いっちゃん
公開日: 怖い話
妹の話。
妹が5歳、自分が7歳の時、伯父が遊びに来た。
伯父を見るなり妹は、
「がしゃーんがしゃーん、イタイイタイの伯父さん」
と言い出した。
伯父も両親も俺も、訳が解らずポカーンとしていた。
そして妹は伯父の右手を掴み、
「あれぇ? お指あるね」
と言った。
伯父が工場の機械に挟まれ右手の指二本を切断したのは、その翌月だった。
※
こういうのは妹には珍しいことではなく、近所の寝たきりのお爺さんが死ぬ数日前も母に、
「○○のお爺ちゃん(寝たきりの人)のお葬式で、ママが黒い服着るのを見たよ。途中で雨降ってきて濡れちゃったの」
と、さも見て来たように言い、実際に葬式の途中で雨が降ってきて母がびしょ濡れになった。
※
これらのことは自分で知るのではなく、よく遊ぶ『いっちゃん』というお友達が教えてくれるらしい。
いっちゃんというのは妹の想像上の友人で、よく二人で遊んでいる(周りから見ると一人遊び)。
ただ、想像上とは言え妙なことは多々あり、奥の部屋から子供二人の笑い声が聞こえたので覗くと妹しか居らず、
「誰か居た?」
と聞くと、
「いっちゃん」
と答えたこともあった。
※
また、妹が泣きながら
「いっちゃんを怒らせたら玩具を隠された」
と言うので、妹の言う通り天袋を母親に覗いてもらったら、奥の方から妹の玩具が出てくることもあった。
どちらも妹の手が届く範囲ではなく、2歳上の俺でも無理な場所だった。
いっちゃんの特徴はと言うと、「10歳くらいの女の子」で「色白で可愛い」らしい。
ただ「怒らせると怖い」と言うので「怒るとどうなるのか?」と聞いたら、
「目が真っ白になって頭が膨れる」
と妙な表現をした。
※
妹が10歳の時、
「いっちゃんを怒らせた」「いっちゃんが消えた」「もう許してくれない」
と泣きじゃくったことがあった。
何をしたのか聞くと、
「いっちゃんが一緒に行こうと言ったから、嫌と言ったら物凄く怒った」
と言われた。
そして、
「じゃあ一緒じゃなく、お前が一人で行け」
と怒って消えたらしい。
※
数日後、妹が高熱を出し入院。
医療ミス(と俺は思っている)で死んだのはその2ヵ月後。
妹が死んだのといっちゃんとの関係は判らないけど、死ぬ数日前、
「部屋の隅っこにいっちゃんがいる」
と泣きながら訴えていた妹の顔は忘れられない。