生霊

公開日: 怖い話

abstract-art-paintings

この前、職場の同僚Aと居酒屋で飲んでいたときの話。

偶然、俺の前の職場の飲み会とカチ合った。

俺は特に問題があって辞めたわけじゃないし、前の職場の人とも仲が良かったので、合流はしなかったものの向こうの人が何人もこっちの席に来て、お酒を注いでもらったり、唐揚げとか刺身とかを奢ってもらったりとかしてた。

そのうち同僚Aが気分が悪くなったと言い出し、俺たちは一足先に店を出ることになった。

店を出て、

「だいじょうぶか?」

なんて言ってたら、同僚Aが

「お前の前に勤めてた会社の課長、ほら、さっき酒注ぎに来てた人、あの人はもう駄目だな」

なんて言い出した。

「なんで?」

って訊いたら、Aは

「あの人、3人の生霊に憑かれてるよ。人間ああなっちゃあもう駄目なんだ。俺、それで気持ち悪くなっちゃったんだよ」

だって。

「生霊?マジかよ、そんなの解るの?」

って訊いたら、どうもAには分かるらしい。

「例えば、おまえでも、初対面の人に会って3分話してみて、いや、一目見て嫌悪感を感じる人間っているだろ?見た目がキモイっていうレベルじゃなくってさ」

と、Aはそんなことを言い出した。

A「そういう人間ってのは、なにかしら憑かれちゃってるんだよ。あの課長程の凄い憑かれ方のやつは俺も初めて見たけどな」

俺「そんなに凄く憑かれちゃってるのか?あの課長」

A「うん、ああなっちゃうともう駄目だ。何をやってもね」

俺「生霊って、恨みみたいなもんなの?」

信じられなかった。確かに、前の会社のあの課長は尊敬できない人だったが、そんな強力な生霊が3人分も憑くものなのだろうか?

A「ああ、恨みっていうより執念、いや、怨念かな?」

俺「じゃあ藁人形とか、そういうことをどこかの3人がしてるって事?」

A「そうじゃないよ。思うだけでいいんだ」

俺「相手を恨むには、自分も代償を払わなくちゃいけないってよく言われるけど?」

A「そんなのは要らないんだよ。恨みを晴らす代償は、あの課長にされた色々な、嫌がらせなり、セクハラなり、パワハラなり、とても言葉では言えないような汚いことをされた事で前払いしてるんだから」

俺「ていうと、頭の中であいつ氏ねとか思うだけで生霊が憑くってこと?」

A「そうだよ、恐いねー」

まあ、そういうこともあるのかな、と俺は思った。

あの課長なら恨まれても納得だ。

ちょっと気になったので、俺はAに訊いてみた。

俺「なあ、俺には生霊は取り憑いていない?」

A「お前にはじーちゃんばーちゃんしかついてねーよ。これからもお年寄りを大切にろ」

どうせなら、若いねーちゃんに憑いて欲しかった。

最後に、一番気になることをAに訊いた。

俺「それでさ、あの課長に憑いていた3人って、どんな人なの?」

A「一人は女の人だね。おとなしそうな感じだけど、よっぽどひどい目にあったみたい」

そうか、確かに前の会社は事務員さんがコロコロ変わっていた。

噂では、あの課長が気に入らなければ即クビになったそうだ。

A「あとは男だ。一人はなんか思いつめてたなー。ああいうのが一番やばい。恨みに取り憑かれると、今の自分の生活なんか関係なく恨みつづけるからね。そのせいで更に状況が悪くなっちまう。恨む事で、自分の今の生活を駄目にしてるんだ」

なるほど、恨んでばかりいたら今の生活もままならないって訳だ。

こいつ、いい事言うじゃん、と俺は思ったね。

A「3人目はね、お前だったよ」

おれかーwww( ´_ゝ`)

そうかもしれないね。

あの課長には本当に氏んで欲しいと思ってるからね。

それにしてもAは凄い。

本物です。本当に見えてるんだね。

それ以来、なんかそういう力を信じるようになりました。

関連記事

東京五輪

ナレーションの声

小学5年生の頃、アメリカでワールドカップが開催された。 だからという訳ではないけど、幼馴染のNとよく近所の公園でサッカーをしていた。 ある日、「たまには別の公園でやろう」と…

疫病神

20年くらい前、高校生の時一人で留守番をしていたら、インターホンが鳴った。 出てみると、乞食みたいなのが立っていて「この家には死神がついている」と言い残して立ち去っていった。 それから…

もう一人の長男

もうひとりの長男

※本作品は実話をもとにしたフィクションです。 ※ これは、ある警察官の友人が数年前に経験したという、実際の出来事をもとにした不思議な話です。 友人は、高速道路交通警…

オンマシラの儀

俺の実家周辺はかなり山深くて、未だに携帯の電波も届かない。 子供の頃はTVゲームも知らず、山で遊ぶしかない暮らしだった。日が暮れるまで山で虫を捕まえたり、基地を作ったり…。 …

さよなら

中学生の頃、一人の女子が数人の女子から虐められていた。 いつも一人で本を読んでいるような子で、髪も前髪を伸ばしっ放しで幽霊女なんて言われていた。 でもさ、その子滅茶苦茶可愛…

消えたゲームソフト

ゲームソフトと母子の最期

約10年前のことです。 私は地元のゲームショップでアルバイトをしていました。 ある晩、閉店間際の静かな時間帯に、突然ひとりの年配の女性が店に駆け込んできました。 年…

ドルイド信仰

ドルイドとは、ケルト人社会における祭司のこと。「Daru-vid: オーク(ブナ科の植物)の賢者」の意味。 ドルイドの宗教上の特徴の一つは、森や木々との関係である。 ドルイ…

階段(フリー写真)

ソマコ

学生の時に体験した話。 授業後にサークル仲間4人とクラブハウスでダベっていたのだが、夏だったせいかいつの間にか怪談話になっていた。 ただどれもこれも有り触れた持ちネタばかり…

マッチの灯り(フリー写真)

墓場の幽霊

うちの近所にお墓がある。そこに一人で住んでいるおばあさんが体験した話。 ※ ある夜、そのおばあさんは布団に入って眠っていたが、人の気配を感じて起きたらしい。 だがそんなことは…

地厄(じんやく)

今から25年前の小学3年生だった頃の話。 C村っていう所に住んでたんだけど、Tちゃんっていう同い年の女の子が引っ越してきたんだ。 凄く明るくて元気一杯な女の子だったんで、こ…