10円おじさん

c0129599_11104886

10年程前に会った10円おじさんの話をします。

当時、高校を卒業したばかりで、仲間とカラオケに行きました。

一両や二両しかない電車の通る無人駅の傍にある小さなカラオケ店です。

土曜なので深夜2時に閉店なのですが、酒を飲んで気持ち悪くなったので、外に出て無人駅の明かりの下で酔いを冷ましていました。

すると、突然赤い作業服のおじさんがよろよろと近寄って来て、

「す、すまないが10円玉貸してくれ、たのむ、今すぐだ早く」

ああ、何か急用で電話するんだなと思い、財布の中を探すとあいにく小銭がありません。

『携帯電話もそこそこに普及しているこの時代に10円で公衆電話…?』と疑問に思いました。

「ちょっと、友人に聞いてきますので、そこで待ってて下さい」

と言った時、変なことに気が付きました。

おじさんが着ているのは赤い作業服ではなく白い作業服で、胸からズボンにかけて赤いペンキだか血のようなもので染まっているのです。

よく見ると血です。しかも濡れている。

仰天した私は、

「あの、この怪我は…? 救急車を呼んだ方が…?」と尋ねると、

「いや、これは何でもない。あんたに関係ない。早く10円玉を…」と言います。

そのぼたぼたと作業服から落ちる赤い滴で、これは普通ではないと感じました。

それより何とも言えない不気味な感じもしたので、その場から逃げたくも思い、カラオケ店の友人に助けを求めようと数メートル先のカラオケの明かりを見ると、ちょうどそこから出てくる友人達がいました。

彼らはこちらを見て指を差して「いた!何~? 何言ってるの」と言いながら笑っています。

「ちょっと大変だ!早く来て!!10円玉ない? 電話をしたい人がいる。お店でもいい!!」

友人達は近付いて来て普通に談笑しています。

「ねえ? この人を救急車で連れて行かないと!!連絡をしたいようだし、大怪我してるし」

友人達は不思議そうに、

「ん? 誰? どこにいるの?」

「どこって、ずっとここで今さっきまで話してたんだけど…」

周りを見渡すとどこにもいません。

「店から見た時からあんた一人しかおらんかったよ。大声出してて」

胸から腰まで血の付いた作業服を着たおじさんだと説明しても、二人とも「あんたは一人でここに立って大声を出してた」と言うのです。

変だ…。友人達は気味悪がるし。

ただ、あんな大怪我をしているのに、一瞬にしてどこに行ってしまったんだろう…。

あまりに不可解な出来事に、その日は結局訳が解らないまま帰宅しました。

それから数ヶ月後、おじさんの夢を2回ほど見ました。

「10円玉を…」「10円玉…」

赤いおじさんはあの作業服で「10円玉」を連呼していました。

よく解らないので、翌日10円玉を10枚と塩を持って駅の外に置き、逃げるように無人駅を後にしました。

この先には死亡事故が起きた遮断機のない踏み切りもありますし。

関連記事

山遊び

子供の頃の話。 大して遊べる施設がない田舎町だったので、遊ぶと言えば誰かの家でゲームをするか、山や集落を歩いて探検するかの2択くらいしかする事がなかった。 小学校が休みの日…

台湾

混同された記憶

私は現在、仕事の都合で台湾に住んでいます。宿代もかからず、日本からも近いため、友人が時々遊びに来ます。この話は、そんなある時の出来事です。 今年の2月初旬、高校時代からの親友で…

狐の嫁入り

俺の実家は山と湖に囲まれた田舎にある。 小学校6年の時の夏休みに、連れ二人と湖に流れ込む川を溯ってイワナ釣りに行く事になった。 雲一つも無いようなよく晴れた日で、冷たい川の…

公園

公園の友達

お盆の季節になると、私はある思い出をよく振り返る。 私が小学2年生のころ、タケシという友達と日々一緒に遊んでいた。 我々のお気に入りの場所は川の近くの公園で、日が暮れるま…

帰り道

足が欲しい

大学時代、一つ上の先輩から聞いた話。 小学4年生の頃、学校からの帰り道にいつも脇道から出てくる中年の男性がいた。 しかも常に彼女がその脇道を通りかかる時に出てきて、ぼんやり…

学校の屋上(フリー背景素材)

卒業式に撮った写真

俺がまだ小学生の頃、ある日の道徳の授業の時のこと。 先生が学生時代の頃に「こっくりさん」が流行っていて、その時にクラスの女子が取り憑かれ、みんなでお祓いに連れて行ったという話があ…

旅館(フリー素材)

お気遣い

私は趣味で写真を撮っています。 主に風景ばかりで、休みが取れた時は各地を回っているのですが、その時に宿泊した民宿での体験です。 ※ その日、九州の方に行っていたのですが、天候…

古民家(フリー写真)

トシ子ちゃん

春というのは、若い人達にとっては希望に満ちた、新しい生命の息吹を感じる季節だろう。 しかし私くらいの年になると、何かざわざわと落ち着かない、それでいて妙に静かな眠りを誘う季節であ…

首刈り地蔵

小学生の頃、両親が離婚し俺は母親に引き取られ、母の実家へ引っ越すことになった。 母の実家は東北地方のある町でかなり寂れている。家もまばらで町にお店は小さいスーパーが一軒、コンビニ…

田舎(フリー写真)

魚のおっちゃん

曾祖母さんから聞いた話。 曾祖母さんが子供の頃、実家近くの山に変なやつが居た。 目がギョロッと大きく、眉も睫も髪も無い。 太っているのだがブヨブヨしている訳でもなく、…