煙草
公開日: 不思議な体験
子供の頃、田舎のおじいちゃんの家で、ひと夏過ごした事がある。ある日、沢までわさびを取りに山の奥までおじいちゃんと行った時のこと。
季節は夏で、青々とした雑草やらシダやらがその細い道を覆っているが、町の人がその場所まで分け入ったあとがわかる道だった。
行きは30分くらいで沢まで着き、わさびを食べる分だけ取ってくる。
根わさびは、しょう油か味噌と混ぜ合わせて、熱々のごはんに乗っけて食べると格別の美味しさなんだけど、まぁそれは置いといて。
そろそろ帰ろうと元来た道を引き返した。でも1時間歩いても家に帰れない。
細い道を辿って来た道を戻っているのは分かる。道はちゃんと合ってる。目立つ木の位置も、群生してる花の位置もそのまま。
迷った?
でもそんな事ありえない、おじいちゃんは山歩きが趣味で、この辺りはいわば庭みたいなものだ。
おじいちゃんは、立ち止まって適当な木の下に腰を下ろした。
「心配すんな、こういうのはたまにある」
そう独り言をつぶやくと、煙草を一本吸い出した。
プカーと煙を吐き出し終わると、ドッコイショと言いながら立ち上がりまた歩き出した。
俺は、幼いながらも何だか釈然としない気分でいた。きっと変な顔をしていたんだろう。
おじいちゃんが俺に言った。
「煙を出すとちゃんと帰れるからな~」
その後、10分ほど歩いてちゃんと家に着いた。
煙草に「邪を祓う」効果があるってのは聞いたことある。
「こういうのはたまにある」と平然と言い放つじいちゃん、すげえ。怪異現象じゃなくて、日常なんだな。
水木しげるの本にあったムジナだったかな。化かされてると感じたら煙草に火をつけると、どこかで「ぎゃー」と叫び声がして、まわりが急に明るくなり家に帰れたとか。