夜の闇と黒い海面

公開日: ほんのり怖い話 | 不思議な体験

夜の海(フリー写真)

かなり昔のことになります。

当時、小学低学年だった弟は、父に連れられて夜釣りに行きました。

切り立つような崖の先端近くに父と並んで座り、暗い海面に釣り糸を垂れていた弟は、

段々と辺りが白く明るくなって来たことに気が付きました。

「何だ、もう朝になったんだ」

夜の海のあまりの暗さに、少々不気味さを感じていた弟はほっとしました。

ふと正面を見ると、今まで何もなかった空間に、一本の道があることに弟は気付きました。

道は弟の足元から優しい光の中へと真っ直ぐに続いています。

まるで道が弟を誘っているようでした。

弟は立ち上がり、何歩か前に踏み出しました。

すると突然、腕を掴まれ、凄い勢いで後ろに引き戻されました。同時に父の声がします。

「何をやっているんだ!」

我に返った弟が辺りを見回して見ると、周囲には夜の闇。眼下には黒い海面が見えます。

あの道はもうどこにもありませんでした。

弟は転落まであと一歩というところだったそうです。

自分が見たものについて弟が父に話すと、父は妙に納得したように「そうか」と言いました。

弟は今だにその時の道のことを覚えていて、

「幻覚だったかも知れないけど、本当に歩きたくなるような道だったんだ」

と言っています。

関連記事

横断歩道

佐藤大樹は誰なのか

前世の記憶があると言っても、それは鮮明なものではない。 生まれた瞬間から過去の記憶を持っていたわけではないし、何か特別な力を持っているわけでもない。 ただ、ふとした瞬間に…

ITエリート

某県では次世代を背負って立つITエリートを育てようと、IT教育にたいそう力を入れている。それゆえ、この県の公立学校では、IT教育関連の設備投資に限っては、湯水のように予算を使うことがで…

版画(フリー素材)

婆ちゃんの戦時中の話

昔、婆ちゃんから聞いた戦時中の話を一つ。 第二次世界大戦中、うちの婆ちゃん(サノ)が10歳の頃の話です。 ※ 婆ちゃんはお姉さんと避難のために親元を離れ、田舎の遠い親戚の家に…

自動ドアが認識しない人間

大学二年の夏休みに入る少し前からだったかな…。 コンビニやらスーパーやらの入り口、とにかく全ての自動ドアが俺に反応しなくなった事があった。 それまでは普通に入ることの出来て…

祖母のしたこと

私の一番古い記憶は3歳。木枯らしの吹く夕方、一人でブランコを漕いでいるところ。 手も足もかじかんで、とても冷たい。でも今帰れば母に叱られる。祖母に迎えに来て欲しい、ここはいつも来…

夕日

回転する毛の塊

中学生の頃、家が近いということもあり、毎日のように学校から一緒に帰る友人がいた。 私は女で、その友人も同じく女の子。名前はユキ。小さな頃からの幼馴染だった。 中学校から自…

もっさん

うちの病院のカテーテル室(重症の心臓病患者の処置をする場所)には、もっさんと呼ばれるものが出る。 もっさんは青い水玉模様のパジャマを着ており、姿はぼさぼさ頭の中年だったり、若い好…

巨木(フリー写真)

巨木への道

この話は、俺が以前旅先で経験した事実に基づいて書かせて戴く。 N県の温泉へ車で2泊3日の旅行へ出かけた時の話。 移動の途中で『森の巨人たち100選』と書かれた標識が突如現れ…

縁側(フリー写真)

田舎にワープ

自分でも今だに信じられない話。俺が小学二年生の夏の話。 弟と兄弟喧嘩をした時、両親は理由も聞かず、長男だからという理由で俺だけを叱った。 正座させられた俺に、両親の後ろに回…

田舎の風景(フリー写真)

土地神様

小学1年生の頃、毎晩0時になると、眠っていた私が突然泣き叫びながら部屋中を走り回る、という事が数日続きました。 数分後はパタっと治まり、また眠るという毎日。 その時、私の見…