マンデラ効果

玄関

これは私が中学生の頃、夏休みを目前に控えた、蒸し暑いある朝の出来事です。

朝食を終え、のんびりと準備を整えて玄関に向かいました。

スニーカーのつま先を土間にとんとんと叩きつけ、履き心地を調整しながら、私はいつものように引き戸を勢いよくガラガラと開けました。

すると、そこに広がっていたのは見慣れた家の外の景色ではなく、また玄関だったのです。

玄関を出たはずなのに、目の前には土間があり、さっきまで自分が立っていた玄関がそのまま存在していました。

驚いて振り返ると、そこにも玄関がありました。

私の家の玄関同士が、引き戸一枚で向かい合わせに繋がっている奇妙な状況になっていたのです。

私は状況が理解できず、心臓が早鐘のように打ち始めました。

遅刻するかもしれないという焦りと、訳がわからない不安が入り混じり、2つの土間を何度も行き来しながらどうすればいいかを必死に考えました。

やがて私は、とにかく玄関を一旦閉めてみようと思いました。

もう一度慎重に玄関を閉じ、深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから再び玄関を開けました。

今度こそ、そこにはいつも通りの家の外の景色が広がっていました。

安心して玄関を出た私は、急ぎ足で学校へ向かいました。

しかし、あの不思議な出来事以来、私はどうやら元々自分がいた世界とは少し違う場所に来てしまったようなのです。

なぜなら、私の記憶にない「里中」という名前の友人が当たり前のように存在していましたし、北海道という県がいつの間にか存在していました。

それだけではありません。

私が知っているひらがなに「む」「あ」「い」などという文字はありませんでしたし、信号の色は私の知っている赤・白・紫ではなく、赤・黄・青に変わっていました。

また、私の世界では中国・韓国・台湾・北朝鮮はひとつの国でしたし、ハワイは日本の領土として当たり前に地図に載っていたのです。

初めは戸惑いましたが、あの日以来、私はこの新しい世界に慣れてしまいました。

もう戻れないのだろうと思いつつも、時々玄関を開ける瞬間、あの日の不思議な体験をふと思い出すことがあります。

関連記事

森(フリー写真)

色彩の失われた世界

俺がまだ子供の頃、家の近所には深い森があった。 森の入り口付近は畑と墓場が点在する場所で、畦道の脇にはクヌギやクリの木に混ざって、卒塔婆や苔むした無縁仏が乱雑に並んでいた。 …

旅館(フリー素材)

お気遣い

私は趣味で写真を撮っています。 主に風景ばかりで、休みが取れた時は各地を回っているのですが、その時に宿泊した民宿での体験です。 ※ その日、九州の方に行っていたのですが、天候…

忌箱(長編)

これは高校3年の時の話。 俺の住んでた地方は田舎で、遊び場がなかったんで近所の廃神社が遊び場というか、溜まり場になってたんだよね。 そこへはいつも多い時は7人、少ない時は3…

幽霊船

これは、もう亡くなった曾祖父に聞いたお話です。 曾祖父が亡くなる数ヶ月前、どうしたことか、親戚を集めて色々な話を聞かせてくれたのです。 私の実家は鹿児島県のとある離島なんで…

庭に咲く花(フリー写真)

光る玉

私の母は私を産む前に二度流産しており、三度目(私)の時も、何度か駄目になりかけていたそうです。 妊娠4ヶ月頃の時も、やはり体調を崩して流産しかけたらしいのですが、その時、庭で二人…

わたしはここにいるよ

俺が小学生の頃の話。 俺が住んでいた町に廃墟があった。 2階建てのアパートみたいな建物で、壁がコンクリートでできていた。 ガラスがほとんど割れていて、壁も汚れてボロボ…

見えない壁

数年前の話。 当時中学生だった俺は雑誌の懸賞ハガキを出すために駅近くの郵便局に行く最中だった。 俺の住んでる地域は神奈川のほぼ辺境。最寄り駅からまっすぐ出ているような大通り…

秘密基地

サイキック少年

今から16年前、僕が小学4年生の頃の話です。 昔、秘密基地とか作りませんでしたか? 僕も友達(けんちゃん、としちゃん)と秘密基地を作り、学校帰りにいつもそこで遊んでいました…

刀(フリー素材)

霊刀の妖精(宮大工15)

俺と沙織の結婚式の時。 早くに父を亡くした俺と母を助け、とても力になってくれた叔父貴と久し振りに会う事ができた。 叔父貴は既に八十を超える高齢だが、山仕事と拳法で鍛えている…

森(フリー写真)

不思議な子供とおじいさん

20歳の頃だったか、まだ実家でプータローをやっていた時の話。 うちは物凄い田舎で、家のすぐ傍が森や山みたいな所だったのよ。 それで何もやる事がないし、家に居たら親がグチグチ…