もう一つの顔

公開日: 不思議な体験 | 怖い話

face_study_by_art_by_doc-d610d4e

学生時代の友人のM美の話をしようと思う。

その日、私はM美が一人暮らしをしているアパートへ遊びに行った。

私は絨毯に横になりながら、M美はベッドに腰掛けてのんびりくつろいでいたが、ふとベッドの下に目線をやると、人の鼻のようなものが見えた。

はじめは泥棒だと思い、息が止まりそうになった。しかし、どうも様子がおかしい。その顔はどんどん私の方に顔を近づけてきた。

私は恐怖でいっぱいになり、この部屋から早く出なきゃと思った。私はM美に何気なく一緒にコンビ二へ行こうと誘った。

M美は不思議そうな顔をしていたが、どうにか二人で家を出た。明るいコンビニで、私はM美にベッドで見たものの話をした。

まずベッドの下に鼻が見えて、だんだん人の顔が見えてきたこと。そして、その目をつむっているような顔が、M美の顔だったこと…。

それを聞いたM美は真っ青な顔をして、もうあの部屋には戻れないと泣き出した。私はとりあえずM美を落ち着かせて、近くの居酒屋に入った。

M美は恐怖から逃れたい様子で、焼酎を何杯も飲んでいた。店を出る前にM美がトイレへ行きたいと言い出し、トイレの前で彼女を待っていた時だった。

中から水を流す音が聞こえたあと、扉にぶつかったようなドンという音が聞こえた。

どうも様子がおかしかったので「M美、どうしたの?」とドアを叩いたが、声はしない。

急いで店員に伝えて鍵を開けてもらうと、M美はぐったり壁にもたれかかって虚ろな目をしている。

私は驚いて、すぐに救急車を呼んでもらった。救急隊員が駆けつけたが、助け出されたM美はすでに脈がなく、運ばれた病院先で息を引き取った。

死因はお酒の飲み過ぎによる急性の心臓麻痺とのことだった。

しかし、飲み過ぎが原因ではないと私は思う。

M美には話さなかったのだが、居酒屋に入る時、暗がりの向こうにベッドの下で見たあの眠ったようなM美の顔を私は見たのだ。私たちの後をつけてきたのだ。

私は今でも思っている。

あの顔は、トイレで一人になったM美の前に現れたのだと。

関連記事

玄関

入ってきた

数日前、普段通りリビングでテレビを見ていた夜、突然玄関のチャイムが何度も激しく連打されました。このけたたましい音にイラッとしながら玄関に向かいました。 我が家の玄関扉はすりガラ…

ゆかりちゃん

ゆかりちゃんという女の子がいた。ゆかりちゃんは、お父さん、お母さんと3人で幸せに暮らしていた。 しかし、ゆかりちゃんが小学校5年生の時に、お父さんが事故で亡くなってしまった。 …

女性のシルエット(フリー素材)

この女になろうと思った

友達が経験した話です。 高校の卒業式に、友人Aは同級生で親友だった男Bに告白された(Aも男)。 Aはショックで混乱しつつも、Bを傷付けないよう丁寧にお断りしたそうだが、Bか…

百物語の終わりに

昨日、あるお寺で怪談好きの友人や同僚と、お坊さんを囲んで百物語をやってきました。 百物語というと蝋燭が思いつきますが、少し変わった手法のものもあるようで、その日行ったのは肝試しの…

河童淵(フリー写真)

河童

幼稚園の頃、祖父母の住む田舎に行った時、不思議な生物に会いました。 のんびりとした田舎町で、周りに住んでいる人全員が家族のように仲が良い場所なので、両親も心配せずに私を一人で遊び…

犬の呪い

オチのない思い出話。 昭和45年、小学5年の頃、ある呪いの方法が少年誌に書いてあった。 犬を首輪で繋いで、その口が届かぬところに餌を置き、そのままにしておく。 犬は空…

トンネル(フリー写真)

旧生駒トンネル

大阪と奈良を結ぶ近鉄奈良線。 その間に生駒山が立ちはだかり、電車は長いトンネルを通ります。 現在使われているのは「新生駒トンネル」。 しかし昭和30年代に掘削された…

山(フリー写真)

山の物の怪

うちの爺さんは若い頃、当時では珍しいバイク乗りだった。 裕福だった両親からの何不自由ない援助のおかげで、燃費の悪い輸入物のバイクを暇さえあれば乗り回していたそうな。 ※ ある…

第二次世界大戦(フリー素材)

再生

祖父が戦争中に中国で経験した話。 日本の敗色が濃くなってきた頃、祖父の入っていた中隊は中国の山間の道を南下していた。 ある村で一泊する事になり、祖父達下士官は馬小屋で寝る事…

明け方(フリー写真)

顔の見えない母親

あれはまだ自分が4歳の頃、明け方の4時ぐらいの出来事。 明け方と言ってもまだ辺りは暗く、周りはぼんやりとしか見えない。 ふと気付くと俺はベッドの上に立たされていて、母親に怒…