エレベーターの点検

公開日: ほんのり怖い話

エレベーター(フリー写真)

俺はメンテナンス会社に勤めている。

客先の施設に常駐管理したり、不具合があると急行するなど、色々なパターンがある。

自分は巡回点検担当だが、夏休み期間中は普段受け持たない設備を交代で点検する。

都内のあるビルでの話。

自分の受け持ち外のビルでメンテ作業を行うので、手順書を持って現地へ。

地下の最深部行くには、階段かエレベーターで地下○階まで降り、そこから階段で下る。

手順通り、受付でセキュリティカードをもらって、エレベーターにかざしてエレベーターの最地下へ。

そして階段を降りビル最地下へ。

薄暗いフロアで配電盤を探し、フロア全体の明かりを点ける。

パッと明るくなり、作業には何の問題も無い。

早速、手順に則り、所定のチェックを行い記録する。

気になる点と言えば、ビル全体の大きさや構造から考えてもオーバースペックの設備があり、消費電力も半端ない。

『何なんだろう?』と思いながらも、色々な客先があるし、大きな実験装置でも動かしているのだろうと考えて、作業終了。

作業終了チェックをしながらふと見ると、ハーフサイズのエレベーターらしき扉が。

あれ? 最地下行きエレベーターは無くて、階段だけだったが…荷物用かな?

何の気なしに扉に近寄り、セキュリティーカードをかざすと、スッと開いた扉。

中は荷物用ではなく、明らかに人用。

覗き込んでみると、階数表示は地上から、いくつか飛ばして地下数階と自分のフロア。更に下に○階。

乗り込んでみたい衝動に駆られたが、契約違反にもなりかねないのでやめておいた。

フロアの内線電話で管理質に電話し、警備員に案内され地上フロアへ。

警備員「問題ありませんでした?」

俺「そうですね、全部規定値ですし、休止機器もテスト運転したところ問題なしです」

警備員「じゃ、受取にサインします」

俺「そう言えば、(エレベーターの事を訊いてみようか…)」

警備員「はい?」

俺「(いや、契約もあるしやめとこう)あ、勘違いです、すみません」

警備員「そう言えば、先週まで担当されてた方、亡くなったそうですね」

俺「は? あ、そうなんですか?(Kさんは今週頭から夏休みで、来週出勤のはずだが…)」

警備員「あれ? 私そう聞きましたけど、間違いですかね?」

俺「いや、私が聞いてないだけかもしれません」

警備員「そうですか、私も聞き間違いですかね? あははは!」

俺「では、失礼します」

休んだだけで何だか妙な話になっているなと思いながら、サービスカーで事務所へ帰ると、

「Kさん、昨日、自宅で心不全になって亡くなったそうだ」

と聞きました。

健康診断も問題ないし、社内のサッカー部でレギュラーをやっていて、病気なんかに縁の無い彼が?

そしてKさんの死亡は一切広報されることなく処理され、自宅のマンションも早々にり売り払われた様子。

家族も田舎に帰ったらしいが、Kさん友人によると、家族とも音信不通らしい。

それから一週間の間に、この時期には珍しく課長・課員の入替が。

そして、コンプライアンス教育と称して、契約内の仕事をキッチリやれ、客先指定外地域には立ち入るな、といった事を厳しく教育された。

最初は『俺がエレベーター覗いたのがばれたか?』と思ったが、特に注意もなくほっとした。

今では俺がKさんの後を引き継いで業務を行っているが…。

一週間後に例のビルで点検し、受取にサインする時、警備員がボソッと、

「やはりKさん、亡くなられたようですね。真面目な方だったのに残念です」

なぜ彼がKさんの死を知ったのかが未だに判らない。

関連記事

沼(フリー写真)

そこなし沼にて

親父は教師をしており、俺は小学二年生まで教員住宅に住んでいた。 俺の家の裏は林になっていて、そこに『そこなし沼』と呼ばれる沼があった。 その周りではクワガタが沢山捕れるの…

戦時中の校舎

戦時中の校舎

10年前の夏休み、母と一つ上の姉と共に母方の実家に遊びに行った。 そこは集落から少し離れた山の麓にあり、隣の家まで行くのに5分は歩くような場所だった。 当時、私たち姉弟の間…

昔の電話機(フリー画像)

申し申し

家は昔、質屋だった。と言ってもじいちゃんが17歳の頃までだから私は話でしか知らないのだけど、結構面白い話を聞けた。 田舎なのもあるけど、じいちゃんが小学生の頃は幽霊はもちろん神様…

夕日(フリー写真)

歳を取らない巫女様

昔住んでいた村に、十代の巫女さんが居た。 若者の何人かはその人のお世話をしなければならず、俺もその一人だった。 その巫女さんは死者の魂が見えたり、来世が見えたりするらしかっ…

古い木造アパート(フリー写真)

白い木造建築

私が大学生の時に住んでいた部屋は、妙に雰囲気が悪かった。 日当たりは悪くないのに、何処となく薄暗いような感じがする。 いつもジメジメしていて、普段から気分が鬱々としたもの…

戻って来たお手伝いさん

おばあちゃんに聞いた、ささやかな話。 母と二時間ドラマを見ていて、「お手伝いさんの名前って大抵○○やねえ」と言ったら、 母が「そういやママが子供のころにいたお手伝いさんの一…

民宿の一室(フリー写真)

あの時の約束

長野県Y郡の旅館に泊まった時の話。 スキー場に近い割に静かなその温泉地がすっかり気に入り、僕は一ヶ月以上もそこに泊まったんです。 その時、宿の女将さんから聞いた話をします。…

見えない恋人

大学生時代、同じゼミにAと言う男がいました。 Aはあまり口数の多い方ではなく、ゼミに出席しても周りとは必要なこと以外はあまり話さず、学内にも特に親しい友人はいない様子でした。 …

ベニヤを突き破って手首が……あれ!? 抜けなくなった…???

たぶん怖くないけど自分的には嫌だった話。 帰り道に、赤錆びて穴だらけのベニヤ張りの物置みたいな建物がある。周りに新築マンションが増えてるからかなり浮いた感じ。 で、ゆうべ遅…

海の朝日

バイクの若者

母の同僚のおじさんが釣りに行った時のこと。 朝早く車で出掛けて行き、朝日が昇るまで車の中で焼酎を飲んで暖まっていた。 いつもは待機用の小屋のような所で過ごすのだけど、その…