地下鉄工事
公開日: 怖い話
俺の勤める会社が地下鉄工事を請け負った。
工事が始まってすぐに、出て来る出て来る、もう人骨だらけ。
ニュースにもなって、工事は一時中断して調査が始まったのだけど。
工事をしている場所は、戦前お寺ばかりで墓がそこら中にあったらしい。
まあ、数週間後に工事は再開されたが…。
※
再開されて暫くすると、先輩が土留めの方に向かってブツブツ。
気になって後から声を掛けてもブツブツ言っている。
俺は霊感なんてまるでないし、パシリ同然だし全く何も感じない。
それで、後ろから先輩の肩を叩いた。
すると先輩が急に我に返ったみたいで、
「T(俺のこと)!お前、子供見なかったか?」
と言って真っ青になっている。
俺は冗談半分で、
「見てないですよ、幽霊見たんすかね!」
と答えた。
そんな冗談も最初のうちだけで、職員の殆どが経験するようになり、ちょっと大きな事故が起きた。
鉄筋工事を請け負う会社の職人が、スタンション(道路に開口部を作る資材)で開口部を作り、35メートル下に資材を下ろす作業をしていた。
鋼管で周りを囲い、まさか…と思われるくらいの設備にはなっていた。
その鋼管の一本が何故か外れて落下。
下で作業をしていた作業員に直撃した。
外傷は全く見当たらないのだけど、ヘルメットは飛ばされていて変形していた。
慌てて救急車で病院に運び、俺も鉄筋工の世話役と一緒に同乗した。
※
病院に着いて、医師の診察では、
「手の施しようが無い。この子、ドナーカード持ってるね…」
俺は慌てて親族に連絡を取るのだけど、なかなか連絡がつかない。
医師は話を続けた。
「一刻も早く親族に連絡すれば、この子は他に命を支える事が出来る」
俺は気が付いて、病院を移す事にした。
救急車で今度は大学病院に連れて行った。
するとちょうど、何でもその病院では偉い医師が居て、診察をしてくれた。
「ああ、ただの脳震盪ね、すぐに目を覚ますから心配ないよ」
もし、最初の病院で脳死なんて診断されたら…。
それは幾度も検査をしてからの事だろうけど、病院の中の事なんて闇同然だと聞くし。
『まさか、そんな事はない!』なんて考えているけどね。
※
その事件の後、俺と先輩一人が移動になった。
移動した先は、私鉄の高架橋の現場だった。
先輩と朝早く、線路のたわみを測量をしていた時だった。
電車に人が飛び込んだらしい。
それも、もう目と鼻の先らしい。
先輩は失禁して、その場で腰を抜かしていた。
俺は事故自体は背中に感じるだけで、鈍感丸出しだった。
所長に呼ばれて、駅員さんと合同で死体の回収を命じられて…。
後で、先輩の覗いていたレベル(水準器)を片付けようと覗くと、ちょうど死体が置いてあった場所にレベルが合っていた。
先輩は二週間仕事に出て来なくなり、一年が過ぎた先月退職した。
※
最後に俺に残した言葉は、
「俺が現場(地下鉄)から連れて来ちまったんだな。そいつが多分引っ張ったんだ!」
俺はその言葉にピンと来なかったけど、先輩は地下鉄の事が気になっていたみたいだ。
現場の寮でも信心深く、数珠を放さないようになっていたし…。