おじいさんの足音

枝に積もる雪(フリー写真)

母から聞いた話です。

結婚前に勤めていた会計事務所で、母は窓に面した机で仕事をしていました。

目の前を毎朝、ご近所のおじいさんが通り、お互い挨拶を交わしていました。

果物や、家で採れた野菜などを差し入れてくれる日もあったそうです。

母はそのおじいさんと仲良しだったみたいです。

おじいさんが来る時はいつも、さくさくと雪を踏む音が聞こえて来るので、いつも窓を開けて挨拶していたそうです。

でもある日、おじいさんは顔を出しませんでした。

家族の方に聞くと、

「山に行ったっきり帰って来ない」

と言います。

捜索願いも出され、母も事務所の人たちも、とても心配していたそうです。

二日後の朝、いつものようにさくさくと雪を踏む音が聞こえて来ました。

母はおじいさんが戻って来たのだと思い、窓を開けて顔を出しました。

事務所の人たちも窓の所に寄って来ました。

でも誰も居ません。

足音は目の前で止まりました。

空耳かなと思って窓を閉めようとした時、また足音がして、それは段々遠ざかって行ったそうです。

その後、電話が鳴りました。

おじいさんの家族から、

「ついさっき、谷底で死んでいるのが見つかった」

との報せでした。

母はこの話の締めくくりに、

「最後に会いに来てくれたんだねって、みんなで話したのよ」

と言っていました。

何だか聞いていて、ちょっと切なくなりました。

関連記事

病院(フリー写真)

毬突きをしている女の子

ある病院での話。 病理実習でレポートを提出する役になった実習生のAは、助手から標本室の鍵をもらう時にこんな話を聞かされました。 「地階の廊下で、おかっぱ頭の女の子がマリつき…

年賀状をくれる人

高校生の時から今に至るまで、十年以上年賀状をくれる人がいる。 ありきたりな感じの干支の印刷に、差出人の名前(住所は書いてない)と、手書きで一言「彼氏と仲良くね!」とか「合格おめで…

隙間見た?

子供の頃に姉が、 「縁側のとこの廊下、壁に行き当たるでしょ。あそこ、昔は部屋があったんだよ。 人に貸してたんだけど、その人が自殺したから埋めたの。 今はもう剥げてきて…

兄弟(フリー写真)

兄が進む道

私の兄は優秀な人間でしたが、引き篭もり癖がありました(引き篭もりという言葉が出来る前のことです)。 生真面目過ぎて世の中の不正が許せなかったり、自分が世界に理解してもらえないこと…

タヌキの神様

俺の姉貴は運が良い人間だ。 宝くじを買えば、ほぼ当たる。当たると言っても、3億円なんて夢のような当たり方ではないのが残念なところだ。 大抵 3,000円が当たる。何回当たっ…

山(フリー写真)

山に棲む大伯父

もう100年は前の事。父方の祖母には2歳離れた兄(俺の大伯父)が居た。 その大伯父が山一つ越えた集落に居る親戚の家に、両親に頼まれ届け物をしに行った。 山一つと言っても、子…

犬(フリー写真)

埋葬した子犬

心霊体験になるのか分かりませんが、子供の頃に不思議な経験をしました。 小学5年生の時、私は凄い田舎で暮らしていました。 小学校は統合され、登下校はスクールバスでないと通え…

繁華街

実録・口裂け女事件

1979年6月21日午前3時頃、兵庫県姫路市野里で奇妙な出来事が発生しました。 タクシー運転手が目撃したのは、腰まで垂れる長い髪の女性で、真っ赤な口が耳元まで裂けており、白い長…

雪(フリー写真)

片道の足跡

北海道は札幌に有名な心霊スポットの滝がある。 夏場などは、夜中なのに必ずと言って良いほど駐車場に車が数台停めてあって、若い声がきゃーきゃー言っているような有名な場所。 ※ 当…

結婚式の席(フリー写真)

前彼の祝福

学生時代、彼氏を事故で亡くした。 私はそのことを引きずり、 「もう新しい彼氏も結婚もいらない」 と荒み、誘いも蹴り、告白も断り、おひとりさまの老後を設計していたのだ…