幼き日の影

公開日: ほんのり怖い話 | 不思議な体験

ジャングルジム

今年で33歳になる私ですが、今から約30年前、幼稚園に通っていた頃の話です。

その頃の幼稚園はよくお寺が運営していて、私が通っていたのもその一つでした。今思い返せば、園の横には納骨堂があり、その隣には古い墓地が広がっていました。

ある夕方、私は一人で幼稚園の遊具で遊んでいました。他に誰も外にはいませんでした。室内には多くの人がいたと思いますが、その時は私一人でした。

ジャングルジムの上に、一人の男の子が座っていました。黒の半ズボンと金ボタンのついた黒い上着を着ており、裸足でした。坊主頭のその子は、私より2、3歳年上に見えました。彼はじっと私を見ていましたが、私は特に怖いと感じることもなく、ただ無性に寂しさを感じていました。

彼は何も言わずにジャングルジムから降りて、納骨堂の横を通り、墓地の方へと歩いていきました。私は彼について行きました。墓地は園の隣で、日頃は子どもたちがかくれんぼで遊んでいる場所でしたから、特に怖いとは思いませんでした。

彼を目で追っているつもりでしたが、どういうわけか、その時の光景は思い出せません。ただ、苔の生えた小さな墓だけが鮮明に覚えています。夕日を遮る巨木のため、周囲は薄暗くなっていました。その暗さを意識した瞬間、怖くなり、私は走って園に戻りました。たった1〜2分の出来事でしたが、とても長く感じられました。

しばらくすると祖母が迎えに来ました。その時、祖母が迎えに来たのは初めてであり、最後でもありました。祖母の顔を見た時の安堵感を今でも覚えています。そして、彼女は墓を見ながらしばらく物悲しい顔をして、「○○ちゃん、何も心配せんでよか…。ばあちゃんがちゃんとしてやっけんね」と私を見つめながら言いました。二人で手を繋いで家に帰りましたが、途中の駄菓子屋に寄りたい私を、祖母は「今日はあかん!早よ帰らんばあかん!」と急かしました。

その日の深夜、祖母は亡くなりました。私にはその記憶が鮮明に残っておらず、葬儀の際に家に押し寄せた親戚の慌ただしさだけが記憶にありますが、祖母の死の悲しみは記憶から消えています。

翌年、私は小学生になりましたが、その後一度も幼稚園に近づくことはありませんでした。頭の中には常に苔に覆われたあの小さな墓が浮かんでいたからです。

中学2年生の時、地域のボランティア活動でその寺を再び訪れることになりました。墓地は整備され、古い無縁仏や墓石は撤去されていました。幼稚園も新築され、全く異なる景色となっていました。寺の本堂も改築される予定で、その準備のために古い荷物を整理するのが私たちボランティアの仕事でした。

その中で遺影が何十枚も見つかり、私たちはそれを外に運び出すよう指示されました。その中の一枚の遺影を手に取った瞬間、私は震えました。それは、あの時見た少年の写真でした。そして、その背後で彼の首を絞める祖母の顔が写っていました。

その写真は後に住職によって供養され、焼却されました。私の父が住職に聞いたところによると、その少年は戦時中に土地の地主に引き取られた子で、病死したそうです。祖母は若い頃、その地主の家で働いており、その子を可愛がっていたとのことでした。

私たちはその後すぐに引っ越しましたが、今でもその記憶は鮮明です。

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