墓地に居た女性
霊感ゼロのはずの嫁が、5歳の頃に体験した話。
嫁の実家の墓はえらい沢山ある上に、あまり区画整理がされておらず、古い墓が寺の本堂側や林の中などにもある。
今は多少綺麗に並んでいるけれど、以前はもっと散在していたらしく、もうちょっと一族の墓をまとめましょう、ということになったらしい。
※
お坊さんの立ち会いで墓石を動かし、少し掘って下に骨壷があればそれも一緒に移動して…と作業していたらしいのだけど、5歳の嫁はすぐに飽きて適当に林で遊んでいたらしい。
そしたら林の中で、黒っぽい着物姿で髪もちゃんと結った若い女に会ったそうだ。
まるで日本人形のような化粧で、林には相当不釣合いで怖かったらしい。
「あれは何をしているの?」
と女が大人達の様子を聞いてきたので、嫁は
「うちのお墓を動かしているの」
と答えた。
すると女は嫁の名前を聞いてきたらしい。
嫁が名乗ると女は怒って、
「お前、△△の子か!」
と腕を掴まれた。
凄く痛かったらしい。
「そんな人知らない」
と嫁が言っても、
「嘘つくな!お前はあの女にそっくりだ!」
と話を聞いてくれない。
「お前なんか!」
と女が腕を張り上げ、『叩かれる!』と反射的に嫁が体を竦めたところで、嫁を探しに来た母親に名前を呼ばれ、気が付くとそこには女は居なかったそうだ。
※
「女の人が怒ってた!」
と嫁が泣くので、一応その付近を改めると、
『×××衛門側室□□ 子□×』
と彫られた、一応嫁の実家の小さな墓石が出てきた。
大人たちも、
「側室さんが居るって、ウチは一体なんだったんだ?」
と驚いたらしい。
嫁はこの時、何故か手首を脱臼しており、おまけに藪でかぶれたのか腕に酷い蚯蚓腫れが出来たそうだ。
蚯蚓腫れの跡は今でも薄っすら残っている。
※
お彼岸だからとお墓参りした時、嫁が古くて小さな墓石を指差して、
「そうだ!これ!これねー」
と嬉しそうに語った話なんだけど、墓石の文字は薄れて、『側室』というところしか見られなかった。
「きっと側室の人だから、本家の子の私が憎たらしかったんだろうね」
とお線香を上げつつ言った後、
「そういやこの人のお墓の移動の時、土葬だったせいで頭蓋骨に木の根っこが入って取れなくて、小さいからって私が手を突っ込んで取ったんだよね。
あの女の人の脳味噌を引き摺り出すみたいで、何か嫌だったなぁ。
頭蓋骨の内側に根がこびりついていて、なかなか取れなくて。
片手は痛いし、片手は頭蓋骨だし、あれは散々だった!」
と、嫁は溜め息を吐いた。
俺にはどちらかと言うと、嫁の度胸の方がほんのり怖かった。