山の神さん

森

これは私が8歳の頃に経験した実話です。話の内容は直接見聞きしたことではなく、祖父から聞いた話や自分の記憶で補った部分もありますので、その点をご了承ください。

私の祖父は猟師で、よく田舎に遊びに行くと、祖父は私を猟に連れて行ってくれました。その日も、祖父と一緒に山道を歩いていました。祖父は猪を狙っていましたが、タヌキや鳥も狙っていました。

「今日はうんまいボタン鍋を食わせちゃるからの!」と祖父は言っていましたが、実際には撃ったばかりの猪は食べないのです。

歩いていると、ガサガサと何か動物がいるような物音がしました。祖父はいつものように「待てー!」と言って鉄砲を構えるのですが、その日は中途半端に鉄砲を構えたまま固まってしまいました。

私は小さくて茂みの向こうがよく見えませんでしたが、何かがおかしいと感じて祖父に「何? 猪? タヌキ?」と聞きました。祖父はしばらく黙っていて、茂みをじっと見ていました。

突然、茂みがガサガサと音を立て、「やめれ!」と祖父が叫びながら発砲しました。そして、私を抱えて猛ダッシュで逃げ出しました。

私は何が何だかわからず、恐怖で泣きそうになりましたが、後ろを振り返ると遠くに毛のない赤い猿のような動物がこちらに向かって走ってくるのが見えました。祖父は私を抱えたまま、必死で鉄砲に弾を込めながら振り向きざまに発砲しました。

発砲の音で耳が「キーン」と鳴り、色んな音が遠く聞こえました。祖父は再び弾を込め、走りながら「助けてくれ…助けてくれ…この子だけでも…」と呟いていました。

山を降り切った後も、祖父は止まらずに家まで走り続けました。家に着くと、祖父は祖母に「ヨウコウじゃ!!」と叫びました。祖母は台所から塩と酒を持って来て、私と祖父にかけました。

その後、祖父も祖母もそのことについて何も話してくれませんでした。間もなくして祖父は亡くなり、その時に祖母が「ヨウコウ」について話してくれました。

「あんたが見たのは山の神さんなんよ。わしらにとっては良くない神さんじゃ。祖父ちゃんはあんたの代わりに死んだんじゃ。だから幸せに生きてほしい」と祖母は言いました。

これが福井県の某村での出来事でした。今でもこの話を親戚にすると、皆がしかめっ面をします。

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