名札のある剥製の部屋
剥製の標本が整然と並ぶ、世を去った蒐集家が遺した奥の部屋。台帳と棚とを照らし合わせるうち、私は標本がいつも一体だけ多いと気づく。種の名ではなく、人の名と日付だけ…
剥製の標本が整然と並ぶ、世を去った蒐集家が遺した奥の部屋。台帳と棚とを照らし合わせるうち、私は標本がいつも一体だけ多いと気づく。種の名ではなく、人の名と日付だけ…
山あいの町の役場の窓口で、雨の日になると、誰も押していないのに番号札がひとつ進む。机の隅に現れるのは、もう人のいない集落への古い転入届だった。毎年ちがう筆跡で、…
取り壊しの決まった大学の旧標本室で、番号のない瓶の整理を任された五十代の私。札もなく台帳にも載らないその瓶の底には、膝を抱えた白い影が静かに沈んでいた。夜ごと観…
中古車に残されていたドライブレコーダーを再生してみた。録音されているのは、運転手のいない映像と、助手席だけから聞こえる女の声だった。…