イツキのアトリエ ー 呪われた画集

公開日: 怖い話 | 都市伝説

イツキのアトリエ

「イツキのアトリエ」──それは、全国の公立図書館のうち、ごく限られた場所にだけ、ひっそりと存在すると噂されている一冊の画集の名前である。

しかし、それは出版社から刊行された正式な美術書ではない。

市販のスケッチブックに直接描かれた手描きの絵が、何の前触れもなく図書館の棚に紛れ込んでいるという。

このスケッチブックには貸し出し用のバーコードも貼られておらず、図書館の蔵書管理システムにも登録されていない。

いつからそこにあるのか、誰が持ち込んだのか、どの棚に置かれているのかさえ、誰にも分からない。

ただ、偶然それを見つけてしまった者たちは、皆一様に凍りついた表情でこう語る。

「絶対に、あの本に触れてはいけない」

中に描かれているのは、一組の男女が、顔の醜く歪んだ男に、さまざまな形で惨殺される様子だった。

しかもそれは、ただの想像画ではない。

息をのむほど精緻に描き込まれた血の飛沫、恐怖に歪む表情、切り裂かれた肉体──。

見開きごとに繰り返される、異なるバリエーションの殺戮。

そして、そこに現れる男の顔には、人間離れしたおぞましい憎悪が宿っており、それを見つめているだけで心が蝕まれていくという。

実際にこのスケッチブックを目にした者の中には、発狂したり、卒倒して意識を失った者もいるとされる。

恐ろしいのは、それだけではない。

このスケッチブックを破棄しようとした人間は、必ず絵の中と同じ運命をたどるという。

たとえ見つけてすぐに燃やしても、不幸が訪れることは避けられない。

それどころか、本は焼かれてもなお形を変え、別の図書館に現れるのだという。

何ごともなかったかのように、再びひっそりと棚に並び、次の犠牲者を待っている──。

そう、人の目につかない場所に隠しても、鍵のかかった部屋に封印しても無駄なのだ。

この「イツキのアトリエ」は、まるで意志を持っているかのように、自らの存在を人の前に現し、そして災厄を撒き散らす。

その名の「イツキ」が誰なのか、なぜこの画集が存在するのか、そして描かれている男女や男の正体は──誰にも分からない。

ただ一つ言えるのは、この本は、どこかの図書館で、今もひっそりと誰かの手に取られる瞬間を待っている、ということだ。

あなたの近くの図書館にも──すでにあるかもしれない。

関連記事

渓流釣り(フリー写真)

一人で泳いでいる男の子

去年、梅雨の終わり頃に白石川へ渓流釣りに行った時の事。 午前4時くらいに現地に到着して準備を終えました。 そして川に入ろうとした時に、川の方から子供の声が聞こえるのです。…

鉄塔

幽霊鉄塔

私はドコモ関連の設備管理の仕事をしていますが、昨年の年末に信じられない体験をしました。これまで幽霊や妖怪を信じたことはなかったのですが、この出来事は私の認識を覆すものでした。現実なの…

テレビの記憶

これは昔、NHKで地方の紹介をする番組で放送されました。 それは祭りとか風習とかで毎週一つの土地をクローズアップして紹介する番組だったのですが、一度ある雪深い地方が紹介された時、…

夜の山(フリー写真)

山へのいざない

母の家系は某山と良からぬ因縁があるらしく、祖母より決してそこへ行ってはいけないと固く言われていた。 「あの山に行ってはいかん。絶対にいかんよ。行ったら帰って来れんようになるよ」 …

スーパーコンピューター

スーパーコンピューターが見た未来

日本には、世界に誇るスーパーコンピューターが存在する。 その名は『スーパーコンピューター京(けい)』。 名前の由来は、毎秒1京回という驚異的な計算速度にある。 ※ …

火傷の治療

昭和の初め頃、夕張のボタ山でのお話。 開拓民として本州から渡って来ていた炭鉱夫Aさんは、爆発事故に見舞われた。一命はとりとめたものの、全身火傷の重体だった。 昔の事とて、ろ…

飲み屋街

不思議な出会いと御祓いの日々

僕が知り合ったのは、御祓いの仕事をする一風変わったおばさんだった。その出会いは、約7年前、僕が最寄り駅近くの立ち飲み屋で彼女と初めて顔を合わせたときにさかのぼる。 当時、僕は引…

銭湯(フリー背景素材)

もう一人の足

母が高校生くらいの頃、母にはAさんという友人がいたそうです。 その人は別に心霊現象に遭うような方ではなく、本当に普通の人だったそうです。 ある日、母とAさんは近くの銭湯へと…

廃村(長編)

俺が小学5年の頃の話だ。 東京で生まれ育った一人っ子の俺は、ほぼ毎年夏休みを利用して1ヶ月程母方の祖父母家へ行っていた。 両親共働きの鍵っ子だったので、祖父母家に行くのはた…

ビルの隙間(フリー写真)

隙間さん

小学生の時、俺の住んでいた町ではある噂が実しやかに囁かれていた。 それは、夜人気の無い道を歩いている時にビルとビルの隙間の前に立つと、その暗闇から細長い腕が伸びてきて引き摺り込ま…