山でしてはいけないこと

公開日: ほんのり怖い話 | 不思議な体験

夜の山(フリー写真)

学生時代に京都の愛宕山方面でキャンプをした時の話をします。

夏の終わり頃に仲の良い友人二人と、二泊三日のキャンプへ行きました。

人里離れた山奥、地主の許可なしでは入れない山でもありました。

時間が進むにつれテンションもあがり、皆つい飲み過ぎてしまいました。

終いには三人とも「裸族!」などと言いながら全裸で過ごす始末です。

今思えば、これが何かの怒りを買ったのかもしれません。

事件は二日目の夕ご飯の時に起こりました。

三人の中で料理ができるのは俺だけでしたので、飯は俺が作ります。その日はすき焼きでした。

肉を焼いたところで料理酒がないことに気付き、俺は真っ裸でハンモックに揺られるAに

「取って来て」と言ったのですが、Aは「嫌だ」と言います。

ここで断っておきますが、Aは普段異常なほど気の良いやつで、普段のAならまず持って来てくれたはずです。

俺は『機嫌でも悪いのかな』と思いながら、テントのクーラーボックスまで料理酒を取りに行きました。

距離にして5メートル、時間にして20秒くらいです。

テントではBが寝ていました。

帰って来て驚きました。鍋の肉が綺麗になくなっていたのです。

俺は何故かAが食べたと確信し、Aに詰め寄りました。

少し考えれば解るのですが、

火にかかったままのアツアツの牛肉を、しかも学生三人分ですから結構な量です、

それを20秒足らずで平らげられる訳がありません。

更にAは良いやつです。そんな卑しい真似をするはずがないのです。

「お前が食うたんか」

Aは何のことか解らないという顔で俺を見返します。

当然です。事実Aに食えるはずがありません。

「肉、なくなっとるやないか」

激昂する俺に対し、Aはニヤニヤ笑いながら「知るか」と言いました。

俺は普段のAからかけ離れたこの態度で更に激昂し、殺意まで覚えました。

この時の俺は明らかに異常で、自分自身、感情が一人歩きしているのを感じていました。

肉ごときで何を怒ってるんやと、ボーッと考えていたのを憶えています。

俺は舌が回らずに不明瞭な言葉でAを怒鳴りつけ、

AはAでニヤニヤ笑いながら「ハァ」とか「ヘェ」を繰り返します。

ここでBが来なかったら、俺はその辺の石でAを殴り殺していたかもしれません。

Bは「どないしたんや」と半ば怒鳴りました。

しかしその時の俺にはどうでも良く、Aも無関心な様子でした。

俺はもはや勝手に口が動くような状態で、何を言っているのか自分でも解りませんでした。

本格的に意識が遠のいて行き、気が付けば服を着てポリタンクを持ったBが目の前に立っていました。

ここからはBから聞いた話です。

何か喚き声がするのでBが見に来てみると、凄い人相をした裸のおっさん二人が喚き散らしていたそうです。

Bによると、俺は「縦になるんじゃないか」と思うほど目が釣り上がり、

Aは口の端が裂けそうな勢いでニヤニヤしていたそうです。

とにかく「こらあかん」と思い、テントに戻り服を着て、俺とAに水をぶっかけたそうです。

結局、予定を繰り上げその日に下山しましたが、帰りの車でBは「人間の顔じゃなかった」と言っていました。

それ以降も三人の付き合いは続いていますが、取り敢えずキャンプで全裸になるのはやめました。

補足

三人の間では『あの肉は何者かの罠だった』ということになっています。

Aは断じて食っていないそうです。

関連記事

憩いの館

いなくなった犬猫が発見されることが、異常に多い廃屋があった。 廃屋と言っても街中にあってわりと小ぎれいな一軒家。別に荒らされいるわけでもない、古い造りのちょっと雰囲気ある家。 …

洋館(フリー写真)

洋館で生まれた絆

ある小さな町に、昔から伝わる奇妙な話がある。 町の中心部から少し離れた場所に、古びた洋館が建っていた。 その洋館には、ある夜だけ窓から幽霊が現れるという噂があった。 …

インターホン

俺が5才の頃の出来事。 実家が田舎で鍵をかける習慣がないので、玄関に入って「○○さーん!」と呼ぶのが来客の常識なんだが、インターホン鳴らしまくって「どうぞー」って言っても入ってこ…

不思議な森

昔住んでた家の近くの河川敷に広い公園があり、そこに小さな森があった。その森の中には、異常に暗い空間が何カ所かあって、よくそこで遊んでた。 もう少し説明すると、その空間だけ切り取っ…

欅(フリー写真)

欅の木のお地蔵さん

小学生だった頃に体験した話です。 当時は夏休みや冬休みといった長い休みになると、従兄弟達の家に何日も泊りがけで行ったり来たりしていた。 夏休み前半を従兄弟達が私の家で過ご…

時計

時間を超えた警告

二ヶ月前、私が経験した奇妙な出来事をお話しします。夢だったのか現実だったのかは定かではありませんが、記憶に新しいその日の出来事をご紹介します。 ある日、私は朝10時に目を覚まし…

次元の歪み

先に断っておきます。 この話には「幽霊」も出てこなければいわゆる「恐い人」も出てきません。 あの出来事が何だったのか、私には今も分かりません。 もし今から私が話す話を…

黒電話

壁の中の秘密

1998年、草野正人さん(仮名・35歳)は転職を機に、家族3人で新しいマンションに引っ越した。 築年数の経過したこの建物は、3人の生活には十分な空間を提供していた。 異変…

校舎(フリー写真)

消えたヤンキー

現在就活中で、大阪と兵庫の辺りをうろうろしている。 昨日ホテルに帰る途中のタクシーの中で、一緒に居た友人が何故か怖い話を始めた。 その時に運転手さんから聞いた話。 …

髪寄りの法

祖父が子供の頃に体験した話。 祖父は子供の頃、T県の山深い村落で暮らしていた。村の住人の殆どが林業を営んでおり、山は彼らの親と同じであった。 そんな村にも地主が存在しており…