壁の中の秘密

黒電話

1998年、草野正人さん(仮名・35歳)は転職を機に、家族3人で新しいマンションに引っ越した。

築年数の経過したこの建物は、3人の生活には十分な空間を提供していた。

異変に最初に気づいたのは、妻の晴枝さん(仮名・33歳)だった。

彼女は毎日午後2時になると隣の部屋から電話のベルが鳴るのを聞き、不安を感じ始めた。

晴枝さんはこのことを草野さんの会社に連絡し、「隣は空き部屋です」と伝えた。

草野さんの同僚、大竹春夫さん(仮名・35歳)はこの話を聞き、何かを諦めたような様子を見せた。

草野さん夫妻は電話の音に悩まされ、大竹さんを部屋に招いた。

大竹さんは壁に耳を当て、「この音は壁の中からしている」と指摘した。

草野さんは、大竹さんを含む同僚たちの協力を得て、壁の中を調べることに決めた。

大竹さん、吉野公広さん(仮名・35歳)、古屋一昌さん(仮名・35歳)、林田直子さん(仮名・24歳)が集まった。

男性たちが壁を壊し始めると、吉野さんが「以前にも壊された痕跡がある」と気づいた。

さらに壁を壊すと、空間の中に毛布と切断された電話が現れた。

古屋さんが毛布を取り出し、林田さんがそれを広げると、中には血に染まった山吹色のワンピースが現れた。

ちょうどその時、午後2時を迎え、電話が鳴り始めた。

草野さんは恐る恐る受話器を取り上げると、女性の声が聞こえてきた。

「出たわね、許さないわ。なぜ私を一人にしてくれないの…」

その声に怯えた草野さんは、受話器を放り投げた。電話の線は切断されていた。

この出来事の後、草野さんは退職し、家族で栃木県へ転居した。

2ヶ月後、草野さんに林田さんが急死したとの知らせが届いた。

さらに、吉野さんと古屋さんも行方不明になっていた。

草野さんは大竹さんと一緒に林田さんの告別式に参列した。

そこで、二人は道の向こうで静かにこちらを見つめる若い女性に気づいた。

その女性は、山吹色のワンピースを着ていた。

その後も、草野さんの家では不可解な出来事が続いた。

長男が黄色の服を着た女性の姿を目撃し、草野さんがこの話をする度に、聞いた人や自分に悪いことが起こった。

草野さんは、「自分たちは開けてはいけないものを開けたのかもしれない」と語っている。

奇妙なことに、この事件以来、草野さんと妻の前歯が黒く変色してしまった。

草野さんはこの出来事をテレビ番組で話していた。誰かがそれを見たことはあるだろうか。

その後、草野さんの家族は、他の住民からも同様の話を聞いた。

以前の住人もまた、壁の中からの音に悩まされていたという。

さらに、草野さんが栃木に転居後、そのマンションの管理人が謎の死を遂げた。

この一連の出来事は、地元の怪談話として語り継がれている。

関連記事

世にも珍しいポジティブな神隠し

日本のみならず世界の各所で起きる「神隠し」。 超自然的なものから人為的なものまで様々なものがあるが、基本的にネガティブなものである。 しかし、とある地方では世にも珍しいポジ…

天井(フリー素材)

十時坊主

ある日、バイト先に群馬生まれの男が入って来た。 そこでの俺は勤務年数が長かったので、入って来るバイトに仕事の振り分けや作業指導などの仕切りをやっていた。 仕事を共にして行く…

首長リーマン

終電の一つ前の電車に乗っていた時の事。 電車内には俺と、酒を飲んでいる汚いおっさんが一人。 電車の中で酒飲むなよと思ったけど、臭いも届かないし、まあ良いかという感じで携帯を…

プラットフォーム

プラットフォームの向こう

小学校低学年の時だから、かなり昔の事になります。 私はその日、母に手を引かれ、遠縁の親戚を訪ねるため駅に来ていました。 まだ見慣れない色とりどりの電車に、私は目を奪われてい…

大学の廊下(フリー写真)

鏡に映る私

短い話で、特に面白くも怖くもないかもしれませんが、私が中学生の時に体験した事を話させてください。 私はN県の出身で、私が住んでいる街には地元では少し有名なカトリック系の女子大が…

星空

夜の合宿地での不思議な出会い

私たちの高校には天文部という小さな部活がありました。 夏と言えば、ペルセウス座流星群を観測する合宿が恒例となっていました。 ある年、合宿地として選んだのは、都会の喧騒から…

霧のかかる山(フリー写真)

酒の神様

去年の今頃の時期に結婚して、彼女の実家の近くのアパートに住んでいる。 市内にある俺の実家から離れた郡部で、町の真ん中に一本国道が通っており、その道を境に川側と山側に分かれている。…

デジタル(フリー素材)

Aの理論

何年か前、友人二人と夜中にドライブをした時の話。 友人Aはガチガチの理系で、 「物を見ると言うことは、つまりそこに光を反射する何らかの物体が存在する訳で、人の目の構造上、特…

マッチの灯り(フリー写真)

墓場の幽霊

うちの近所にお墓がある。そこに一人で住んでいるおばあさんが体験した話。 ※ ある夜、そのおばあさんは布団に入って眠っていたが、人の気配を感じて起きたらしい。 だがそんなことは…

肝試し

高2の夏休み。霊の存在を否定していた友達が、出ると評判の廃屋に1晩1人で泊まることに。 昼間、下見をしてあまりにも汚いので寝袋を用意。晩飯の後、廃屋の前で別れたのがそいつを見た最…