神様のお世話

公開日: 不思議な体験

geisha_2012x18_20resize_original

俺小さい頃母親に軽い虐待っぽいものを受けてたのね。

でも当時はまだ小さくて、おまけに母子家庭で一人っ子だった俺は、他の家の家庭環境なんて分からないし、同い年の子がどういう風に親と接してるかも分からなかったから、きっと他所の家族もこんなもんなんだろうなあくらいにしか思わなかったから、誰かに言ったりもせずに普通に幼稚園とかも行ってたの。

で、たぶん6歳くらいの時に母さんが仕事を辞めたから、二人で母方の実家に住むことになった。

その爺ちゃんちってのが親戚の中で分家本家とかあるうちの本家の方で、家に大きな神棚みたいなのがあって、そこに神様が居たの。

神様って言ってもお化けとか普通の人には見えないとかそういうのじゃなくて、なんていうか神様の本体みたいな。

分家にはそれをかたどった偽者みたいなのがあるらしいんだけど、爺ちゃんちは黒塗りでちっちゃい観音開きの縦置きにした棺みたいなのにその神様が入ってるのね。

でも、その神様は女の人がお世話をしちゃいけないみたいで、毎年決まった日にその家の男の人が中から出して世話をするのがしきたり。

俺には父さんが居なかったから自動的に次に世話をする役目につくのは俺って言う事になる訳で、爺ちゃんはそれが嬉しかったんだか、ノリノリで神様のことを小さい俺に説明してくれたりしてた。

俺は神様がぬいぐるみのように可愛く感じ、小さな家族みたいなイメージで大好きになって、幼稚園から帰ってきては神様に向かって話をして、庭で花を摘んでは家の裏にあるお稲荷さんとその神様にお供えしたりしてた。

ある日、爺さん婆さんが居ないうちに母さんが俺にプチ虐待をしてくるような事があって(喜ばれる話じゃないから具体例割愛するね)、でも俺は虐待って認識はなかったから、凄く怒られたくらいの捉え方で家の裏のお稲荷さんの祠まで逃げてそこで泣いてたんだ。

それで俺はいい事を思いついた。母さんのことを神様たちに相談することにしたの。

俺は泥で作った団子と花とお金とをお稲荷さんと神様に供えて

「母さんが許してくれますように、俺の事もっと好きになって優しくなってくれますように」

ってお願いした。

でも、当然そんな事をしたぐらいで事態が良くなる事はなくて、むしろ仕事を始めたばかりでストレスが溜まってたのか、母さんのプチ虐待は頻度を増してった。

次第に爺さん達も俺の痣とかを怪しみ始めてて、子供心にもこれはやばいと思った俺は、毎朝毎晩お供え物を持って何度も何度もお願いした。

そしたら2週間くらいたった頃、明け方早くに目が覚めることが多くなって来たんだ。

物音がしたような気がしてはっとして起きるけど音なんて全然鳴ってない。

そんなことが何日も続いた。

そしてある日の朝、3時か4時位にいつものように目が覚めてしまった俺は、おしっこがしたくなって便所に行くついでに神様に挨拶をしに行くことにしたんだ。

それで縁側の廊下を歩いてたら、庭に誰か居ることに気づいた。

障子を開けてみると、見た事ない白緑の着物を着たおじいさんが、庭にある焼却炉の上から俺をじっと見ていた。

おじいさんは俺と目が合った事に気づくと、にこっと笑って頷き、俺に向かって何かゆっくり喋った(ガラスが閉まってたから声は聞こえない)。

俺はきっと近所の神主さんか何かなんだろうと思って、お辞儀をしてそのまま便所に行って寝たんだけど、それから何日も経たないうちに母さんが倒れた。

原因は職場のストレスらしかったけど、胃がおかしくなったみたいで、2週間かそのくらい入院していた(たぶん精神科とかにも行ってたんだと思う)。

2週間後、退院して帰ってきた母さんはそれこそ人が違ったかのように、俺に優しくなっていた。

というか、母さんじゃなくなってた。

もう明らかに違う。見た目とか声とかは変わってないんだけど、俺に対する態度とかはまるきり別人だった。

まず、呼び方が変わっていた。

以前は下の名前でそのまま読んでいたのに、帰ってきた母さんは俺をゆーちゃん(本名がゆうすけなんです)なんて呼びはじめて、おまけにいきなり料理が作れるようになったり、手を繋ぎたがるようになったり、昔はありえなかったのに一緒に買い物に連れて行ってくれたり、オムライスの字とかまで書いてくれたりするようになった。

でも、その代わりに俺の好きな物とか好きな色とかは忘れてる。

もともと知ってる方ではなかったけれど、きれいさっぱり。

母さんが押し花を見て

「ゆーちゃん押し花が好きなの? お母さんも押し花やってみたいな」

とか言う。俺が知ってる母さんの唯一の趣味が押し花なのに。

そして、それから13年間、今に至るまで母さんはそのままだ。

虐待の事はそもそも俺と母さんしか知らなかったんだけど、そのことに関してもまるきり忘れたみたいな感じだった。

もちろんそれから殴られたり蹴られたりもしなくなった。

これは俺の勝手な想像だけど、神様は別の誰かを母さんの中に入れたんじゃないかと俺は思ってる。

だとしたら、最初に母さんの中に入ってた本物の母さんはどこに行ったんだろう。

俺ももうそろそろ二十歳。神様のお世話をする年齢が間近に迫った今、それが毎日気になって仕方がない。

関連記事

メールの送信履歴

当時、息子がまだ1才くらいの頃。 のほほんとした平日の昼間、私はテレビを見ながら息子に携帯を触らせていた。 私の携帯には家族以外に親友1人と、近所のママ友くらいしか登録して…

団地(フリー写真)

エレベーターの11階

18年前に体験した話です。 中学生の頃に朝刊を配る新聞配達のバイトをしていたのだけど、その時に配達を任されていた場所が、大きな団地1棟とその周りだけだった。 その大きな団…

彼の予見

昔付き合っていた彼氏の話。 当時高校生だった私は、思春期にありがちな『情緒不安定』で、夜中に一人で泣く事が多かった。 当時はまだ携帯なんて高嶺の花で、ポケベルしかなかったん…

着物を着た女性(フリー写真)

止まった腕時計

友達のお父さんが自分にしてくれた話。 彼には物心ついた頃から母親が居なかった。 母親は死んでしまったと、彼の父親に聞かされていた。 そして彼が7才の時、父親が新しい母…

女性の後姿

勘の鋭い姉の話

一年前から始めた一人暮らし以降、私は不眠症に悩まされるようになった。数ヶ月前、普段霊などには触れない勘の鋭い姉が遊びに来た時、彼女は「ここ住んでるんだ。そうかそうかなるほどね」と何や…

夜の住宅街

山に棲む蛇

20年前、山を切り開いた地に出来た新興住宅地に引っ越した。 その住宅地に引っ越して来たのは私の家が一番最初で、周りにはまだ家は一軒もなく、夜は道路の街灯だけで真っ暗だった。 …

満タンのお菓子

私の家は親がギャンブル好きのため、根っからの貧乏でした。 学校の給食費なども毎回遅れてしまい、恥ずかしい思いをしていました。 そんな家庭だったので、親がギャンブルに打ち込ん…

旅館(フリー写真)

いにしえの宴会

旅行先で急に予定が変更になり、日本海沿いのとある歴史の旧い町に一泊することになった。 日が暮れてから旅館を予約したのだけど、シーズンオフのためか、すんなり部屋が取れた。 …

霧島駅

実際にその駅には降りていないし、一瞬の出来事だったから気の迷いかもしれないけど書いてみようと思う。 体験したのは一昨日の夜で、田舎の方に向かう列車の中だった。 田舎と言って…

眼鏡

眼鏡の思い出

祖父が生前、私たち家族には常に厳しい人でありながら、時折見せる優しさとともに存在感を放っていました。 彼が亡くなった後、家族として彼を失った悲しみが心の隅に深く残っていました。…