妻の生き霊
日曜日の朝、昼まで寝ていた俺はボーっとしながらリビングへ向かった。
トントンと包丁の音がする。台所では妻が昼飯を作っているようだった。
テレビを点けて携帯を見ると、一昨日内緒で行ったコンパで番号を交換した女性から着信履歴があった。
寝巻きのポケットに携帯を入れ、台所を横切ってトイレへと急いだ。
※
トイレで小声で女性と他愛もない会話をしていたらキャッチが入った。妻からだった。
俺はこっそり電話しているのがばれてしまったのかと思い、慌てて電話に出ると
「もしもし? 今起きたの? 娘が部活で怪我したみたいで、今迎えに行ってるからお昼は冷蔵庫のものをチンして食べて」
と言われた。
電話の向こうから、車の中のラジオの音も聞こえた。
※
電話を切らずにトイレから出て台所をそっと覗いて見ると、台所の妻は携帯など持っておらず、包丁で何も乗っていないまな板をただ切っていた。
手に握った携帯からは「もしもーし?」と妻の声がしている。
台所の妻と目が合ってしまった。
ゾッとした俺はパニックになって家を飛び出し、「早く帰って来い」ともう一度妻に電話をし、二人が帰って来るまで外で待っていた。
※
帰って来た妻と娘に状況を説明し、みんなで家に入ったが誰も居ない。
台所には誰かが作った料理が家族分用意されていた。
妻と娘には寝ぼけていたんだろうと言われたが、そんな訳はない。
それでは料理の説明がつかないし、俺は料理なんて出来ない。
今以て不思議だ。