繰り返す家族

公開日: 怖い話

5

小三のある男の子が体験した話だ。

男の子はその日、学校が終わって一旦帰宅してから、仲の良い友達と一緒に近くの公園で遊ぶことにした。

夕方になるまでかくれんぼをしていたら、珍しいことに男の子の父親、母親、兄の家族全員が、揃ってその公園まで迎えに来てくれたのだ。

男の子にはそのことが相当嬉しかったらしく、かくれんぼを途中で切り上げ、友達に一声かけると家族と一緒に家に帰った。

家に着いて宿題を始めると、これまた珍しく兄が男の子のそれを見てやると言い出した。

宿題をやっている間も、ゲームの話やなんかで盛り上がって、機嫌の良い兄はずっと男の子の傍にいた。

やがて夕食の時間が来て、母親が1階のダイニングから声を張り上げた。

兄弟の部屋は2階だったので、大声で返事をして下へ降りた。

特になんでもない日なのに、夕食はご馳走で、男の子の大好きなハンバーグが並んでいたり、普段は寡黙な父親も、さっさと平らげてしまった男の子に「俺の半分食うか?」とやけに気を配っていた。

そんな中、男の子がいつも見ているアニメの時間になったので、テレビを点けた。

しかし何故か画面は砂嵐で、チャンネルを回しても回してもテレビはザーザー言うばかり。

すると突然母親が男の子からリモコンを取り上げ、テレビを消した。

その顔が異様にニコニコしていたので、男の子はすこし不気味に感じたという。

夕食が終わると、やっぱりニコニコしながら

母親が「ケーキ買ってあるの」

父親が「一緒に風呂入るか?」

兄は「新しいゲーム買ったんだけど」

と、それぞれに魅力的な提案をするのだが、そこで男の子は悪戯を考えた。

優しくされると意地悪したくなるという天の邪鬼的なもので、トイレに行ってくると言って帰って来ないという、くだらなくも子供らしい発想の悪戯だった。

この家のトイレは鍵をかけるとノブが動かなくなるという仕組みになっており、ドアを開けたまま鍵をかけてそのまま閉めると、トイレが開かずの間になってしまう。

この家に越して来たばかりの頃は男の子がよく悪戯をして、頻繁に十円玉を鍵穴に突っ込んでこじ開けるということがあったのだ。

男の子はその方法でトイレの鍵を閉め、自分はトイレの向かい側の脱衣所の床にあるちょっとした地下倉庫に隠れて、呼びに来た家族を脅かそうとした…らしい。

「らしい」というのは、実は、男の子は公園で友達と別れた後、行方が分からなくなっていたのだ。

男の子はかくれんぼ中、突然「帰る」と声を張り上げてさっさと帰ってしまったので、誰かが迎えに来たかどうかは誰も見ていないという。

陽が暮れても何の連絡もない男の子を家族は心配して、警察にも捜索願を出して、町内のスピーカーで男の子のことを呼びかけたりもした。

父親は男の子の友達の家に次々と電話をかけながらひどく取り乱し、母親は早々に泣き崩れてしまっていた。

兄はというと、男の子が遊んでたいう公園の周りで聞き込みして探しまわっていた。

家族は本当に終わったかと思ったという。

一方男の子は、例の地下倉庫に隠れている時に、外の町内スピーカーからの放送で『自分を探している』という内容が耳に入ってきた。

…自分は家に帰って来ていて、家族もみんな家にいるのに、なんで外のスピーカーから自分を呼んでいるんだろう?

男の子は訳が分からなくなって困惑していると、突然勢いよくダイニングの扉が開かれた。

3人がぞろぞろとトイレの前に歩いて来て、またさっきのように

「ケーキ買ってあるの」

「一緒に風呂入るか?」

「新しいゲーム買ったんだけど」

と声をかける。

そのトーンが機械のように全く同じだったため、困惑していた男の子もさすがにただならぬものを感じ、その様子をこっそり見ていた。

すると3人はまた、

「ケーキ買ってあるの」

「一緒に風呂入るか?」

「新しいゲーム買ったんだけど」

と言いながら、トイレのノブをガチャガチャし始め、そのうちドアを叩き始めて、ついにはドアをブチ破る勢いの凄い音が家中に鳴り響いた。

その一部始終を見ていた男の子は怖くてたまらず、震えた。

そして「見つかったら絶対に殺される」と確信したのだ。

次の瞬間、トイレのドアが破られて、辺りにはいやな静寂が流れた。

やがてその家族っぽい何者かたちは

「ケーキ買ってあるの」

「一緒に風呂入るか?」

「新しいゲーム買ったんだけど」

と繰り返しながら、2階に上がって行った。

男の子は弾けるように地下倉庫を飛び出し、家の玄関から靴も履かずに全力で逃げ出した。

男の子は無我夢中で走って走って、気が付いたらかくれんぼをしていた公園に辿り着いていた。

公園にはまだパトカーが止まっていて、聞き込みをしていた警官に泣きついた。

その連絡を受けて、公園の近くにいた兄が駆けつけ、男の子は無事に発見されたのだった。

その時、男の子が警官に話した内容をこうしてまとめているわけだが、当然、警官が信じる訳もなかった。

幸い男の子は見つかったし、結局は単なる子供のプチ家出として片づけられてしまったのだ。

だが、それから家に帰って来るなり、男の子は真剣な顔でテレビのチャンネルを回し始めた。

警察に話した内容が、とても出まかせとは思えないような形相で…。

関連記事

磯(フリー写真)

白い手

海が近いせいか、漁師さんの間に伝わる迷信のような話を近所でよく聞かされた。 『入り盆、送り盆には漁をしてはいけない』とか『海川に入ってはいけない』とか。 そういった話はうち…

アパート(フリー写真)

出前のバイト

大学生の頃に体験した話。 俺は下宿近くにある定食屋で出前のアルバイトをしていた。 本業の片手間の出前サービスという感じで、電話応対や梱包、配達まで調理以外のをほぼ全てを俺…

田舎の風景(フリー写真)

スルスル

土地の古老という言葉はすっかり死語ですが、まだ私の子供の頃にはいたんですよね。 土地の昔話や、若い皆さんは聞いたことも無いだろう『日露戦争従軍記』というものまで語ってもらったりも…

空き家(フリー写真)

両目を閉じたまま

小学低学年の頃、両親の用事のため、俺は知り合いのおばちゃん家に一晩預けられた。 そこの家は柴犬を飼っていて、俺は一日目の暇潰しにその犬を連れて散歩に出かけた。 土地感のな…

ふたりの父親

4~5歳くらいまで、父親が2人いた。 それも、浮気とかじゃなくて、同じ父親が2人。 意味が分からないと思うけど、顔形は全く同じなのに目つきだけが異様な感じがする、とにかくこ…

酸素

悪行の報い

2年前、私が特別養護老人ホームで介護職員として働いていた時の話です。 この施設は非人道的な職場でした。老人たちを物のように扱う職員が多く、食事に薬を混ぜる、乱暴な入浴介助、抑制…

教授のメモ

ある大学の教授が突然、姿をくらませた。 教授と同じ研究室の助手は、最初は旅行にでも行ったのだろうと考えたが、大学側に問い合わせても教授の行方は判らないと言う。 助手はどうし…

火傷の治療

昭和の初め頃、夕張のボタ山でのお話。 開拓民として本州から渡って来ていた炭鉱夫Aさんは、爆発事故に見舞われた。一命はとりとめたものの、全身火傷の重体だった。 昔の事とて、ろ…

深夜のコンビニ

この話は、ある男がコンビニで深夜のアルバイトをしていた頃に起きた体験談である。 そのコンビニは、深夜になるとほとんど客が来なくなる。 俺は共にバイトをしていた大学の先輩と、…

叔母のCTスキャン

俺の叔母は脳腫瘍をこじらせて鬼籍に入った。 無論悲しかったが、それ以上に恐ろしい死に方だったのだと、今にしてみれば思う。 入院してから早いうちに脳腫瘍だという診断は受けてい…