
私は青森県の黒石市に住んでいる。
青森という土地には、霊感のある人や、いわゆる霊能力者が驚くほど多く存在している。
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父が亡くなった際、火葬場に親族が集まり、僧侶の読経もあって厳かな時間が流れていた。
私はその合間、火葬場の待合室の隅にある喫煙所で煙草を吸っていた。
そこへ、その日の読経を務めた僧侶も一服しに現れた。
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彼は年配で落ち着いた口調の僧侶で、何気ない会話から思いがけず興味深い話をしてくれた。
僧侶としての道を選んだ理由を尋ねると、幼い頃から「自分は僧侶になるだろう」と漠然と感じていたらしい。
その直感の背景には、やはり霊的な感受性のようなものがあったという。
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そんな彼が語ってくれたのは、青森という土地の“特別さ”についてだった。
「青森は、現実の世界と霊界の境が最も近い場所なのです」と彼は静かに言った。
そして、恐山こそが人間界の“端”――つまり、現世とあの世の接点であると教えてくれた。
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さらに驚いたのは、北海道の話だった。
「北海道は、もともと“神の土地”なのです。原住民のアイヌの人々は、まさに“神の民”と呼ぶべき存在なのです」と。
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「今の世界は“六道”でいうところの“修羅道”にあります」とも語った。
修羅道とは、神と魔が戦っている状態。
そして、神が敗れるとその場所は“地獄”になるという。
人間が“恐れ”という感情を失い、神に背き、犯してはならない罪を犯す時――そこに魔が入り込む。
アイヌへの迫害など、過去に起きた理不尽な歴史も、魔に取り憑かれた人間の行いだったのだと彼は話した。
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では、神が敗北したら世界はどうなるのか?
私がそう問うと、僧侶は意外な言葉を返してきた。
「実は、もう一度、負けているのです」
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私は混乱した。
「日本にはまだ“地獄”はできていないのでは?」
それに対して、彼はこう言った。
「ええ、日本ではありません。遥か遠くの国で起きたことです」
そして一拍おいて、続けた。
「そこは、すでに“地獄”になっていて、神も魔も存在しないのです」
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私は「どこですか?」と尋ねた。
彼はごく自然にこう答えた。
「イスラエルです」
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仏教の僧侶が「イスラエル」という名を口にするとは、予想もしなかった。
だが彼の語りはさらに続いた。
敗北を喫した神は、中国大陸を経て日本へと逃れたという。
その時、神は日本人とは別の民――つまりアイヌの姿を借りて、形勢を立て直そうとしたらしい。
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神が人間に与えたのは、最初は「規律」だけだった。
しかし、それだけでは魔に対抗できない。
そのため神はシルクロードを通りながら、インドで仏教を、そして道教を生み出し、日本でようやく“完成形”に至ったという。
それでもなお、魔の勢いは強く、神は未だに押され気味なのだと。
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だからこそ、霊界に最も近い青森に多くの霊能力者を集め、対抗の術を試みている。
人間が神の存在を「知ること」――それだけで、神は魔に勝てるのだという。
特別な祈りも、高価な壺も要らない。
「神様っているのかもしれない」と、ほんの少しでも思えば、それで良いらしい。
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そして、そうした“気づき”を人々に伝えるのが、霊能力者の役割。
彼らは神も魔も見ることができるため、魔からは敵視され、常に危険に晒されているという。
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私の知人にも、軽く“悟った”ような霊感の強い人物がいる。
彼も、「神様はちゃんと見ている」とよく口にしていた。
だがそれにもかかわらず、妙なものに取り憑かれて苦しんでいた。
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一緒にいると、私も変なものをいくつも目にした。
彼は「魔物に憑かれている」と自嘲していたが、あながち冗談ではなかったのかもしれない。
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こうして話を振り返ると、ユダヤ教の教えにも似たような印象を受ける。
だが、あの僧侶は本気で語っていた。
そしてこうも語っていた。
「北海道は“神の土地”とはいえ、物理的にはただの土地。霊的には、青森が最も重要な場所なのです」と。
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“イスラエル”という言葉も、国家を意味しているのではなく、「約束の地」という象徴的な意味で用いているのだという。
今の中東地域は、もはや神の手を離れており、人間自身が立ち向かわねばならない。
「いずれ中東から、“最後の戦争”が始まるだろう」とも彼は言っていた。
その時まで、日本を守ることが、今の神の意志なのだと。
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……ここまで書いておいて何だが、「怖い話」というよりは、妙に説得力のある不思議な話かもしれない。
正直に言うと、今までこれを文章にするか迷っていた。
けれど、これは創作ではない。
本当に、あの僧侶が真顔で語った話なのだ。
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ちなみに、先ほど話した霊感の強い知人とは、ここ数年連絡が取れなくなっている。
彼が最後に残した言葉が忘れられない。
「今のところ、人間は“覚悟”が足りない」
「神様は今、苦戦はしているけど、完全に負けることはないと思う」
「魔物の意志で動く人間も多くなってきているけど、彼らは神にではなく、人間自身の手で淘汰されるだろう」
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あなたの身近にも、本物の霊能力者がいるなら、ぜひこの話をしてみてほしい。
もしかすると、似たようなことを語ってくれるかもしれない。