腕を探す男

公開日: 怖い話

新小岩駅(フリー写真)

少し前の事だが、JR新小岩駅のホームで変な男を見た。

サラリーマン風の男が、

「僕の腕知りませんかー」「僕の腕知りませんかー」

と甲高い大声を上げながら、ホームを行ったり来たりしている。

疎らに居る他の乗客は無視しているのか、男を見ようともしない。

左右どちらだったか思い出せないのだが、男は片腕が無いようだった。

スーツのアームホールがひらひらとたなびいていた。

男から目を離し、携帯を見ている間にどこかに行ってしまったのか、男の声は聞こえなくなった。

電車到着の放送が流れ、ホームに向き直すと、耳元で

「知りませんかあ?」

男の顔が俺の顔のすぐ横にあった。

俺は腰を抜かしそうになった。

パァーッと警報が響き、直後に電車がホームに入って来た。

よろめいた俺は白線の外に出てしまっていたようだ。

一瞬の事だった。

しかし、消えてしまったかのように男は居なくなっていた。

男の吐息が耳元に残っている。絶対に気のせいではない。

周りの視線がちょっと気になったので、電車は一本見合わせた。

ホームをよく見て回ったが、男の姿は無かった。

それ以来、その男は見ていない。

関連記事

電脳に棲む神

大学時代の友人の話。 そいつは結構なオタクで、今でも某SNSにガチオタな話題をバンバン日記に書くようなSE。 この前、たまたま新宿で会って「ちょっと茶でも飲もうや」というこ…

夜明けを待つ山

ヤマノケ — 山で出会ったもの

一週間前のことだ。娘を連れてドライブに出かけた。特別な目的もないまま、なんとなく山道を進み、途中のドライブインで食事をとった。 そこで、ちょっとした悪ふざけのつもりで、舗装され…

繋がった

祭祀 ― 封印された神と“繋がった者”

近所に家族ぐるみで懇意にしてもらってる神職の一家がある。 その一家は、ある神社の神職一家の分家にあたり、本家とは別の神社を代々受け継いでいる。 うちも住んでいる辺りではか…

障子の穴

自分がまだ小学校高学年の頃の話。 当時の自分の部屋は畳と障子の和室で、布団を敷いて寝る生活だった。 ある晩、高熱を出して寝込んでいた自分は、真夜中にふと目が覚めた。寝込んで…

背無し

会社からの帰路の途中、ある大学の前を通る。 そこは見晴らしの良いただの直線だが、何故か事故が多いことで有名だった。 その道をあまり使わない人には分からないだろうが、毎日車で…

田舎の風景(フリー写真)

霊感の強い弟の話

高校生の頃、霊感がピークだった弟の話。 弟には小さな頃から霊感の強い友達が居る(仮にAとする)。 その日、学校帰りに Aの家へ遊びに行く途中のこと。 何ぶん田舎なも…

霊柩車

Kさんという若い女性が、両親そしておばあちゃんと一緒に住んでいました。 おばあちゃんは元々とても気だての良い人だったらしいのですが、数年前から寝たきりになり段々偏屈になってしまい…

おどって

一年くらい前に誰かがテレビで喋っていた話。 ある女の子が夢を見ていた。 夢の中で女の子は家の階段を登っている。 すると誰かに足を掴まれた。 振り向くと皺くちゃの…

竹林(フリー写真)

有刺鉄線の向こう側

小学生の時の記憶。 私の育った町には昔、林があった。 ただその林は少し変わっていて、林の中に入って途中まで行くと、ある部分を境に突然竹林に変わっている部分があった。 …

会いに来た子供

彼は大学生時代にバンドを組んでいた。 担当がボーカルだったということもあり、女の子からも相当モテていた。 放って置いてもモテるものだから、かなり奔放に遊んでいたのだという。…