命の恩人との再会
公開日: 不思議な体験
小学5年生の時の話をします。
ある日、通学路の交差点を渡っていると、右折車が横断中の俺を目がけて突っ込んで来た。
催眠術にかかったように体が動かず、突っ込んで来る車を呆然と見ていたら、
(あらぬ方向を見ているドライバーの顔まではっきり見えた)
後ろから突き飛ばされ、俺は難を逃れた。
しかし俺を突き飛ばしてくれた大学生は車に跳ね飛ばされた。
泣きながら近所の家に駆け込んで救急車と警察を呼んでもらい、自分は警察の事故処理係に出来る限り状況説明をした。
後日、警察から家に電話があり、大学生の入院先を教えてもらった。
俺は母親と見舞いへ行き御礼を言った。
※
中学1年生の時、父親の仕事の都合で同県内の市外(山の中)へと引っ越した俺は、そこで先生となっていた件の大学生と再会した。
お互いに驚き、再会を喜んだ。
そして3年間面倒を見てもらい、
(何せ田舎の分校なので、先生はずっと同じなのだ)
俺は中学を卒業し、高校進学と共に市内へ戻った。
※
やがて俺は地元の教育大学に進学した。
ある日、教育実習先の小学校へ向かう途中の交差点で、自分の前を渡っている小学生の女の子に右折車が突っ込もうとしているのを見た。
次にドライバーが携帯電話で喋りながら運転しているのが見えた。
スローモーションのように流れる情景に『嘘だろ…』と思いつつ、咄嗟に女の子を突き飛ばしたら、自分が跳ね飛ばされた。
コンクリートの地面に横たわって泣いている女の子を見ながら『あの時、先生もこんな景色を見たのかな…』と考えつつ意識を失った。
※
入院先に、俺が助けた女の子の親が見舞いにやって来た。
彼女の親は中学時代の恩師であり、俺の命の恩人その人だった。
「これで貸りは返せましたね」と俺が言うと、
「バカ…最初から、借りも貸しもないよ」と先生は言った。
ベットの周りのカーテンを閉め、俺たち二人は黙って泣いた。