曾祖母さんから聞いた話。
曾祖母さんが子供の頃、実家近くの山に変なやつが居た。
目がギョロッと大きく、眉も睫も髪も無い。
太っているのだがブヨブヨしている訳でもなく、顔も体もつるつるのっぺりしている。
いつも全裸で肌は青白い。
そして男にも女にも見えない。
まるで魚のような印象なので、曾祖母さん達はそいつを『魚のおっちゃん』と呼んでいた。
※
魚のおっちゃんのことは、曾祖母さんとその兄貴だけの秘密だった。
所謂奇形のようなものだと考えていたので、おっちゃんを見せ物にしないためだ。
魚のおっちゃんは曾祖母さん達によく茸をくれたし、曾祖母さん達が怪我をすると悲しそうにする。
だから優しいやつなのだろうと考えていたらしい。
※
魚のおっちゃんは絶対喋らず、いつも無表情だ。
しかし大雨や洪水の前だけ、大きな岩の前に来て岩を睨み、
「うぅ…うぅ…うぅ」
と唸った。
※
ある日、曾祖母さんは魚のおっちゃんが唸るのを見かけた。
大雨が来ると思い、曾祖母さん達は慌てた。
だが何も天災は無く、代わりにお喋りで口が悪い子供が魚のおっちゃんの噂を流し始めた。
そいつはおっちゃんの姿形まで正確に噂にしており、そのせいか噂は暫く笑いのネタにされたものの、すぐに消えた。
噂が嘘ではないと知っているのは、曾祖母さん達だけだったはず。
曾祖母さん達は噂を知ってすぐ魚のおっちゃんの所へ行った。
だがおっちゃんは居なかった。
毎日おっちゃんを探したが、大雨の前に岩の前で唸ったりもしていなかった。
魚のおっちゃんは居なくなってしまった。
※
曾祖母さんが最後に魚のおっちゃんを見た時、いつもはじっと岩の前で唸るだけなのに、その時は曾祖母さんの方をはっきりと見た。
そして両手で自分の顔を覆ったそうだ。
曾祖母さんには、それがまるで泣いているように見えたという。
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