ミチ

牛(フリー写真)

私の母の実家は一度、家が全焼してしまう大火事に遭いました。

当時住んでいたのは、寝たきりのおばあちゃんと、母の姉妹6人だけ。

皆が寝付いて暫く経った頃、お風呂を沸かすために使った薪の残り火が原因で出火。

寝ていたところを慌てて逃げたそうです。

外に逃げてみると、寝たきりのおばあちゃんがまだ中に居るのが判りました。

しかし既に家全体が炎に囲まれていて、とても助けに行ける状態ではなく、呆然と家を見ていました。

すると、寝たきりのはずのおばあちゃんが炎の中から飛び出して来たそうです。

家は焼けてしまいましたが、

「取り敢えず全員無事で良かった」

と話していると、おばあちゃんが飼っている牛の心配をし始めたのです。

牛小屋は燃えてしまっていて確認できる状態ではなかったのですが、母達は気休めに

「大丈夫」

と言ったそうです。

するとおばあちゃんは、

「ミチ(牛の名前)が炎の中から私を呼んで、背負って逃がしてくれたんよ」

と話し始めたそうです。

おばあちゃん曰く、寝ているとミチの鳴く声が聞こえて目が覚め、火事に気付いたものの歩けずに困っていると、ミチが歩いて来て、背中に乗って炎の中を歩いて来たと言うのです。

しかし、母達はおばあちゃんが牛の背中に乗って来たところは見ていません。

とは言え、おばあちゃんは寝たきりで、歩ける状態ではなかったのです。

火が消されて焼け跡を見てみると、家の傍にミチの姿はありません。

牛小屋は半分ほど焼けており、ミチだけが火傷を負って牛小屋で死んでしまっていました。

ミチが抜け出して助けてくれたのか、おばあちゃんがミチの魂を見て歩き出したのかは分かりません。

ただおばあちゃんは、ミチのおかげで命が救われたと思ったそうです。

関連記事

オオカミ様のお堂(宮大工1)

俺が宮大工見習いをしてた時の話。 大分仕事を覚えてきた時、普段は誰も居ない山奥の古神社の修繕をする仕事が入った。 だが親方や兄弟子は同時期に入ってきた地元の大神社の修繕で手…

登校する小学生(フリー写真)

モウキカナイデネ

この話を誰かに話す時、 「確かにその話、滅茶苦茶怖いけど、本当かよ?」 と言われる事がある。 霊が出て来るような話の方が、余程現実味があるからだ。 これは俺が実…

エレベーター

エレベーターと失われた時間

今日、不思議な体験をしました。 仕事が早く終わったので、行きつけのスナックで一杯飲むことにしました。 スナックが入っている雑居ビルのエレベーターに乗り、いつものように胸ポ…

満月(フリー写真)

姉の夢遊病

大叔母はその昔、夢遊病だったらしい。 もしくは狐憑きなのかも知れないが、取り敢えず夢遊病ということにして話を進める。 目が覚めると何故か川原に立っていたり、山の中にいたりと…

林

消えた時間と赤い蝶

小学2年生の頃、私と仲の良かったタケシと一緒に、学校の裏山へ虫採りに行った。その山は私たちの遊び場で、中規模の雑木林のような場所でした。私たちはその地形を隅から隅まで知り尽くしていま…

ドッペルゲンガー

弟のドッペルゲンガーを2回見た。 1回目は自分が3歳の時。 実家は庭を挟んで本宅と離れがあるんだが、庭の本宅寄りの場所で遊んでて、そこから家の中が見る事が出来た。 居間で母が…

高野山(フリー写真)

動物たちの宴会

私は仕事の関係で、アジア圏を中心に出張や短期駐在に行くことがあります。 こういう生活を続けるとかえって日本の風物が懐かしくなるもので、今の趣味が休日利用の温泉や神社仏閣巡りが中…

きよみちゃん

私が小学校三年生の時の話です。 そのころ、とても仲よしだった「きよみちゃん」という女の子がクラスにいました。 彼女と私は、学校が終わると、毎日のようにお互いの家を行き来して…

並行宇宙

亡くなったはずの転校生

幼稚園の頃、同級の子が車に撥ねられて死にました。 それから月日が経ち、小学校4年の時に、そいつが転校生として私のクラスにやって来たので面食らった。 幼稚園の時に同級だった内…

旧い店舗(フリー写真)

長年の友への激励

米屋の店先で長椅子に座っていた米屋のじいさんが、ガックリ肩を落としたような格好でタバコを吸っていた。 すると「随分しょぼくれてんなぁー!ボケが始まっちまったかぁ? あぁ?」と大…