山を穢した代償

545247558-huang-shan-anhui-mysterious-mountain-forest

以前に住んでいたマンションの大家さんは、御主人が亡くなったのを機に田舎の土地を処分し、都会にマンションを建て息子夫婦と同居した。

老女は何かと話し掛けてくれ、俺も機会があれば田舎の怖い話を聞こうという思惑もあり、愛想良く話していた。

ある時、老女が思い詰めた顔で「神さんが怒っとる…」と呟いた。

聞くと、売った山の一つが開かれ、屎尿処理場が建てられたと言う。

「○○の命を貰うと言われてな…」

○○ちゃんは、幼稚園に通う彼女の孫である。

「でも…権利も移して、開発にも全く関わってないんじゃ…」

そんな俺の言葉を遮るように老女が言ったのは、その山の神様は真っ白い大きな体をした利口な鹿を持っていて、こんな都会に出て来ても老女の元に辿り着き、彼女の部屋の窓から顔を出したという。

俺は呆気にとられ、話をしているマンションの前から隣の大きな一戸建てを見つめた。

鹿は人の言葉で、山を穢したことを神様が怒り、代償に孫を貰うとを告げたという。

老女は泣いて許しを乞い、孫の代わりに自分を連れて行くよう神様に掛け合ってくれと頼んだそうだ。

鹿は何度も首を横に振ったが、老女の熱心さに折れたのか、3日待てと言い残し消えたという。

突拍子もない話だけに、失礼ながら痴呆も疑ったが、真剣な眼差しと内容を前に神妙に聞くしかなかった。

「祟るのは筋違い…」

再び俺が言いかけた時に、老女が言った言葉は今も忘れられない。

「神さんは、自分を知るもんや奉ったもんに祟る」

偶然にも老女は3日後に亡くなった。

「明け方に鹿が来て、私で構わんと言った。

アンタにしか話してないから、挨拶しとかなきゃなと思って。

色々ありがとね」

嬉々としてそう言った数時間後の死だった。

あんな笑顔で死ぬ前の挨拶をされたのは、後にも先にも一度だけだ。

関連記事

餓鬼魂

もう30年程前になるか、自分が小学生の頃の話。 当時の千葉県は鉄道や主要街道から少し奥に入ると、普通に林が広がっていた。 市内にはそう広くない林が点在し、しかも民家から距離…

九尾の狐

日本には狐の怪談が沢山残っている。その中で最も有名なのは「九尾の狐」ではないだろうか。 「九尾の狐」で有名なのは「白面金毛九尾の狐」三国随一の大妖怪と言われる程の実力。 古…

ピアノ騒音殺人事件

新興住宅地で起きた事件で、新興住宅地の欠陥が現れたものとして、有名なピアノ殺人事件を取上げる。 これは1974年平塚市で起きた事件で、当時大変話題になった事件であり、かつ過去に繋…

瀬泊まり

小学校の頃、キャンプで夜の肝試しの前に先生がしてくれた怪談。 先生は釣りが好きで、土日などよく暗い内に瀬渡しの船に乗り、瀬に降り立って明るくなり始める早朝から釣りをしていたそうな…

不気味な唄

何かの雑誌の投稿で読んだ話で、もう随分前のことです。 まだMDすらなく、CDからカセットへ録音してウォークマンで聴いていた頃の話です。 その女性(Aさん)は当時中学生くらい…

杉沢村

某県八○田山系の裾野に杉沢村という小さな村があった。 ところがある日、この村に住む一人の男が突然発狂し、住民全員を手斧で殺害。 犯行後、男もまた自らの命を絶ってしまったため…

夜の山道

ヤマメ

あれは母の実家から帰る途中での出来事。 母の実家はG県の田舎で、夏はキャンプ、冬はスキーをする人が来るような山の中。 お盆の時期になり、母が祖父の家に帰るらしいので、3人で…

雑居ビルの怪

今からもう14年くらい前の、中学2年の時の話です。 日曜日に仲の良い友人達と3人で映画を観に行こうという話になりました。友人達を仮にAとBとします。 私の住んでいる町は小さ…

教室(フリー素材)

消えた同級生

小学2年生の時の話。 俺はその日、学校帰りに同じクラスのS君と遊んでいた。 そのS君とは特別仲が良い訳ではなかったけど、何回かは彼の家にも遊びに行ったし、俺の家に招いたこと…

正夢

ある若い女性が家に帰ろうと夜道を歩いていた。 ふと背後に気配を感じた彼女が振り返ると、黒っぽい服を着た男が彼女の後ろを歩いている。 しばらく歩き続けたが男の足音は消えず、ま…