呪いのゲームソフト

ae326dc7

昔、ゲーム雑誌会社で働いていました。

当時はゲームと毎日向かい合っていたので振り返るのをやめていましたが、会社自体が潰れて暫く経ち、どこの会社かバレても支障がなくなったので、その時のことを書いてみようと思います。

仕事内容とは別に、会社内でも色々な怖い話があるのですが、今回はソフトに関係した話をします。

ゲーム雑誌には、いわゆる裏技コーナーというページがあります。

当時、私の会社では定期的に裏技集を集めた本を発行していました。

そこには最新のソフトばかりでなく、昔の……それこそ、FCやメガドラ、あるいはもっとマイナーな、滅亡機種の滅亡ソフトの技まで収録されていました(詳しい方なら、ここで出版社の見当が付いたと思います)。

そこに収められている技についての読者からの質問は、新人編集が電話で答えることになっていました。

収録されている限りはどんなソフトでもOKです。

ある日、いつものように読者から電話がありました。

ソフトはSS(セガサターン)の『百物語』について。

収録されている101話の怪談がどうしても始まらないと言うのです。

今となっては記憶が曖昧なのですが、確かあれは、全100話を全て見終わると見られるおまけみたいなものだったはずです。

担当者はそういうような旨を電話口で伝えるのですが、相手は『でも見られない。初期出荷分だけなのではないか』と言います。

そういう時にやるのは、実際にこちらで確認してみる事でした。

「こちらで確認しますので、改めてお電話いただけますか?」

『時間がないので、明日まででお願いします』

電話を切ったのが午後6時前後。電話の相手は翌日の16時に電話をするとの事でした。

ソフトを探す時間、100話分プレイする時間、技の確認。

それを本来の仕事と平行しながら行わなければなりません。

幸か不幸か、この日はDC誌の校了日。

終わるまで誰も帰れないので、一晩中煌々と電気が点き、編集部内も賑やかです。

おまけに、手が空いた人に手伝ってもらうこともできます。

新人編集と制作部の女の子達が、交代でゲームをプレイする事になりました。

話によっては監修の稲川氏が自ら出演して、音声で進めるものもあるため、プレイする人はイヤホンを付けました。

怖い人、興味のない人などは、内容を読み飛ばしてただボタンを押し続けるだけですが、たまに興味を持って進める人もいました。自分のように。

夜も大分深まり、午前4時くらいになった頃です。

ぶっ通しでゲームを進め、70話ほど進行しました。

このあたりの時間から自分の担当分が校了し、そのまま机や仮眠室で力尽きる人が出てきます。

そのためプレイ人数は減っていき、やがて自分一人でプレイしなくてはならなくなりました。

イヤホンからは、稲川氏の早口なしゃべりが聞こえてきます。

正直、体力が落ちているこの時間くらいになると、何を言っているのか聞き取ることができません。

かなり疲れてきていたのか、無意識に目を閉じていたようです。

不意に音声が途切れました。

『あ、終わったのかな?』と僕は目を開けました。

話が終わると消えて行く100本蝋燭の画面が出るはずです。

しかし、そこには違うものが映っていました。

顔の下半分がグニャグニャに歪んだ、老婆の顔のアップでした。

元は何かの話の、クライマックス用のビジュアルなのでしょうか。

大きく口を開けた老婆が、こちらを凝視していました。

ディスクの読み込みエラーなのかもしれません。

画面の下半分だけが痙攣したようにブルブルと震え、それに合わせて老婆の口もグネグネと歪みます。

イヤホンからは稲川氏の声。

『……ジーッと見ているんですよ……ジーッと見ているんですよ……

……ジーッと見ているんですよ……ジーッと見ているんですよ……』

そこの部分だけが繰り返し再生されます。妙にゆっくりと。

ソフトのフリーズはしょっちゅうですが、こんなエラーの仕方は初めてです。

やがて、リピートしていた稲川氏の音声に、ブツブツと雑音が入り始めました。

SSはディスクを読み込もうと、ガリガリ音を立てています。

未セーブ分の時間が勿体ないとは思いましたが、僕は怖くなり、電源を落とそうと手を伸ばしました。

その瞬間、稲川氏の声がブツリと途絶え、ゲームに収録されているSE(効果音)が、滅茶苦茶に再生され始めたのです。

クラクション音、風の音、カラスの声、すすり泣き、雨音、そしてゲタゲタ笑う少女の声。

老婆の画像のぶれもどんどん大きくなり、顔全体が引きつったようにガクガクと歪んでいました。

僕は電源スイッチを叩き切りました。

切る瞬間、男の声で『遅ぇよ』と聞こえたのを覚えています。

そんなデータはなかったはずですが。

僕は逃げるように席を立ち、近くでぐったりしていた同僚を叩き起こして、無理矢理コントローラーを押しつけました。

彼は急に起こされて訳が分からないという表情でしたが、怖いから続きをやってくれという僕の頼みに、ニヤニヤしながら代わってくれました。

明らかに小馬鹿にている様子でしたが仕方ありません。

しかし、数分もしないうちに彼は不機嫌そうに戻ってきました。

「データ飛んでるぞ」

スイッチが切られ、モニタには何も映っていません。

しかし、微かに映り込みがあったようで、先刻の老婆の輪郭がぼんやり残っていました。

本体の蓋を開けた状態で電源を入れます。これでセーブデータの確認ができます。

本体メモリにセーブデータを保存していました。しかし、データが壊れていました。

正常なら、ソフト名の欄に半角カタカナで『ヒャクモノガタリ』と明記されているはずなのですが、そこには『ギギギギギギギギ』と羅列してあったのです。

僕はすぐにそれを消去しました。

「どうするんだ?」と訪ねる同僚に、僕はバックアップ用の外付けメモリロムを渡しました。

10話ほど遡るけどここにもデータが入っているから、これで100話クリアして欲しいと頼みました。

当然嫌がられましたが、何でもするからと懇願し、渋々承諾してもらいました。

結果的には、例の裏技は普通に始まり、電話の相手の取り残しかデータの読み込みミスだろうということで決着しました。

その一件については、これで以上です。

このソフトも何か色々な逸話があったようなのですが、残念なことに詳しいことは知りません(録音トラブルが絶えなかったらしいというのは聞きました)。

ゲーム開発会社や出版社というのは、何かが起こりやすい所なのだそうです。

ソフト関係の話はこれだけでしたが、他にも不可解な話は色々ありました。

昼夜の感覚が曖昧だったり、いつも人がいたり、機械が多かったり、疲れている人が多かったり、そういった要因が『おかしなモノ』を呼び寄せてしまうのかもしれませんね。

関連記事

しがみついて

3年前、家族でI県の海岸にあるキャンプ場に遊びに行った。キャンプ場は崖の上にあり、そこからがけ下まで階段で下りると綺麗な砂浜があった。 私達の他にもたくさんキャンプに来てる人がい…

手形

友達の先輩Aとその彼女B、それから先輩の友達Cとその彼女Dは、流れ星を見に行こうということで、とある山へ車を走らせていました。 山へ向こうの最後のガソリンスタンドで給油を済まし、…

ジャングルジム(フリー素材)

不幸の言葉

下駄箱に手紙が入っていたことがあります。 不幸の手紙です。 「この手紙を24時間の内に同じ文で5人に送らなければ、お前に不幸が訪れる」 と書いてあったので、家にあるコ…

三面鏡

今はあまり見かけなくなった三面鏡。 この前、実家に帰った時、紫色の布を被せた三面鏡があった。 布を上げてそれを広げてみると、自分の顔がたくさん映ってる。 色んな角度で…

高田馬場のアパート

7年前の話。 大学入学で上京し、高田馬場近辺にアパートを借りて住んでいた。 アパートは築20年くらいで古かったけど、6畳の和室と、襖を挟んで4.5畳くらいのキッチンがあると…

学校の屋上(フリー背景素材)

卒業式に撮った写真

俺がまだ小学生の頃、ある日の道徳の授業の時のこと。 先生が学生時代の頃に「こっくりさん」が流行っていて、その時にクラスの女子が取り憑かれ、みんなでお祓いに連れて行ったという話があ…

廃ホテル(フリー写真)

廃ホテルで消えた記憶

俺の実体験で、忘れようにも忘れられない話があります。 ※ 今から四年前の夏、友人のNと二人でY県へ車でキャンプに行った。 男二人だし、どうせやるなら本格的なキャンプにしようと…

ドルフィンリング

ドルフィンリング

ドルフィンリングというイルカの形をした指輪が流行った大昔の話。 当時、私は小学校低学年でした。10歳年の離れた姉はいわゆる不良で、夏休みになるとほぼ毎晩不良仲間を家に連れて来ては…

わかったかな?

多分、幼稚園の頃だと思う。 NHK教育テレビで、人形とおじさんが出てくる番組を見ていた。 おじさんが 「どう?わかったかな?」 と言ったので、TVの前で …

日本人形(フリー素材)

闇バイト

以前のバイト現場に、音楽の専門学校に通っている同僚のYさんが居ました。 男性の年上の方で、生活費を稼ぐためにバイトを掛け持ちしていたそうです。 ※ ある日、Yさんが通っている…