幽霊ホテル

この前、ニュージーランドをバイクで旅したんだ。 南島にダニーデンという町があって、そこのユースホステルは幽霊が出ることで有名なんだ。 そこの建物は50年前まで病院だったらし…

踊り狂う血まみれの女

すっげー昔のガチ話な。 俺の実家はA県H市なんだけど、殺人事件があったんだ。 生まれる前だったんで人から聞いた話。 場所は映画館の近くにあるアパートの2階、犯人は小学…

夜のオフィス

『零』シリーズ裏側の恐怖

ホラーゲーム『零』シリーズの柴田ディレクターは、お祓いを行わないことを信条としていました。 真の恐怖体験を提供するゲームを作るには、お祓いが逆に恐怖感を損なうものと認識していた…

感謝の言葉

数年前に、東京の某グランドホテルで客室係のバイトをした時の話です。 ある日の早朝4時くらいに、姿見(全身を映す鏡)を持ってきてくださいとの電話が入りました。 こんな時間にな…

ねぇ、どこ?

ある夜、ふと気配を感じて目が覚めた。天井近くに、白くぼんやり光るものが浮かんでいた。目を凝らして見てみると、白い顔をした女の頭だけが浮いていた。 驚いて体を起こそうとするが動かな…

ラウンジ

踊り続けるアバター

PlayStation Homeを始めた頃の話。 あるお化け屋敷ラウンジに、いつログインしてもずっと踊り続けているアバターが2体いるんだ。仮に「ぶらきゅー」さんと「はぴぴ」さんと…

古民家の居間

孤独

中島らも氏のエッセイで読んだ話。 新聞の投書欄に送られて来た独居老人の手紙です。 『定年で会社を辞めてから随分経つが、ここのところ出先から帰ると居間に自分が居る、というこ…

田舎の風景(フリー写真)

犬の幽霊

あれは小学6年生の頃、夏の盛りだった。 僕は母方の田舎に一人で泊まりに来ていた。 田舎のため夜はすることがなく、晩飯を食った後はとっとと寝るのが日課になっていた。 ※ …

競売物件

競売物件

自動車免許を取りに免許センターへ通っていた時に仲良くなった人から聞いた話。 筆記試験が終わり、知り合いも来ていないし一人でぼーっとしていると、20代後半くらいのサラリーマン風の人…

富士川(フリー写真)

お下がり

俺の家は昔とても貧乏で、欲しい物なんか何一つ買ってもらえなかった。 着ている服は近所の子供のお下がりだったし、おやつは氷砂糖だけだった。 そんな俺でも、義務教育だけはちゃん…