ゲラゲラ(長編)

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去年の4月に大学を卒業して、マンションに引っ越した。

そのマンションの真ん中が中庭になっていて、俺は左端に住んでいる。

6階建てのマンションで、右側にマンションの玄関があり、そこからしか出入りはできない。

中庭といっても地面も壁もコンクリートで、使い道は全くない。

俺の住んでる部屋からはドアがあって中庭に入れるが、他の部屋からは入れない。

その中庭がおかしいんだ。

どうおかしいかは説明できないんだが、とにかく中庭にしばらくいると目が回って気分が悪くなる。

住み始めた頃は中庭には入ることもなかったから判らなかったんだけど、5月に部屋を掃除することにしたんだ。

このマンションではよく小さな虫が結構沸いてくるから、殺虫剤を撒きに中庭に入った。

殺虫剤を撒いてたらフラフラしてきたから、始めは殺虫剤の成分を吸い込み過ぎたかと思って気にしなかった。

暫くして、6月にまた掃除をしに中庭に入った。

ホウキとチリ取りを持って中庭に入ったんだが、それだけでフラフラしてきた。

暑かったし、空気が篭る場所だからそれにやられたのかなと思い、時々休憩を入れながら中庭を掃除した。

中庭に入ると視界がぐるぐる回り、部屋に入るとすぐに回復。

あまりにもすぐに気分が悪くなるし、部屋に戻れば良くなるから、なんかヤバい気体でも湧いているのかなと思った。

管理会社に電話して中庭について聞いてみたら
「以前に住んでいた人からはとくに連絡はありませんでしたが、念のため」というわけで調査に来てもらった。

管理会社の人がやってきて、排水溝やなんかを調べてくれたけど異常なし。

俺も立ち会ったんだけど、どうも目が回るのは俺だけのようだった。

臭いもしないし、管理会社の人は気分悪くならなかったので、そのまま帰ってもらった。

その後も中庭に入ると目がぐるぐる回るのは続いた。正確には中庭に入り、部屋との境のドアを閉めるとなんだが…。

それから暫く経ち、10月の掃除の日に中庭に入った時ことなんだ。

別に暑くもなく、俺の体調も全く悪くない。

中庭に入ってすぐに目がぐるぐる回った。今までよりはるかに強かった。

ドアを閉めた瞬間に一気に上下が分からなくなり、倒れてしまったんだ。

気分が無茶苦茶悪くなり、吐きそうになりながら、とにかく身体を左右にゴロゴロ転げ回していた。

視界が赤黒く染まっていき、そのまま一瞬だけ意識がなくなった。

一瞬というか、まばたきした瞬間に赤黒いのがなくなった。

気分が悪いのも全くなくなり、俺はそのまま掃除をして、部屋に入った。

部屋に入った後、喉が渇いたから水を飲もうとキッチンに向かった。

キッチンから空が見えるんだが、とにかく空が青い。

やたらと濃い青色をしてるんだ。

『今日はいい天気なんだなー』とか思いながら、俺は掃除も終わったし、漫画を読みにコンビニに向かった。

玄関から出て空を改めて見ると驚愕した。

とにかく濃い青色で説明しにくいけど空が高い。

で、空気に臭いがあった。

嫌な臭いではないけど、とにかく嗅いだことのない臭い。

マンションの廊下を通ってコンビニに向かうんだけど、その途中に町内会の掲示板がある。

そこに目をやると違和感を感じた。見てみるとなんだか脈絡のない文書ばっかりなんだ。

“ア活めるゆフィ柿のさと”

とか、日本語をごちゃ混ぜにした文書が書かれてる。

掲示板に張られている紙が全部そんな感じ。

政治家のポスターなんかも政治家の顔写真に

“へつ下のイ目はタイ燻ら當兎”

マンションを出て道を挟んだらすぐにコンビニがあるんだが、マンション前の道路で信号待ちをしてるとやはりおかしい。

コンビニの看板やマンションの横は花屋なんだが、花屋の看板もおかしい。

“花屋はヤ母イ”

とか、コンビニは

“イイ目だ”

とか書いてある。

通行人とか車はいるんだが、そっちは特に変わったところはなかった。

コンビニに入ると

「アヨダナマーリッサー」

的な声を店員が発した。

本棚に向かうと本の表紙の文字もおかしい。掲示板と一緒で日本語をやみくもに並べた感じ。

段々と怖くなってきて、なんとなく携帯電話を取り出した。

携帯電話は圏外。メールとかは今まで通り普通の日本語。

本棚以外の商品とかを見ても、訳が解らない日本語の羅列。

さらに怖くなってきてコンビニを出た。

『おかしい、おかしい』と思いながら部屋に戻ってテレビを点けると、テレビの言葉も理解できない。

見たことない番組ばかりで、知ってるタレントなんかは皆無。

水をもう一杯飲んで自身を落ち着けた。

頭を打っておかしくなってしまったのかと思い、近所の掛かり付けの病院へ行くことにした。

病院に向かう道中も、文字は意味が解らないものばかり。

とにかく誰か知ってる人に会いたい、話したいと考えながら病院に向かった。

病院に着いて病院の看板を見ても意味不明。

言葉が伝わるかかなり不安な中、受付に行くと案の定、お互いに意味不明。

「頭を打ってしまって調子が悪いんですが」

と言ったんだが受付の人からは訳の解らないことを言われた。

保険証を見せたんだが、首を傾げられる。

「俺の言葉、解りませんか?」

と訊くも全く伝わらない。

うにゃうにゃと何か言われて、受付の人が電話で何か話しだした。

それで白衣の男の人が出てきて、俺に話しかけるんだけど、何言ってるか全く解らない。

男の人は受付のソファを指差し、俺を身振り手振りで誘導した。

俺と白衣の男の人と一緒に座った。

白衣の人は色々話しかけてきてくれるんだが、俺は意味がわからず、保険証や運転免許証を見せたりしてた。

しばらくしたら警察らしき人が3人きた。

警察らしき人と白衣の人は、チラチラと俺の方見ながら話をすると警察が俺に近づいてきた。

ペコッと頭を下げたあとに俺の手を取って軽く引っ張ってきた。

何がなんだがわからないがとにかく俺は警察が何とかしてくれると思ってそのまま引っ張られていった。

パトカーのような車の中で、警察の偉いさんみたいな人が声をかけてきたけど、やっぱり訳が解らない。

俺はもうとにかく泣きたくなってきて、不安で不安で仕方なくなってきた。

恥ずかしながら母親に会いたいとか思いながらぶるぶる震えてた。

警察の偉い人は俺の肩から背中にかけて何度も何度も撫でてくれて、優しそうになんか言ってくれた。

おかげで何とか泣いたり、錯乱したりせずにおとなしくできた。

警察署みたいな場所に着いて応接室らしき場所に通された。

広くてソファがあって、すぐに緑色のお茶らしき液体とお菓子らしきものを出してくれた。

お茶とお菓子をみると無性にがっつきたくなった。

ジェスチャーで食べて良いみたいな素振りがあったので、手を合わせてからお茶を頂いた。

少し熱かったけど、甘いとしょっぱいの中間みたいな味だった。

温かい物を口にしたおかげか、少し落ち着きを取り戻した。

お菓子にも手を伸ばした。形状は煎餅みたいなのと小さな饅頭みたいなの。

煎餅も饅頭もとくに変な味じゃなく、それなりに美味しかった。

警察署の人達が応接室にいて、ずっと俺を観察してた。

お菓子を食べる手は止まらず、ずっとパクパク食べていたら、スーツの人が2人入ってきた。

スーツの人は俺の前で両手を出すと手の平を俺に向けてきた。

で、両手の裏表とひっくり返したら今度は鞄からペンライトを出した。

スーツの片方が俺の横に座って、両手を優しく押さえてきた。

別の片方がペンライトを指差すと光を俺の目の方へ当ててきた。

俺はそのまま光を見てると、スーツに瞼を広げられ反応を観察された。

結局両目をやった後、今度は口内、鼻、耳にも光を当てられた。

診察みたいなのが終わって、隣のスーツが手を離してくれた。で、今度は話しかけられた。

スーツの人が何か言うと間が空く。明らかに俺に質問をしていた。

でも、俺は言葉が解らないから黙っていた。質問毎に紙にチェックをしてた。

どうしていいか分からず首を傾げていたが、文字なら伝わるかもと思い携帯電話を出した。

携帯電話の新規メール作成で「言葉がわかりません」と打って、向かいに座っているスーツの人に見せた。

スーツの人はなんかすっごいびっくりした感じになった。

でも、相変わらず訳の解らない言葉を警察の人と話して、俺の携帯電話の画面を見せ合ってた。

その後、紙に「言葉がわかりません」ってスーツの人が書いて、ペンでその文字を指した。

俺は「うんうん」と頷いたんだが、そこで沈黙。

ちょっと間があってスーツの人が「言葉がわかりません」の文字の上を指でなぞりながら

「ウヨメ、が、わかりません」

って、ゆっくりと言ったんだ。

で、俺が

「ことば、が、わかりません」

って返した。

俺はペンを借りて「あ」って紙に書いて「あ」って言った。

そしたらスーツの人が「あ」と言ってうんうんと頷いてた。

今度は「こんにちは」と書いて「こんにちは」と言ったら一文字一文字指を指しながら

「こ、ん、に、ち、は」

とスーツの人が言った。

今度は漢字で「京都」って書いて「きょうと」って言ったらスーツの人は首を振って「うんた」みたいなこと言った。

で、もう1人のスーツの人が、そいつの携帯電話でなんか話し出した。

スーツの人が携帯電話で話し始めたら俺と話してくれてた人もそっちに注目して会話は終了した。

携帯電話の通話が終了したらそいつが何やら話し始めたらんだが、訳が解らない。

そしてスーツの2人はそのまま退室。俺はさらに困惑した。

その後、警官が写真みたいなのを何枚が持ってきて机に並べた。

写真は全て食べ物の写真だった。

うどんや丼、寿司もあったけど、中にはお米に野菜を刺したような、初めて見るものもあった。

警官が写真の上全体を軽くなぞった。

どれか一つ選んで欲しいという意味かと思い、丼を指差した。

「うんじ?」

みたいなことを言われたけど、俺は訳が解らなかった。

俺は丼の写真を指差して、箸で食べる仕草をした。

そしたら、大きく頷かれて部屋を出ていった。

その後しばらく放置されて、そのまま。警官の人が何人かいるけど終始無言だった。

俺はどうしようかと考えたけどどうすることもできず、お茶を飲んだり辺りにあるものを観察したりした。

お茶は美味しいし、すぐにお替わりはくれた。

ソファをはじめ、机やドアなど、とにかく今までと何ら変わりはなかったが、文字が意味不明だった。

お菓子の包装紙にアルファベットが書いてあるんだが、これも意味不明。

英語ではないようだった。

他にも色々物色しようと立ち上がろうとすると、部屋にいた警官に囲まれてしまうんだ。

結構ガチな感じで囲まれて、明らかに臨戦体勢。

俺はびびっておとなしく座りながら辺りをキョロキョロしてた。

しばらくしたらさっき写真見せてくれた人が丼持って帰ってきた。

箸もあるし、どうぞ、みたいな手振りをしたので、手を合わせ、頭を下げてから頂いた。

味は普通の卵丼だった。とにかく不安のせいかお腹が減っていたので、かなりの勢いでがっついた。

お腹が膨れ、少しだが落ち着きが出てきた。

ずっと緊張しっぱなしだったが僅かに頭が回転しだした感じがした。

そうすると今度は色々な写真が出てきた。

人物とか風景とか絵画とか。

どれも知らないものばかりで反応に困った。

1枚1枚手に持ってくれて、見やすくしてくれたり、部分部分を指差してくれるんだが、どう対応していいかわからない。

しばらくそんなやり取りが続いたが、無意味と思ったのか終了した。

で、今度は病院から移動してきた時みたいに優しく手を引っ張られた。

移動するのか、と思った俺は立ち上がった。

今度は囲まれることはなく、手を引っ張られながら部屋を出た。

部屋を出るとなんとなく空気が重い感じがした。

さらにしばらく署内を歩くと SPっていうか明らかに物々しい奴らが俺の周りを囲いだした。

俺はそのまま駐車場にいき、車に乗せられた。真っ黒ででかい車だった。

さらに前後には別の黒い車があって、一緒に走りだした。

後部座席の真ん中で左右は警官。

そのまま車で移動しながら1時間ぐらい車内にいたんだが、眠くなって俺はそのまま眠ってしまったんだ。

気がつくと俺はベッドで横になってた。

車の中じゃなくて病院みたいなところで、医者やナースのような人がたくさんいた。

起き上がろうとすると頭がガンガン痛くなって、無茶苦茶気分が悪くなった。

医者が俺の顔を覗きこみながら、ペンライトみたいなものでまた目や耳、口内を見られた。

とにかくちょっとの衝撃で頭が割れるように痛いので何もして欲しくなかったが、身体もうまく動かせなかったので、おとなしく耐えてた。

医者が診察を終えると他の医者達となにやら話をし始めた。

話し終えたかと思うと、今度は違う医者がペンライトではなく顔や頭を触ってきたり、機械の棒みたいなのを耳や鼻に突っ込んだりされた。

医者達は基本的に無表情だけど、話す時は怪訝そうな感じだった。

俺はいい加減イライラしてきて「痛い!」って声に出した。

発した瞬間に医者達はかなりびびった感じになった。

その後、すぐに肩のあたりを注射されて意識が薄れていった。

気が付くと金属というか壁とベッドとトイレしかないような部屋にいた。

窓もないし、本やテレビもない。何もない部屋だった。

ただ、天井には監視カメラが4台ついてた。

起きようとするが、頭痛が酷くてうまく起きれなかった。

ゆっくりと身体を起こすと壁が隠し扉のようになっていてノブがないんだが、そこが開いてナースが入ってきた。

ナースは食事をキャスターで運んで、俺の耳に金属の棒を入れてすぐ出したあと、何も言わずに出ていった。

パンとゆで卵とサラダとオレンジジュースだったが、オレンジジュースだけ飲んだ。

とにかく頭痛が酷くて動けなかった。

でも、眠るのも限界で全く眠くない。

痛みを我慢しながら少しずつベッドから出てみた。

格好は病院着みたいなワンピースで下着とかは履いてなかった。

ベッドが降りて立とうとするんだが、うまく立てない。

足に力が入らず、ふらふらと床に倒れ込んでしまうんだ。

そのまま激痛が走って、気絶。

気が付くとまたベッドの上だった。

そんなのが何回か続いたあたりで、発狂というかとにかく叫びたくなった。

頭が痛いのもなんとなく快感に変わって、俺はとにかくベッドの上で叫びまわってた。

ごろごろベッドの上を笑いながら転がったり、監視カメラに向かって一生懸命話しかけたりしてた。

笑いがとにかくとまらない。

かと思うと、いきなり元いた世界が恋しくなって泣き始めたりしてた。

定期的かは分からないが、気が付くとベッドに拘束された状態で MRI装置のようなものの中に入れられたりしてた。

正直、感覚が色々おかしくなってきていて、頭痛→快感→熱さ・寒さ→こそばゆい、と頭の感覚は変わっていった。

熱さとか寒さはとにかく頭が熱かったり、寒かったりする。尋常じゃないぐらいに。

新しい感覚が頭に入る度に俺はキャーキャー言ってた。

しばらくそんな生活が続いて、また MRIの中に入れられたんだ。

「ブウーン…」という低い音が響いたかと思うと、頭が破裂するぐらいの激痛が走った。

目玉が飛び出すぐらい頭に力が入った。

のたうちまわるんだけど、拘束具で動けなくて、ガチの悲鳴をギャーギャーあげてた。

そのまま気絶して、気がつくとまたベッド。

そしたら気分というか感覚が元通りになった。

痛いのも変な感覚もなく普通。

そしたら今度は部屋の中を普通に歩けるようになったので、散策し始めた。

特に何も見つからかったが、壁は柔らかかった。

そうしていると、いきなり部屋の中にまたあの訳の解らない言葉が響き、色々言われ始めた。

罵倒される感じじゃなく、説明する感じで。

暫くして隠し扉みたいなのが開くと、普通の格好をしたおじいさんとおばあさんが入ってきたんだ。

入ってきたおじいさんとおばあさんはいきなり跪いて、泣きながらまたまた訳の解らない言葉を言った。

俺は意味が解らなくて困惑する訳だが、2人は泣きながら手を合わせたり土下座したり。

どうしていいか分からないからボーッと立っていたら、俺の右手におばあさんがしがみついた。

『えっ!』と思ったら、おばあさんは泣きながら更に頭を下げたり、俺を見上げたりした。

俺も姿勢を低くするために跪くと2人はさらに頭を床に擦りつけて、土下座した。

状況や言葉は解らないが、どうやら謝っているように見えた。

俺は事態が解らないながらも何か申し訳なくなって、おじいさんの両手を取って握ってみた。

そしたらまた号泣。

ずっと困惑する訳だが、いきなり隠し扉が開いて警備員みたいな人に軽く引っ張られてながら2人は出ていった。

それで隠し扉の向こうが気になって覗いてみたが、真っ暗でよく見えなかった。

さらに今度は警備員に連れられて子供がやってきたんだ。

スーツにネクタイで丸坊主の白人だった。

子供は警備員に守られながらゆっくりと俺に近づいてきた。

そのまま俺の 50cmぐらい前にきたら「ボンッ」て音がした。

音と一緒に、子供の首周りの襟巻きトカゲみたいな金属の板が広がったんだ。

俺はびびってのけぞいたんだが、子供はそのままゆっくりと近づいてきた。

そして右手をゆっくり差し出してきた。

その瞬間に俺は警備員に押さえ付けられて頭を下にされたんだ。

警備員に後ろで押さえ付けられながら、頭を上からぐいぐい押された。

子供は手を俺の耳にあてた。

そしたらブルブルッと震えがきたんだ。

子供は機械音声みたいな声で「キーイーハーキー」みたいな声を発した。

頭が下に向いてるから何をされているかよく判らなかったが、耳の穴から何かが入ってくる擽ったさとモゾモゾ音がする。

モゾモゾ音がしばらく続いた後、ブチッと音とともに激痛が走った。

どうも鼓膜を破ったらしく、頭の中の触れない部分を触られてる感覚があった。

反対の右耳からは「ゴソゴソ」みたいな音が聞こえた。

痛くて痛くて仕方なかったし、何より耳から何かが侵入してる恐怖で全身に力を入れたが、警備員は増え、さらに厳重に押さえ付けられた。

悲鳴も上げたが、この行為は続行。正直、このまま死ぬと思った。

とにかく苦痛と恐怖に耐えた。

『次の瞬間死ぬ』と何度も感じたが、とにかく何もしなかった。

しばらくするといきなり頭の中で「キキキキキキキキキキカカカカカカカカカカ」というような音がなった。

段々と音は高くなっていった。

暫くすると音が高過ぎて頭が痛くなってきた。

それでも音は鳴り続け、さらに頭の中を指みたいなのが触ってくる感覚がきた。

押したり、つねったりされてる感覚。

次に真ん中からスパッと頭を別けられるような感覚がきた。

死んだと思ったが、身体はそのまま。頭の中から音や指の感覚はなくなっていった。

子供の足が後ろに下がって行って、俺を押さえ付けてた警備員も離れた。

俺はその場にへたりこんだ。

子供は肩のところまで血がついていた。

左耳を触ってみたら、案の定俺の手にも血がついていた。

隠し扉が開いて、子供と警備員は出て行った。

その後、ナースと警備員が入ってきて、耳の血を拭いてくれた。

耳には血が付いてるだけで、出血はなかった。

ナースが作業を終えると今度はまた医者がやってきた。

何やらタブレット端末のようなものを持っていた。

その画面をこちらに見せてくるんだが、警察の時と同じような画像ばかりだった。

俺はお腹が空いたし休みたかったが、それを伝えることもできず、だるそうに医者を相手にしてた。

何枚か画像が変わった時に俺のマンションの外観の画像が出た。

今までは人物や風景、何かイベントの写真ばかりだったのに、いきなり知っている画像が出て俺は驚いてついつい反応してしまった。

医者は俺の反応を確かめたみたいで次の画像にいくとマンションの俺の部屋の入口の画像になった。

画像は俺の部屋の中に入っていった。

リビングやキッチン、風呂場、寝室と写っていた。

キッチンから外を見る限り、この画像は元いた世界のようだった。

画像を全て見せ終わったようで、画面が真っ暗になった。

医者達は真っ暗になったのを確認すると、落胆している奴とか熱く語りはじめる奴とかがいた。

皆が熱く語っている中、1人の医者がタブレット端末のようなものを出した。

周りの医者が「やめろよ!」みたいな感じでそれを抑えようとして、喧嘩っぽくなった。

警備員が間に入り、今度は怒鳴り合いが始まった。

俺を何度も指差して何やら怒鳴ってた。

怒鳴られたほうも首を振ったり、両手で何かジェスチャーして何かを必死にお互いに伝えあってた。

しばらく討論みたいなのが続いて、結局懐からタブレット端末を出した奴は負けたみたいでおとなしくなった。

結局、別の医者がタブレット端末を出してきて、また訳の解らない人物や風景の写真を見せられた。

医者は5人いたと思う。

代わる代わる画像を見せるが、始めの1人以外の画像は意味不明だった。

最終的に、さっき討論に負けた奴がニヤニヤしながらタブレット端末を出した。

なんか怖かったけど、タブレット端末を見ると

“イ 画”

“ら 桜”

と書かれた画面を出された。

俺は意味が解らなかったので何も反応しなかった。

次に、そいつはまたニヤニヤしながら画面を変えた。

今度は

“そ あ”

“ややや”

“メンかな”

“離”

みたいなことが書いてあったと思う。この辺はあまり正確じゃないかも。

俺はまた無反応なんだが、そいつはニヤニヤしながら画面を変えていった。

しかも時々、こらえられないのかプッと吹き出したりしてた。

ニヤニヤしたり吹き出したりしていると、周りの医者が「やめろよ」ってな感じで肩を叩いたり、無理矢理向きを変えようとしてた。

今度はいきなりゲラゲラ笑い出したかと思うと、タブレット端末の画像が中庭の画像になった。

俺はマンションの中庭だと思ってまた反応してしまった。

何となく、とても懐かしい感じがした。

マンションの外観やキッチンや寝室、リビングも懐かしいはずなのに、中庭のほうになぜか感動した。

医者はゲラゲラと笑いながらタブレット端末を俺の顔に近づけてきた。

タブレット端末が俺の顔面に当たって、今度は警備員に医者が取り押さえられた。

5人の医者の中ではじめに俺に画像を見せた医者が隠し扉の方を指差して、何か怒鳴った。

中庭の画像を見せた医者は、ゲラゲラ笑いながら何かを俺に向けて怒鳴りながら警備員に退場させられた。

残った医者達は頭を下げてきた。俺も頭を下げた。なんとなく。

そのまま医者や警備員達は部屋を出た。

やっと静かになったと思い、俺は眠ることにした。

だがなかなか寝付けず、お腹が空いたし喉が渇いたので、俺はベッドから出て監視カメラに向けて、箸でご飯をかきこむ仕草や水を飲み仕草をしたが、無視だった。

腹が立ってきて壁を蹴ったが無駄だった。

結局、寝るしかないのでベッドに戻った。

すると、ベッドとベッドを支える台の隙間に何かがあるのを見つけた。

黒い土台に白い布団が上に置かれているベッドなんだが、明らかに布団以外の白いものがその隙間から出ていたんだ。

俺はそれを見付けると隙間から出した。

紙だった。

紙には

“ずっとそこに”

と書いてあった。

意味不明だが、自分の知っている言葉だった。

『ずっとそこに…?』なんて考えていると隠し扉が勢いよく開いた。

警備員が凄い勢いで部屋の中に入ってきて取り押さえられた。

反射的に紙を握ってしまったんだが、警備員達の狙いは明らかにその紙で、俺は右手を無理矢理パーにさせられた。

警備員達は紙を回収するとすぐさま去っていった。

のしかかられたので痛いし、せっかくの発見は取られるしでマジでイライラしたが、何もしなかった。

“ずっとそこに”

の意味を考えることにした。

ふて寝しながら考えていると、ナースが食事を持ってきた。

もちろん、警備員も一緒。

俺にのしかかった奴だったからイラッとしたが、とにかくガツガツ食べた。

食べ終わると頭に血がいくのがわかったが、しばらくすると気分が悪くなってそのまま寝た。

気がつくとまた MRI見たいなのに入れられて検査されてた。

「ブウーン…」という音はしたが、今度は痛くなかった。

ただ、今度は頭の中にフラッシュバックというのか、目を開けてるのに視界が一瞬だけ全く別の場所になったりした。

フラッシュバックした画像は、俺の実家や小学校みたいな昔のやつから、新しい大学のものまでと全く知らない画像もあった。

白人で金髪の女が荒れ地に立ってる画像だったり、真っ黒なクレーターみたいなのの淵に立って下の方を見ていたり。

次々に画像が入れ替わっていった。

段々と画像の入れ替わりが早くなり、始めは瞬きする時にチラッと見えたのが、もはやまともに目が見えないぐらいだった。

意味不明な画像と俺の思い出はランダムに映し出された。

最終的には目が空いているのか空いていないのか分からなくなるほど、画像が絶え間無く連続してフラッシュバックした。

段々と目が痛くなってきた辺りで、気を失ったのか俺はベッドにいた。

ベッドには居るんだが、目にはギアみたいなものが付けられていて何も見えかった。

瞬きをしようにも目が全く動かなかった。

ベッドの肌触りから戻ってきたことはわかったが、失明したのかと不安になった。

それからは暗闇と MRIのフラッシュバックの連続だった。

フラッシュバックの内容は相変わらず意味不明な画像ばかりだが、俺の中でも忘れかけていたような、知っている画像も出てきた。

そんな時間が続いたある時、いつものように MRIの途中で目が痛くなってきて、気が付いたらベッドだった。

だが、例のゲラゲラ笑いが聞こえた。

ゲラゲラ笑いでヒィヒィ言いながら延々と訳の解らない言葉を発していた。

声の質から同じ部屋にいて、移動しながら笑っているようだった。

時々頭を触られたりしたが、とにかく恐怖だった。

何言ってるかわからないし、暗闇の中にあの笑い声と訳の解らない言葉のみがあるのは怖かった。

しばらく笑うと「あぁー」と笑いが止まった。

で、耳元で

「ずっとそこに」

と囁かれた。

そう囁くとクスクス笑いながら部屋から出ていった様子だった。

その直後に建物が揺れて爆発音がした。

警報がみたいなのが鳴り響いたが、この部屋には誰も来ないようだった。

警報が鳴り続けて、しばらくすると煙の臭いがし始めた。

ヤバいと思ったが、目も見えないし、どうしていいか分からず、とにかくベッドから出た。

手を前に出して、隠し扉があったあたりに向かった。

壁を調べたが隠し扉は開かなかった。

監視カメラがあった方に手を振ってみるも反応なし。

段々と煙の臭いが濃くなってきて、いよいよヤバいなと思っていると隠し扉が開いたような音がした。

すると誰かが入ってきた気配がした。

俺はそのままその誰かに担がれて部屋から運び出された。

俺は神輿みたいに肩で担がれているようだった。

隠し扉は幅が細く、担いだままでは通りくいようで、時々頭と足をぶつけた。

で、俺は

“ずっとそこに”

を思い出した。それに、いっそこのまま煙を吸って死にたかった。

だから、隠し扉を通させないようにわざと両手両足を開いたり、暴れたりした。

怒鳴るような声がしたが、何を言ってるのかわからない。

色々隠し扉から出られないように頑張っていたけど、2人か3人ぐらいで手足を押さえられ、隠し扉を通過したようだった。

隠し扉を出ると色々な方向から怒声や叫び声が聞こえた。

何より熱いし、煙がやばかった。

口と鼻のあたりにタオルを押し当てられて煙を吸わないようにされてた。

しばらく走って階段みたいなところを下りて行った。

その辺りでまた揺れて、爆発音が鳴った。

爆発音の後に床に落ちてしまい、とても痛かった。

床は固かった。

逃げようとしたけど、結局また捕まって担がれた。

そのうち空気で明らかに外に出たのが分かった。

外には出たが、まだ走りっぱなし。

しばらく走った後にピタッと止まった。

止まったかと思うと、今度は地面にゆっくりと下ろされた。

下ろされはしたが、肩と足を押さえられた。

『えっ?えっ?』と思ってキョロキョロしていると顔を押さえられた。

今度は何やら訳の解らない言葉で話しながら、目のギアが付いているあたりを触り始めた。

何度も何度も

「たむから!たむから!」

と言われたが意味が解らなかった。

辺りからは、怒声とか「ビシャー」とか水を撒く音はしていた。

そしてギアが外された訳だが、瞼が開かない。

目の横の辺りが冷たくなったと思ったら痛みが走り、ようやく目が開いた。

眩しくて痛くてすぐに目を閉じたけど、一瞬見えた視界にはナイフを持った手が見えた。

「たむから!たむから!」

とか言われてるけど、尚も意味が解らなかった。

ゆっくりと目を開けると全然知らないオッサンが3人いて、心配そうに覗き込まれた。

俺が目を開くと3人は無茶苦茶興奮し始めた。

作業着っぽい格好をしたオッサン3人がやたらとはしゃいでいた。

周りを見ると地面はアスファルトの駐車場みたいな感じで、周りはビルだった。

で、案の定1つのビルからモクモクと煙が上がっていた。

オッサンが俺を思い切り引っ張ってきた。

力が強くて逆らえず結局、また担がれて走り出した。

担がれたまま、俺はすぐ近くのビルに入った。

ビルは大阪の梅田スカイビルみたいな感じで、俺は真ん中にいたみたいだった。

ビルに入るとそのままエレベーターに乗った。

ぐんぐん上に上がっていった。

真向かいのビルから煙が出ているので、上に行けばまた煙の臭いがしてきた。

上の方まで行ったら、今度はまた下へ向かうエレベーターに乗り換えた。

エレベーターは地下まで行って、駐車場に出た。

すると大きな車がきた。

こっちの世界にはないような形で、後部がやたらとでかかった。

俺は警察から移動する時と同じように、また真ん中に座らされた。

そのまま車は発車。

外に出て煙が出てるビルから遠ざかった。

助手席から例のゲラゲラ笑いの医者が顔をだした。

ゲラゲラ笑いの医者は俺に向かって今度は優しく微笑んだ。

「もう大丈夫だよ」

確かにこう言った。流暢な日本語だった。

俺は一瞬意味がわからなかったが、その言葉を認識した瞬間

「うええああ!?」

と叫んだ。

で、左右のオッサンを「え?え?」って感じで見るんだが、左右のオッサンはこっちを見るだけで何も言わなかった。

「え、あ、ことは、わかる、すか?」

的な返事をしたと思う。

正直、俺の方が日本語おかしかった。

ゲラゲラ「私の言葉わかりますか?」

俺「はぃ」

うまく発音はできないが、何とか日本語を話せた。

ゲラゲラ「今から、あなたを、元の世界に、戻します、いいですか?」

俺「ふい」

はいのつもりだったが、発音を忘れていた。

ゲラゲラ「京都府、京都市、○○区、○○の○番地、○○、マンション、ですね?」

ゲラゲラは解りやすいようにゆっくりと話してくれた。

俺は

「そ、そす!」

とか微妙に間違った日本語を使って返事をした。

ゲラゲラは次に、例の訳の解らない言葉で運転手のオッサンに何やら説明し始めた。

ゲラゲラ「とりあえず、これ、どうぞ」

俺は水をもらった。

俺は水を一気に飲み干した。

書き忘れたけど、ゲラゲラはひげもじゃでテンパでロン毛の油ぎっしゅなオッサンだった。

車はかなりのスピードで走ってた。

場所は都会の真ん中みたいで、今の日本とほとんど一緒だけど緑はほとんどなかった。

街はそれなりに活気があるらしく、大阪市を美化した感じだった。

車の中はラジオみたいなのが流れるんだが、何言ってるか全く解らない。

そのまま街道を抜けて高速っぽい道に入った。

ゲラゲラが

「察して、いる、と、思いますが、あなたは、今、追われて、います。ただ、もう、大丈夫、でしょう」

と言った。

水と走行中の車の時間でだいぶ日本語を思い出した。

俺「俺、追われてんですか?」

ゲラゲラ「そう、あなた、は、今…」

俺「あ、もう普通に話してもらって大丈夫ですよ」

ゲラゲラ「回復したようですね」

ゲラゲラはほっとしたようだった。

俺「で、俺はなんで追われてるんですか?」

ゲラゲラ「解っているとは思いますが、あなたはこの世界ではなく、異世界から来ましたね?」

俺「え?」

ゲラゲラ「京都のこちらの住所か、他のどこかからあなたは突然この世界に来た。違いますか?」

俺「いや、ちょっとよく分からないんですが」

ゲラゲラ「いいですか?この世界はあなたがいた世界ではないんです」

ゲラゲラ「同じ人間がいるにはいますが、言葉も通じないし、微妙に違った世界なんですよ」

ゲラゲラは色々と説明を始めた。

俺は詳しい原因は解らないが、別の世界に入ってしまったこと。

異世界からきた人間なので詳しく調査されたこと。

脳を弄られたりしたが、何とか元に戻したことなどを話してくれた。

とにかく元の世界に今から逃がすから、もうこの世界に来るきっかけになっただろう場所に行くな、そんな行動はするな、というようなことを言われた。

俺はマンションの中庭に入ったらこの世界に来たことを伝えた。

ゲラゲラは、だとしたらあなたはそのマンションに近づかないほうが良い、と言った。

おじいさんとおばあさんに泣き付かれたことも言った。

ゲラゲラは、恐らくだが何かあなたがこの世界に来たきっかけを作ってしまったのだろう、と言った。

子供に耳から手を突っ込まれたと言ったら、ゲラゲラはあれに関しては自分も解らないと語った。

他にも異世界について色々と教えてくれた。

まず、異世界は自分が元いた世界よりも文面が僅かに進んでいること。

異世界の人達は元いた世界を知っているということ。

異世界には、昔から亜人と呼ばれる、生まれながらに少し変わった人間がいること。

スーツを着ていた子供は恐らくこれだが、生まれてすぐに隔離される為、詳細は解らないとのこと。

今、異世界の人達は宇宙に行くように自分が元いた世界に行こうとしていること。

色々と説明してくれたが、中には理解できないものもあった。

俺はゲラゲラに、あなたは何者で、なぜ言葉が解るのかを聞いた。

ゲラゲラは、それは教えることはできないが、元の世界に帰らないというなら教えると言われた。

俺は迷わずに

「いや、それは」

と断った。

ゲラゲラ「私もあなたの世界の出身なんですよ」

とだけ教えてくれた。

車は高速を走って異世界の京都に入った。

異世界の京都南インターから京都(異)に入った。

看板なんかの文字は全く違うが、基本的な建物や地理は同じだった。

理由を聞くと、地球がそもそもなぜできたかとか説明されていまいち解らなかった。

ゲラゲラにマンションまで案内するよう言われ、俺はマンションへの道筋を指示した。

例のコンビニと花屋を抜け、やっと帰ってきた。

ゲラゲラは、今から私達が異世界のあなたを引き付けて部屋から出すので、その隙に中庭に入り、この世界に来た時と同じようなことをして下さい。

というようなことを言った。

ゲラゲラ達が俺の部屋のインターホンを鳴らすと、俺が出てきた。

そしてドアの間に足を入れ、結構無理矢理に俺を締め出した。

ゲラゲラはオッサン達に俺を任せると「早く!」ってな感じで一緒に中に入った。

俺は中に入って中庭に向かった。

中庭と部屋を繋ぐドアを閉めた途端、あのグルグル回る感覚がきた。

俺はそのままグルグルして気持ち悪いのを我慢しながら、元の世界に戻るのを待った。

気がつくと俺は元の世界、この世界の自分の部屋の中庭で倒れていた。

確認の為に空を見上げると普通の青で、濃すぎるということはない。

というか寒かった。

ワンピースみたいな病院着だから肌寒くて中に入ろとしたが、鍵がかかっていて入れなかった。

結局「助けてー!」みたいに叫んでいたら、上の住人が気付いて助けてくれた。

後はそのまま警察に保護され、病院に入院。

自分がどこで何をしていたのか説明するよう言われたが、身分証明書もないし、色々難儀した。

ようやく携帯電話が持てたので書き込んだ訳だ。

ゲラゲラからは他言しないように固く止められてるから全部は書けない。

本当に今でもあの体験は怖いし。

あと、例のおじいさんとおばあさんは、確証はないけどマンションのオーナーだと思う。

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