イキバタ

公開日: ほんのり怖い話 | 心霊体験

峠

友人は「俺って社会不適合者だよね!」と笑いながらタバコを吸う。

現在高校生やり直し中の通称「イキバタ」さん。行き当たりばったりを略しての渾名らしい。

俺はもう卒業したのだが、イキバタはまだ卒業していない。名前も言えない通信制高校で留年しまくっているのだ…。

進級できれば4月から晴れて高校3年生だ。

イキバタは夜のドライブが大好きだ。自分の運転でなければ嫌らしいが。大抵イキバタのボロ軽自動車の助手席は僕だ。

その日僕達が行ったのは、出るとよく言われている心霊スポットで、イキバタもあまり好んでいない。あまりにもガチな心霊スポットは嫌いらしい。

運転しながらタバコを吸っていたイキバタは沈黙して、

「…ぬーん…」

と呻き出した。イキバタが呻くと大抵良いことがない…。

「どうかしたの?」

「ん、ああ、いやー、峠を窓開けながら歌って通っちゃったから、何か憑いてきてるかなって」

はっきり言えばイキバタは「憑かれやすい人」だ。見えたりはしない。気配は感じるので印は切れるらしいが…。

ビビりの俺は結構なレベルで怖い。ちょ、ここ有名すぎる場所だよ…。

峠を下る間、イキバタは無言。音楽のボリュームだけを上げた。

軽自動車を揺らすロック…と沈黙。

イキバタの無言は、

1. 生きていないものを感じて不快な時

2. 眠い

のどちらか…。後者であってくれと願ったが、まだ午前2時。まさかイキバタが眠いなんてことはないだろう。

ふと車は街灯の下に停まった。灰皿が見えなくて危なかったようだった。

だが、停まった瞬間に背筋が凍った。

俺でも分かった。ここはやばい。なぜイキバタは停まったんだ。

気のせいであってくれとひたすら思った。

「イキバタ…」

「……帰ろう」

イキバタは車を慌てて走らせた。だが、なぜか妙に飛ばさない。

先程まで80キロで運転していたのに、まるで車が重くなったかのように50キロ程度で走っている。

田舎道の直線道路になった瞬間、イキバタは

「お前にはなにもしてやれん!!!」

と叫んだ。

音楽なんか聴こえないくらいの大声だ。

「だから俺に憑くだけ無駄だ!!!」

正直イキバタが怖くなった。

よくイキバタは「やっぱり生きてても死んでても怒鳴ったら付いて行きたくなくなるよ~」と言うのだが、こんなにはっきり聞いたのは初めてだった。

今までは「叫んだよ」という報告しか聞いたことがなかったから。

イキバタ宅に到着すると、なぜか電気が点いている。

ドライブ好きなイキバタの兄が帰って来たのだろうかと思いきや、なんと夜中にも関わらずイキバタの母ちゃんだった。

イキバタの母ちゃんは怖いほど若く見える。

初対面はお姉さんだと思ったし、今でも後妻なのでは…と思っているくらいだ。

イキバタもあまり母とは仲良くないらしいので聞けないのだが。

「あれ、あんたまたどこか行ってたの」

「ドライブ行くって言ったじゃんか」

「え? さっきあんた帰ってきたわよ?」

チビるかと思った。

「…寝ぼけてたんだろ」

「そうかな。お兄ちゃんも帰って来たから目が覚めちゃって。そしたらあんたが無言で帰ってきてさぁ」

イキバタはそんな母ちゃんを無視しつつ、部屋に向かっていた。

部屋に入る前に印を切ったのは見なかったことにする。

部屋はいつもと変わらない。

「連れてきちまったかな。それとも先回りか…低級霊ってやつだろ」

イキバタは部屋に盛り塩をしながら言った。

「車、一気に重くなってさ。あー、こりゃなんか乗せたなあと思ったよ。叫んだからいなくなったと思ったんだけど、どうやら複数だったみてえだ。

ま、その気になればあの車を溜まり場にして廃車にすりゃーいいだろ。人間よりも下手したら動物のほうが頭使うからなぁ。

でも、本当に俺に憑いて来てもなんもしてやれねえのに、『憑き損』だよ、あいつら。

カワイソウだよ、カワイソウ」

にやにや話すイキバタが何より怖いと思う。

関連記事

ホテルの部屋(フリー写真)

真っ黒い塊

2年程前の話です。 広島から都内の会社の内定式に参加した私は、そのまま会社近くのビジネスホテルに一泊する事にした。 そのホテルは1階と2階が証券会社。3階と4階が客室。5階…

きまり

平成10年9月10日、O県H市にある廃虚に肝試しに行ったのが ”こと” の始まりだった。見なかったことにしようというのがいけなかった…。 当時、私とA、Bの私達3人はドライブがて…

落ちていた位牌

寺の住職から聞いた話。 近隣の村ですが、その村には立派な空家が一つあり、改装の必要なく住めるほど状態が良いものでした。 近頃は都会の人が田舎暮らしを希望するIターンがはやり…

抽象画

お還りなさい(宮大工14)

俺が初めてオオカミ様のお社を修繕してから永い時が経過した。 時代も、世情も変わり、年号も変わった。 日本も、日本人も変わったと言われる。 しかし俺を取り巻く世界はそれ…

渓流釣り(フリー写真)

一人で泳いでいる男の子

去年、梅雨の終わり頃に白石川へ渓流釣りに行った時の事。 午前4時くらいに現地に到着して準備を終えました。 そして川に入ろうとした時に、川の方から子供の声が聞こえるのです。…

頼もしい親父

親父が若かった頃、就職が決まり新築のアパートを借りたらしい。 バイトしていた材木店のトラックを借り、今まで住んでいたボロアパートから後輩に頼んで引越しをした。 特に大きい物…

天国(フリー画像)

人生のやり直し

俺は一度死んだことがある。 これだけだと訳が解らないと思うので詳細を説明する。 ※ 小一の頃、夏休みが終わり二学期が始まった。運動会や遠足もあったし、毎日普通に生活していた。…

OK

小学生の頃、学校でコックリさんをやりました。 当時は人面犬や口裂け女など怪しい噂のブーム再燃と言った感じで、TVはもちろん、コロコロコミックなどの児童雑誌でも怪談話が山のように掲…

母からの手紙

息子が高校に入学してすぐ、母がいなくなった。 「母さんは父さんとお前を捨てたんだ」 父が言うには、母には数年前から外に恋人がいたそうだ。 落ち込んでいる父の姿を見て、…

5ミリ

ある大学生が自宅の自室で勉強していたそうなんです。だけど、なにやら背後に視線を感じる。 どうしても気になりふと振り返ると、背後の側面にある本棚と本棚の隙間から、小学六年くらいの男…