雨の音

公開日: 不思議な体験 | 怖い話

20121015231402527

その日は雨が強く降っていた。

現場に着き、トンネルの手前で車を脇に寄せて一時停車。

その手の感覚は鈍いほうだが、不気味な雰囲気は感じた。

恐い場所だという先行イメージのせいもあるだろうが。

暫くの休憩の後、ゆっくりと車を進めトンネルに進入開始。

こういう体験は初めてなので、ワクワクするような妙な高揚感を感じる。友人達もいい年して遊園地の乗り物を前にした子供のような表情で目を輝かせていた。

それほど寂れた場所ではないとは思うのだが、後続の車は来なかったので、スピードをかなり落として進んだ。何かが起こる事を期待しながら。

しかし、特に何も起こらずトンネルの終端まで着いてしまった。

トンネルの壁などを観察していた友人たちも、別に妙なモノを見たわけではなさそうだ。

もう一度行ってみようという提案が出て、皆賛成した。車をトンネルの端でUターンさせた。

今度も何も起こらなかった。不満なので(というか暇なので)何度が往復してみよう、という事になった。

雨が強くなってきたのか、雨粒が車を叩く音がうるさくなってきた。

3、4往復ほどした頃だろうか、友人の一人が「おい、もう帰ろう」と言い出した。

何も変わった事も起こらず、飽きてきたのだろうと思った。

だが、何か声の調子がおかしかった。トンネルの出口が見える辺りで一旦車を停め、後ろを振り向いた。

帰ろうと言い出した友人は肩を縮め、寒さに震えるような格好をしている。

もう一人は、その様子を見てキョトンとしている。

「え、どうした? 何か見えたのか?」と訊いたが、

「いいから、とにかくここを出よう」と言う。

“何か” を見たのか? 期待と不安で動悸が激しくなってきた。雨は一層酷くなり、ボンネットを叩く音が耳ざわりに感じる。

とにかく、一旦ここを出て、どこか落ち着ける場所を探す事にした。

国道沿いのファミレスに寄り、ようやく一息ついた。

夏も近い季節だというのに、凍えるように震えていた友人もようやく落ち着いてきたようだ。

「なぁ、もう大丈夫だろ? 何を見たんだよ」

「聞こえなかったのか? あれが」

友人は怪訝そうな顔で僕達を見た。

妙な怪音の類か? それとも声? しかし、僕には心当たりはなかった。

もう一人の友人も、何が何やらといった表情をしている。

「別になにも…。まあ、運転してたし、雨もうるさかったしなぁ」

「聞こえてたじゃんか!」

いきなり声を張り上げられて、驚いた。

深夜なのでファミレスにはほとんど人はいなかったが、バイトの店員が目を丸くしてこちらを振り向いた。

しかし、彼がなにを言っているのか理解できない。

「何が聞こえてたって? はっきり言ってよ」

気恥ずかしさと苛立ちもあって、少し強い口調で言ってしまった。

しばらく重い沈黙が続いたあと、彼が口を開いた。

「雨だよ、雨の音…。俺達はずっとトンネルの中に居ただろ!なんで雨が車に当たるんだよ!」

関連記事

巨木(フリー写真)

巨木への道

この話は、俺が以前旅先で経験した事実に基づいて書かせて戴く。 N県の温泉へ車で2泊3日の旅行へ出かけた時の話。 移動の途中で『森の巨人たち100選』と書かれた標識が突如現れ…

渓流(フリー写真)

殺生

秋田・岩手の県境の山里に住む元マタギの老人の話が、怖くはないが印象的だったので投稿します。 その老人は昔イワナ釣りの名人で、猟に出ない日は毎日釣りをするほど釣りが好きだったそう…

山道

見つけた

小学校の先生Aからの話で、これは高校の部活の合宿中に起こった出来事だ。 約20人が一つの大きな部屋で布団を敷いて寝ていた。練習の疲れから、みんな夜10時には眠ってしまった。しか…

大蛇(浮世絵)

大蛇の恩返し

中学2年生の時の体験です。 正体不明の生き物に目玉を盗られそうになり大蛇に助けられた、という不思議な体験をしました。 私が仏間で昼寝をしていた時、誰かに顔を押さえられまし…

田舎の風景(フリー写真)

霊感の強い弟の話

高校生の頃、霊感がピークだった弟の話。 弟には小さな頃から霊感の強い友達が居る(仮にAとする)。 その日、学校帰りに Aの家へ遊びに行く途中のこと。 何ぶん田舎なも…

遊園地

くるくるワープ

これは私自身の不思議な体験についての話です。 私が3歳頃のことです。父と二人で遊園地に遊びに行きました。乗り物に乗るために順番を待っている間、退屈を紛らわすために目を閉じてその…

ニワトリ

6月のある日の夕方に家に居ると、外出中の母親から電話がかかってきた。 かかりつけの病院に行って母の代わりに薬をもらって来てくれという内容だった。 俺は家を出て徒歩で病院に向かった。…

背無し

会社からの帰路の途中、ある大学の前を通る。 そこは見晴らしの良いただの直線だが、何故か事故が多いことで有名だった。 その道をあまり使わない人には分からないだろうが、毎日車で…

炎

再生する時間

私は一度死んだことがあります。この事実だけ聞いても、どういうことか理解しづらいと思いますので、詳細をお話しします。 私が小学1年生の頃の話です。夏休みが終わり、2学期が始まりま…

教室(フリー素材)

消えた同級生

小学2年生の時の話。 俺はその日、学校帰りに同じクラスのS君と遊んでいた。 そのS君とは特別仲が良い訳ではなかったけど、何回かは彼の家にも遊びに行ったし、俺の家に招いたこと…